
平均値(算術平均)は、すべての観測値の合計をデータ数で割った値であり、式で書けば「平均値=合計÷データ数」と非常に直感的です。
参考)https://www.pref.kyoto.jp/tokei/monthly/tokeikyoto/tk2011/tkroom201106.pdf
中央値は、データを昇順に並べたときに真ん中に位置する値で、データ数が奇数なら中央の1点、偶数なら中央付近2点の平均として定義されます。
参考)平均値と中央値の違い
このケースでは、一人だけ極端に長期入院(90日)の患者がいるため、平均入院日数23.8日は多くの患者の実感から大きく離れており、「典型的な患者像」を示す指標としては必ずしも適切とは言えません。
このように平均値は、データ全体の「重心」を示す一方、中央値は「真ん中の人」を示す指標であり、両者の差は分布の偏りや外れ値の存在を反映します。
参考)なんでも平均でいいの?中央値と平均値をどう使い分けるか
医療統計では、年収や医療費、入院日数、フォローアップ期間など歪んだ分布をとりやすい指標では中央値が好まれ、血圧や身長など比較的正規分布に近い指標では平均値がよく用いられます。
参考)平均値・中央値・最頻値の違いとは?データ分析での使い分けと注…
代表値は平均値・中央値・最頻値(もっとも頻度の高い値)など複数存在し、それぞれの特徴を理解したうえで、目的に応じて使い分けることがデータの正しい解釈につながります。
参考)https://www.e-coms.co.jp/column/mean_and_median
医療現場では、重症患者や極端な高額医療費の患者が分布の端に存在しやすく、平均値だけを見ると「患者全体が重症化している」「医療費が急激に増大している」と誤解されるリスクがあります。
先ほどの例を少し変えて、入院日数の最大値を90日ではなく450日にしても、中央値は「8日」でまったく変わりませんが、平均値は「(5+7+8+9+450)÷5=95.8日」と大きく変動します。
中央値はこうした「現場感覚」とのズレを避けやすく、患者への説明や病棟の運営指標として「典型的な患者像」を示したい場面で有用な選択肢になります。
一方で、中央値にも弱点があります。中央値はあくまで「順位上の真ん中の1点」であり、データ全体の分散や、極端な値がどれだけ存在するかといった情報を直接は教えてくれません。
例えば、フォローアップ期間の中央値が「24か月」と報告されていても、「短期追跡例が半数近く含まれているのか」「ごく一部が極端に長期追跡なのか」は、中央値だけでは判別できないことがあります。
そのため、医療統計では平均値や標準偏差(SD)、四分位範囲(IQR: 25〜75パーセンタイル)などを併記し、「外れ値の影響を受けやすい指標」と「ロバストな指標」を組み合わせて判断することが推奨されています。
データの分布がほぼ左右対称で外れ値が少ない場合には、平均値と中央値はほぼ同じ値になり、どちらを用いても大きな解釈の違いは生じません。
参考)【中1数学】「「平均値」と「中央値」」
しかし、年収や資産、医療費など「右に長い裾を持つ分布」では、平均値は中央値より高くなりやすく、中央値を併記しないと「典型的な患者」や「標準的な負担感」を正確に把握できないことが多い点に注意が必要です。
例えば、血圧・脈拍・身長・体重など、概ね正規分布(左右対称)に近い生体計測値では、「平均値±標準偏差(SD)」で要約することが多く、平均値の方が分布の重心をうまく表現します。
海外ジャーナルでも、連続変数を「平均値±SD」で報告するか「中央値(IQR)」で報告するかは、データの正規性検定や外れ値の存在によって選択されることが一般的です。
例えば、ある化学療法レジメンの「副作用発現までの日数」が歪んだ分布を示す場合、中央値(IQR)の方が「多くの患者がどのくらいで副作用を経験するか」をより直感的に伝えやすくなります。
逆に、平均値だけで報告した場合、少数の極端な早期発現例や極端な遅延例が「平均」を引きずってしまい、本来の典型的な患者像から乖離した印象を与えるリスクがあります。
平均値と中央値の違いを理解していないと、患者への説明や院内の報告書で、意図せず誤解を招いてしまうことがあります。
参考)平均値と中央値の違いを知らないとデータを見誤る|荒川 明夫 …
このような場合、「中央値は14日で、半数以上の患者さんは2週間以内に退院しています。一部の患者さんは病状により長期入院となるため、平均値は30日と長く見えています」と説明した方が、患者の不安を軽減しやすくなります。
院内カンファレンスや経営会議でも、「平均手術時間が延びている」という報告だけでは、外れ値の影響か全体的な効率低下なのかが判別しづらく、対応策を誤る可能性があります。
平均値と中央値の両方を示し、「中央値はほぼ変化していないが、極端に長い手術が増えている」「中央値が延びており、全体の手術時間が徐々に増加傾向にある」など、状況に応じた解釈を共有することで、より適切な改善策を検討できます。
さらに、患者満足度スコアやアンケート結果でも、極端に低い評価や高い評価が平均値を動かすことがあり、中央値や最頻値を併用することで「典型的な評価」がどこにあるかを把握しやすくなります。
また、スタッフ教育では、具体的な数値例を用いて「同じデータでも平均値と中央値のどちらを使うかで印象が変わる」ことを体感してもらうと、現場での指標選びや患者説明に対する感度が高まります。
論文の統計セクションやガイドラインの図表では、「平均値±標準偏差」か「中央値(四分位範囲)」かによって、著者がデータをどう捉えているかを読み取ることができます。
例えば、あるRCTのベースライン特性において、年齢が「平均値±SD」で報告されている一方、CRP値が「中央値(IQR)」で報告されている場合、著者は年齢分布を比較的正規分布に近いとみなしている一方、CRP値の分布は大きく歪んでいると認識している可能性があります。
さらに、予後予測モデルやスコアリングシステムの評価では、「平均予測値」と「観測値の中央値」を比較することで、モデルがどの領域で過大・過小評価をしているかを検討する余地もあります。
例えば、ICU入室患者の死亡リスクモデルにおいて、予測リスクの平均値が高いのに対し、観測された死亡率の中央値が低い場合、特定の高リスク症例に予測が集中している可能性や、モデルが重症例を過大評価している可能性が考えられます。
また、EBMの現場では、メタアナリシスで報告される「平均差」と、個別研究の「中央値報告」が混在することがあります。このとき、中央値ベースの結果を平均値ベースのメタ解析に取り込む際には、分布の仮定や変換方法に注意が必要です。
重度の歪みを持つアウトカム(入院日数や費用など)について、平均値ベースの要約統計を機械的に適用すると、統合された効果量が「典型患者」の経験と乖離してしまうこともあり、中央値や分位点分析を用いる代替的アプローチが検討されています。
医療統計の基礎的な説明として、代表値や分布の歪みについて整理した日本語の資料が公開されています。
京都府「平均値と中央値」:代表値の意味と平均値と中央値の違いを図示しながら解説している統計入門資料
平均値と中央値の違いを丁寧に解説し、マーケティングやビジネスでの使い分けに触れている解説記事も、医療統計を日常的な感覚から理解する助けになります。
cacco「なんでも平均でいいの?中央値と平均値をどう使い分けるか」:平均値・中央値・最頻値の特徴と使い分けを整理した日本語のデータサイエンス記事
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