重症熱性血小板減少症候群SFTSの診療実践

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、マダニ媒介を中心に動物・患者由来の体液曝露でも感染し得る高致死率感染症です。疑うべき臨床像、検査・届出、治療、院内感染対策を医療従事者向けに整理します。初療で見逃さないために何を確認すべきでしょうか?

重症熱性血小板減少症候群 SFTSの基礎知識と核心ガイド

SFTS診療で押さえる初動と安全対策
発熱と二系統血球減少を拾う

発熱、白血球減少、血小板減少、消化器症状を認めたら、刺咬歴が不明でもSFTSを鑑別に置く。

検査前から個室と曝露予防を開始

確定検査を待たず、個室管理と接触・飛沫予防策を行い、血液・体液曝露から職員を守る。

早期治療と重症化監視を両立する

支持療法を基盤に、適応を確認したファビピラビルを早期検討し、第7病日前後の臓器不全に備える。


SFTSとは何か:感染経路と国内での重要性


重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)は、SFTSウイルスによる人獣共通感染症です。主な感染経路は、ウイルスを保有するマダニの刺咬です。本邦ではフタトゲチマダニがヒト感染に主として関与すると考えられていますが、刺咬歴や刺咬痕が明瞭でない患者も少なくありません。刺咬痕は患者の約半数にしか認められないため、「マダニに刺された記憶がない」という問診回答だけでSFTSを除外してはなりません。潜伏期間はおよそ6~14日で、発熱、倦怠感、頭痛などから発症し、続いて悪心、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が出現しやすい疾患です。厚生労働省:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き2025年版


参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001229138.pdf
医療従事者が特に留意すべき点は、マダニ媒介感染症にとどまらないことです。SFTSを発症したネコやイヌ、患者、死亡直後の遺体の血液・体液への直接曝露を介した感染が報告されています。ネコでは唾液や尿を含む体液中にもウイルスが多量に存在し得るため、咬傷・掻傷がなくても診療やケアを通じた感染が起こり得ます。患者からの二次感染も、血液・体液への接触、心肺蘇生、侵襲的処置、死後処置などを契機に生じています。SFTSは感染症法上の4類感染症であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出る必要があります。国内では従来、西日本中心の発生と認識されていましたが、近年は東日本を推定感染地とする患者も報告されており、地域だけで鑑別から外すべきではありません。



疑うべき臨床像と鑑別診断の要点

SFTSを疑う起点は、「発熱+白血球減少+血小板減少」です。とくに春から秋に、野外活動、農作業、庭仕事、草むらへの立ち入り、野生動物の生息環境への曝露があり、消化器症状を伴う患者では強く意識します。ただし、季節性や明確なマダニ刺咬歴は必須条件ではありません。発症前2週間程度の行動歴に加え、発熱・黄疸・食欲低下・嘔吐などを呈したネコやイヌとの接触、獣医療・動物保護・畜産関連の曝露、SFTS患者または遺体の血液・体液への接触も系統的に確認してください。神奈川県:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について


参考)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について - 神奈川県ホ…
検査では、白血球減少、血小板減少、AST・ALT・LDH・CKの上昇が典型的です。フェリチン高値、尿蛋白、尿潜血、APTT延長も参考になります。CRPが基準範囲内または軽度上昇にとどまることが多い一方、細菌・真菌の二次感染を合併すればCRPは上昇し得ます。そのため、「高熱なのにCRPが上がらず、血球が減少する」という乖離は重要な手掛かりですが、CRP高値のみで否定しないことが実務上重要です。末梢血にB細胞由来の異型リンパ球を認めることもあります。


項目 基準・内容 備考
疫学的手掛かり 野外活動、マダニ刺咬、発症動物との接触、患者・遺体の体液曝露 刺咬痕や明確な刺咬歴がなくても除外しない
主要な臨床所見 38℃以上の発熱、白血球減少、血小板減少、倦怠感、消化器症状 意識障害、出血傾向は重症化を示唆する
検査の特徴 AST、ALT、LDH、CK、フェリチン上昇、尿潜血、APTT延長 CRPは正常~軽度上昇のことが多い
重要な鑑別 日本紅斑熱、つつが虫病、敗血症、血球貪食症候群、TTP、急性白血病 リケッチア症が疑われる場合は治療遅延を避ける
確定検査 PCRによる病原体遺伝子検出、または血清学的検査 最寄りの保健所に相談し行政検査を依頼する

鑑別では、同じくダニ媒介疾患である日本紅斑熱やつつが虫病が重要です。日本紅斑熱では発疹、刺し口、炎症反応高値を伴うことが多い一方、SFTSでは全身性皮疹を認めないことが多く、白血球減少とCRP低値が診断の手掛かりになります。ただし、臨床所見の重なりは大きく、初診時に単一疾患へ固定することは危険です。重症細菌感染症、ウイルス関連血球貪食症候群、急性白血病・悪性リンパ腫、TTP、HUS、海外渡航歴があればデング熱、マラリア、エーリキア症なども臨床文脈に応じて評価します。



検査依頼・届出と初療時の感染対策

SFTSが鑑別の上位に入った段階で、確定検査の結果を待たずに感染対策を始めます。患者は原則として個室に収容し、接触予防策と飛沫予防策を実施します。陰圧室は必須ではありませんが、血液・体液曝露の多い重症患者、出血、嘔吐、下痢、呼吸器分泌物を伴う患者では、ケアの動線、廃棄物、検体運搬、PPEの着脱手順を含めた施設内運用の整備が必要です。重症患者では血液に加えて尿、便、呼吸器分泌物にもウイルスが検出されることがあるため、標準予防策のみで十分と判断せず、曝露機会を最小化する設計を行います。


  • 疑い時点で、野外活動歴、マダニ刺咬歴、発症動物との接触、患者・遺体の体液曝露歴を確認する
  • 個室管理を開始し、手袋、ガウン、サージカルマスク、アイガードを基本とする
  • 重症患者のケアでは、血液・体液飛散を想定して二重手袋とエプロンの追加を検討する
  • 気管挿管、吸引、心肺蘇生などエアロゾル発生手技ではN95マスクを使用する
  • 最寄りの保健所へ相談し、血液や尿などを用いたPCR等の行政検査を依頼する
  • 確定診断時は4類感染症として直ちに発生届を提出する

検体の前処理、とくに遠心分離などエアロゾル発生リスクのある操作では、適切なPPEを装着し、安全キャビネット内での実施を検討します。閉鎖式の血球計数装置は通常どおり使用可能とされていますが、採取・運搬・廃棄までの全過程で曝露防止を徹底してください。血液・体液曝露が起きた場合は、直ちに流水と石けんで洗浄し、粘膜曝露の場合も速やかに洗浄します。その後、院内感染対策部門へ報告し、曝露者は14日間、毎日の体温および症状観察を行います。観察期間中に発熱などが出現すれば、SFTS疑い例として保健所と連携し、速やかに検査と診療を進めます。



治療の基本:支持療法、ファビピラビル、重症管理

SFTSの診療は、早期の重症度評価、支持療法、合併症の監視と治療を同時に進めることが原則です。高齢者、基礎疾患を有する患者、出血症状、意識障害、急性腎障害、ショック、多臓器障害を伴う患者は入院管理が望ましく、集中治療が提供可能で感染対策が整った施設への転院・搬送も早期に検討します。第7病日前後は臓器不全を合併しやすい時期であり、バイタルサイン、意識状態、出血所見、血算、凝固系、腎肝機能、LDH、CK、フェリチン、尿所見を反復評価します。


本邦では、抗ウイルス薬ファビピラビルが2024年6月にSFTSに対して承認されました。症状がすでに軽快している場合を除き、禁忌やリスクを確認したうえで、できるだけ早期の投与を検討します。成人の標準用法・用量は、1日目に1回1,800mgを1日2回、2日目から10日目まで1回800mgを1日2回、合計10日間の経口投与です。経口投与が難しい場合でも、粉砕・簡易懸濁法や経鼻胃管投与に関する情報があります。処方には適正使用体制が求められるため、各施設の登録・研修要件、最新の電子添文、RMP資材を確認してください。


ファビピラビルは催奇形性リスクを有するため、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与禁忌です。妊娠可能な女性では投与前の妊娠検査、十分な説明、投与中および投与終了後10日間の確実な避妊が必要です。尿酸値上昇、下痢、高トリグリセリド血症、肝機能検査値上昇、血球減少、発疹などを念頭に置き、尿酸値、肝機能、脂質、血算を含むモニタリングを行います。解熱鎮痛薬は抗血小板作用のないアセトアミノフェンが推奨され、血小板減少や出血傾向を有する症例ではNSAIDsの使用を避ける判断が重要です。



重症化徴候とチームで行う合併症対応

重症SFTSでは、血球貪食症候群、急性脳症、出血傾向・消化管出血、細菌・真菌による菌血症、侵襲性肺アスペルギルス症、急性腎障害、心機能障害・心筋炎、横紋筋融解症など、多彩な合併症を来します。死亡リスクを高める因子としては、高齢、悪性腫瘍、意識障害、出血症状、急性腎障害、ショック、多臓器不全、高ウイルス量、高度の血小板減少、APTTの高度延長、Dダイマー高値、プロカルシトニン高値などが挙げられています。病状の悪化を「SFTSそのものの進行」とのみ捉えず、二次感染、出血性合併症、HLH様病態、臓器障害を並行して検索する姿勢が重要です。


血球貪食症候群が疑われる場合は、発熱、血球減少、フェリチン著増、トリグリセリド、フィブリノゲン、可溶性IL-2受容体、骨髄所見などを総合的に評価し、早期に血液内科へ相談します。ステロイドを含む免疫抑制・調節療法については、SFTSに対して一律に有効性・安全性が確立したものではありません。早期・軽症例への漫然投与は利益より不利益が上回る可能性も指摘されており、血球貪食症候群や脳症など、個別の病態・重症度に基づいて専門科と慎重に判断します。


二次性の細菌・真菌感染症は重症例の転帰に大きく影響します。臨床的悪化、循環不全、呼吸状態の悪化、炎症反応の再上昇、画像異常がある場合は、血液培養を含む微生物学的検査を速やかに行い、敗血症診療に準じた輸液、昇圧薬、臓器補助とともに、状況に応じて経験的抗菌薬・抗真菌薬を開始します。呼吸不全の急速な進行や結節影、空洞影、halo sign、アスペルギルス抗原・β-D-グルカン陽性などを認めた場合は、侵襲性肺アスペルギルス症を強く疑います。SFTSは稀少疾患であっても、初療の段階で「発熱、消化器症状、二系統血球減少、曝露歴、CRPとの乖離」を一つの症候群として認識し、感染症科、救急・集中治療、血液内科、検査部、感染制御部、保健所が連携することが、患者予後と職業感染防止の双方に直結します。





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