
医療保険制度を理解する上で、保険者と被保険者の違いを正確に把握することは必須です。健康保険法第2条では、保険者を「保険契約の当事者のうち、保険給付を行う義務を負う者」と定義しています 。一方、被保険者は「適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者」と規定されており、医療保険に加入している本人を指します 。
具体的な役割分担を見ると、保険者は以下の業務を担っています :
参考)保険者
このように、保険者は医療保険制度の運営・実施主体として、保険料の徴収から保険給付までの一連の業務を担っています 。被保険者は、これらの給付を受ける権利を有する加入者という位置付けになります 。
参考)https://www.med.or.jp/insura/term/index.html
被保険者の資格は、就職した日から発生し(資格取得)、退職または死亡した日の翌日、75歳の誕生日に失います(資格喪失)。この資格の取得及び喪失は、「保険者等」(厚生労働大臣または健康保険組合)の確認によって、その効力を生じます 。
参考)保険者と被保険者 – 日本製紙健康保険組合
資格取得の手続きとしては、事業主が被保険者資格取得届を提出します。被保険者資格は本人の意思に関係なく、適用事業所に使用されることで自動的に発生します(強制適用)。一方、資格喪失の手続きは以下の通りです:
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-hellowork/content/contents/002488889.pdf
この資格の得喪管理は、医療機関における患者の保険証確認や、レセプト請求の適正性に直結する重要なプロセスです。資格喪失後の診療に対して保険請求を行うことはできないため、医療事務担当者には正確な資格確認が求められます。
日本の医療保険制度には、主に健康保険(社会保険)と国民健康保険の2種類があります。それぞれの制度における保険者と被保険者の関係は以下の通りです :
| 項目 | 健康保険(社会保険) | 国民健康保険 |
|---|---|---|
| 保険者 | 全国健康保険協会(協会けんぽ)、健康保険組合 | 市区町村、都道府県、国民健康保険組合 |
| 被保険者 | 事業主に雇用されて働く74歳までの正社員および一定の要件を満たす短時間労働者 | 健康保険に加入できない74歳以下の人(個人事業主、無職等) |
| 保険料計算 | 給与額に応じて決まる「標準報酬月額」にもとづき、事業主と従業員が折半 | 前年の所得に応じて世帯単位で算出。被扶養者の概念がないため世帯全員に保険料が発生 |
| 扶養制度 | 被扶養者の保険料納付は不要 | 扶養という概念がなく、世帯人数分の加入が必要 |
特に注目すべきは、国民健康保険では「世帯主も、家族も、一人ひとりが皆被保険者」であるという点です 。これは健康保険の被扶養者制度とは大きく異なる特徴で、医療機関の窓口で患者の保険証を確認する際に、どの制度に加入しているかによって扱いが異なることを理解しておく必要があります。
参考)保険者・被保険者の違いを知りたい。(FAQID-3935)|…
また、平成30年4月から国民健康保険の保険者は都道府県が市町村とともに財政運営の責任を担うようになりました 。この制度改革により、都道府県レベルでの財政基盤の強化が図られています。
参考)富山県/保険者と被保険者
医療事務実務において、保険者と被保険者の違いを理解することは、適正なレセプト請求に不可欠です。診療報酬明細書(レセプト)は、医療機関が保険者に診療報酬を請求するための書類であり、審査支払機関を経由して保険者に提出されます 。
参考)https://stories.jmdc.co.jp/blog/2310-1
請求の流れは以下の通りです:
このプロセスにおいて、被保険者の資格確認が不十分だと、請求後に返戻や減額となるリスクがあります。特に注意すべき点は:
医療機関が発行するレセプトは、保険者が点検・確認を行い、保険給付分を支払うため、正確な被保険者情報の記載が求められます 。誤った情報で請求すると、後日訂正請求が必要となり、医療機関の事務負担が増加します。
医療保険だけでなく、日本の社会保険制度全体を見渡すと、保険者と被保険者の関係はさらに複雑になります。社会保険には、医療保険の他に年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険の5種類があります 。
各制度の保険者は以下の通りです :
このように、年金制度や雇用保険、労災保険は国全体で統一して運用すべきものなので「政府」が保険者になっています 。一方、医療保険と介護保険は、その地域の病院や介護施設など地域に根差した運営が必要なので、保険者は政府ではなく地方自治体や健康保険組合となっています。
被保険者とは、その保険の加入対象になっている人を指します 。医療保険の被保険者が病気やケガに対する保障を受けるのに対し、年金保険の被保険者は老後の所得保障を受けるという違いがあります。ただし、多くの労働者は複数の社会保険制度の被保険者として同時に加入しているため、医療機関では患者がどの制度に加入しているかを正確に把握することが重要です。
特に、国民健康保険と後期高齢者医療制度の関係では、75歳以上の高齢者は後期高齢者医療制度の被保険者となり、国民健康保険の被保険者資格を喪失します。この移行に伴い、保険者も市区町村から都道府県に移行するため、医療機関では患者の年齢と保険証の種類を正確に確認する必要があります。
医療従事者として知っておくべき意外な事実として、国民健康保険では「他の医療保険制度の加入者や生活保護受給者等は適用除外となる」という点が挙げられます 。これは、国民皆保険制度の下で、重複加入を防ぐための規定です。
参考)https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/050600/kokuho/kishukokuho/d00206381_d/fil/5_H30.pdf
また、健康保険の被保険者には、以下の4種類があります :
この中で、任意継続被保険者と特例退職被保険者は、退職後に自ら申請して加入する特別なカテゴリーです。これらの被保険者は、保険料の全額を自己負担するため、一般の被保険者とは保険料の計算方法が異なります。
さらに、被保険者資格の確認は、保険者等の確認によって効力を生じるため、事業主の届出が適切に行われていない場合、実際に働いている日と被保険者資格の取得日にズレが生じる可能性があります 。このため、医療機関では患者の保険証の有効期限だけでなく、資格取得日・喪失日も確認することが望ましいです。
参考)健康保険法 資格の得喪の確認 - ソリューション行政書士法人
参考:健康保険法の全文は厚生労働省の公式サイトで確認できます。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84024000&dataType=0&pageNo=1
参考:国民健康保険の用語解説は各自治体の公式サイトで確認できます。
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/050600/kokuho/kishukokuho/d00206381_d/fil/5_H30.pdf