多血症は日常診療では、赤血球数、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値が性別・年齢に応じた基準範囲を超えている状態を指して用いられます。ただし、厳密には赤血球量そのものが増えている絶対的赤血球増加症と、血漿量が減少して見かけ上濃縮されている相対的赤血球増加症を区別する必要があります。採血時の一過性の脱水だけで「多血症」と断定せず、過去データ、再検、赤血球指数、臨床背景を統合して評価する姿勢が重要です。
真性多血症を疑う際のWHO・ICCに基づく赤血球増加の目安として、女性ではヘモグロビン16.0 g/dL超、またはヘマトクリット48%超が用いられます。ただし、これは真性多血症を確定する単独の数値ではありません。女性では月経、妊娠・産褥、鉄欠乏、体格、血漿量の変動などが数値の解釈に影響します。特に鉄欠乏が並存すると小球性赤血球増加を呈し、ヘモグロビンやヘマトクリットが明瞭に上昇しない「masked PV」が問題となり得ます。赤血球数、MCV、フェリチン、血小板数、白血球数を併せて確認することが大切です。
参考)https://www.cmaj.ca/content/192/32/e913
なお、多血症という言葉は真性多血症のみを指すものではありません。実臨床では、まず「相対的変化か」「二次性赤血球増加症か」「骨髄増殖性腫瘍による真性多血症か」という三層構造で考えると、女性患者における原因検索と紹介判断を整理しやすくなります。
女性の多血症の原因は、相対的赤血球増加症、低酸素に起因する二次性赤血球増加症、腎・腫瘍性病変などによるEPO過剰、薬剤性、先天性、そして真性多血症に大別できます。頻度としては二次性赤血球増加症のほうが真性多血症より一般的であり、いきなり骨髄疾患と決めつけず、病歴、生活歴、酸素化、腎・肝所見を系統的に評価します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 相対的赤血球増加症 | 血漿量低下による濃縮。嘔吐、下痢、発熱、発汗、利尿薬、摂取不足などが契機となる。 | 再水和後の再検と、以前のCBCとの比較が重要。 |
| 低酸素性の二次性赤血球増加症 | 喫煙、一酸化炭素曝露、睡眠時無呼吸症候群、慢性肺疾患、右左シャント、高地居住など。 | 日中SpO2が正常でも、睡眠時無呼吸や喫煙関連COHbを否定できない。 |
| 腎性・EPO産生性の原因 | 腎動脈狭窄、水腎症、腎嚢胞性疾患、腎細胞癌、肝細胞癌などでEPO上昇を来し得る。 | 腹部所見、腎機能、尿所見、必要に応じ画像評価を行う。 |
| 婦人科領域の原因 | 子宮筋腫はまれにEPO産生と関連し、赤血球増加症の鑑別に含まれる。 | 骨盤内腫瘤、月経歴、婦人科画像の情報を確認する。 |
| 薬剤性・外因性 | テストステロン、アンドロゲン、エリスロポエチン製剤など。 | 性別を問わず、処方薬、自己注射、サプリメントを具体的に聴取する。 |
| 真性多血症 | JAK2変異を背景とする骨髄増殖性腫瘍。赤血球のみならず白血球・血小板の増加を伴うことがある。 | 低EPO、JAK2変異、骨髄所見を組み合わせて診断する。 |
女性においては、子宮筋腫がEPO産生性病変として鑑別に入る点、妊娠を希望する場合や妊娠中の真性多血症では治療選択・血栓予防が個別化される点に注意が必要です。また、女性であっても睡眠時無呼吸、喫煙、慢性呼吸器疾患、腎疾患は十分に起こり得ます。性別イメージだけで原因の優先順位を狭めないことが求められます。
真性多血症はJAK2変異を中心とするクローン性骨髄増殖性腫瘍であり、血液粘稠度の上昇や細胞増殖に伴って、頭痛、めまい、倦怠感、視覚異常、顔面紅潮、息切れ、四肢の灼熱痛・発赤、脾腫、血栓症などを来します。温水浴や入浴を契機に生じる水誘発性掻痒は特徴的な症状の一つです。症状が非特異的であるため、更年期症状、片頭痛、貧血の回復過程、不眠、ストレスなどとして扱われることもあり、持続するCBC異常を見落とさないことが大切です。
女性では鉄欠乏が同居しやすく、鉄欠乏による小球性変化がヘモグロビンの上昇を目立たなくする可能性があります。MCV低値、フェリチン低値、赤血球数増加、血小板増加の組み合わせでは、単純な鉄欠乏性貧血や反応性血小板増多だけで説明できるかを再評価します。鉄補充の適応自体は患者の状態に依存しますが、真性多血症が疑われる場合には、安易な鉄補充により赤血球増加が顕在化し得るため、血液内科と連携して方針を決めることが望まれます。
とくにBudd-Chiari症候群など肝静脈系の血栓症は、若年~中年女性における真性多血症の重要な手掛かりとなり得ます。ヘマトクリットが明らかに高くない場合でも、血栓症の部位や血球計数の推移から骨髄増殖性腫瘍を疑い、JAK2検査を含む精査を検討します。
多血症の評価では、まず採血条件と持続性を確認し、CBC分画、末梢血塗抹、MCV、フェリチン、腎機能、肝機能などを評価します。脱水や利尿薬、急性疾患が疑われる場合は、循環血漿量の回復後に再検することが実用的です。血小板増加・白血球増加、脾腫、掻痒、血栓症、持続的な赤血球増加があれば、真性多血症の事前確率が上がります。
二次性原因の検索では、喫煙歴だけでなく加熱式たばこを含む使用状況、一酸化炭素曝露、いびき・日中傾眠・無呼吸の指摘、呼吸器・心疾患、高地滞在、服薬歴、腎疾患、腹部症状を確認します。SpO2が92%未満であれば低酸素性心肺疾患を示唆しますが、睡眠時無呼吸、喫煙に伴うカルボキシヘモグロビン血症、高酸素親和性ヘモグロビンでは外来時のパルスオキシメトリーが正常または見かけ上高値となり得ます。臨床像に応じて夜間オキシメトリー、睡眠検査、肺機能検査、血液ガス・COHb、心エコー、腹部画像へ進めます。
血清EPOは一次性と二次性の鑑別に有用です。EPO低値は真性多血症を支持し、高値は二次性赤血球増加症を支持しますが、単独で確定診断はできません。真性多血症が疑われる場合にはJAK2 V617F変異を検査し、陰性でEPO低値または低正常、かつ二次性原因が乏しい場合にはJAK2 exon 12変異検査や骨髄検査を含めて血液内科で評価します。WHO診断では、女性のヘモグロビン16.0 g/dL超またはヘマトクリット48%超などの赤血球増加、骨髄の汎骨髄増殖、JAK2変異を主要所見とし、低EPOが副次所見です。
相対的赤血球増加症では、原因となる脱水、消化管からの体液喪失、利尿薬、摂取不良などを是正し、再評価します。二次性赤血球増加症では赤血球数を機械的に下げることが主目的ではなく、低酸素、睡眠時無呼吸、喫煙、心肺疾患、腎疾患、EPO産生性腫瘍、薬剤といった基礎原因の是正が中心となります。二次性赤血球増加症に対する瀉血は一律に行うものではなく、症候性高粘稠度や病態に応じて専門的に判断されます。
真性多血症では、血栓症の予防と症状軽減が治療の中心です。一般に低用量アスピリンと瀉血によるヘマトクリット管理が基本となり、年齢、血栓症既往、症状、血球増加の程度、妊娠希望などを踏まえて細胞減少療法を検討します。真性多血症の治療内容は出血リスク、併用抗凝固薬、妊娠・妊孕性、合併症で変わるため、診断後は血液内科主導の個別管理が不可欠です。
緊急性を要するのは、突然の片麻痺・失語・意識障害、急な視力低下、胸痛・呼吸困難、片側下肢の腫脹と疼痛、激しい腹痛、肝腫大や腹水を伴う症状など、動脈・静脈血栓症を疑う状況です。これらがある場合は外来で経過観察せず、迅速な救急評価につなげます。また、持続する女性の赤血球増加に低EPO、JAK2陽性、原因不明の血小板・白血球増加、脾腫、非典型部位の血栓症が加わる場合は、血液内科への早期紹介が妥当です。女性の多血症は「貧血になりやすい性別だから真性多血症ではない」と考えず、鉄欠乏によるマスク、婦人科疾患、妊娠関連の課題も含めて、原因に沿った精査を進めることが重要です。