不適応(ふてきおう)とは、環境・状況・条件などに適応できないことを意味する用語です。 心理学および精神医学の領域では、特に適応に失敗して心身に好ましくない状態が生じていることを指し、健康障害や心理的・社会的・職業的機能の低下ないし不全となった状態として定義されます。
より具体的には、外的環境(自然的環境と社会的環境)および個人の精神内界に適応する行動が十分取れず、本人または社会になんらかの不利益が生じている状態です。 適応のプロセスは生理と心理の両側面で生じ、個人の部分から全人格までが含まれるため、不適応もそれらすべての領域において生じると考えられています。
臨床上問題とされるもののほとんどは、社会的環境(家庭、学校、職場、地域社会など)における不適応であり、外的適応(社会文化的基準に照らして、他者と協調し、社会的に受け入れられている状態)と内的適応(自分の内的な価値基準や要求水準に照らして、自己受容や自己実現がなされている状態)の両側面から評価されます。
不適応を評価する際には、複数の基準が用いられます。まず適応(機能)的基準では、所属する社会に適応している状態か、社会生活が円滑にできなくなった状態かを判断します。 価値的基準(規範/逸脱)では、判断のための理念体系に基づく規範があり、その規範の許容範囲内で行動している状態か、その規範から逸脱している状態かを評価します。
参考)https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/9683/12_4.pdf
統計(平均)的基準では、集団の中で平均に近い標準的状態か、平均から偏奇の度合いが強い状態かを判断します。 病理(医学)的基準では、病理学に基づく医学的判断により、健康と判断された場合か疾病と診断された場合かを評価します。 これらの基準に基づき、病理を排除しないものの病理には限定されない、より広い意味での心理的問題が援助対象とされます。
不適応反応は、ICD-9では不適応反応として、DSM-III以降では適応障害(Adjustment Disorder)として定義されるようになりました。 DSM-5における適応障害の診断基準は以下の通りです:A.特定可能な心理社会的ストレス因に対する不適応反応であり、ストレス因の作用開始後、3か月以内に生じる。
B.反応の不適応的な特性は、以下のいずれかによって示される:(1)対人的あるいは職業的機能の障害、(2)症状はそのストレス因への反応として正常で予想できる範囲を超えている。 D.ストレス因が終結するか、持続している場合、新たなレベルの適応に到達されたら、その障害は終わる。 E.その障害は他の特定の精神障害や正常な悲嘆の診断基準を満たさない。
ICD-11では、適応障害の診断に「ストレス因やその結果へのとらわれ」が必須の症状として位置づけられています。 具体的には、「過度の心配」「ストレス因子についての反復的で苦痛な思考」「ストレス因子の影響についての絶えない反芻」の3つが「とらわれ」を示すものとして挙げられています。 また、ICD-11では発症時期が「ストレス因から1か月以内」と、DSM-5(3か月以内)より厳格です。
参考)適応障害の診断とは?診断基準から診断の流れ、うつ病との違いま…
| 評価項目 | DSM-5基準 | ICD-11基準 |
|---|---|---|
| 発症時期 | ストレス因から3か月以内 | ストレス因から1か月以内 |
| 中核症状 | 機能障害または予測を超える苦痛 | とらわれ+適応の失敗による機能障害(両方必要) |
| 症状持続 | ストレス因終了後6か月以内に軽快 | 通常6か月以内に消退(持続場合は例外) |
| 除外診断 | 他の精神疾患・正常な悲嘆反応 | 他の精神障害・行動障害 |
医療現場では、「不適応」という用語が複数の文脈で用いられます。精神医学的診断としての不適応反応・適応障害のほか、薬物療法の文脈では「適応外使用」という概念があります。 適応外使用とは、すでに国内で承認されている医薬品を、承認内容の範囲外、すなわち添付文書に記載されている効能・効果、用法・用量の範囲外で使用することを指します。
医薬品及び医療機器は、法律(医薬品医療機器等法)に基づいて厚生労働省で承認された方法で使用することが求められており、その内容は添付文書に記載されています。 しかし、治療の必要上、承認内容とは必ずしも一致しない方法で使用すること(適応外使用)もあります。 特にがん治療の領域では、エビデンスに基づき適応外使用が行われるケースがあり、各医療機関で審議依頼や倫理審査のプロセスが整備されています。
このように、「不適応」という用語は、精神医学的診断(患者の環境適応の失敗)と薬物療法の文脈(承認範囲外の使用)で全く異なる意味を持ちます。 医療従事者は、文脈を正しく読み取り、適切な解釈と対応を行う必要があります。
不適応状態への臨床的アプローチでは、まず何が不適応の原因になっているのかを明らかにすることが重要です。 特定された原因の除去に努め、個人の側に課題があれば、課題を克服するための方法を考えることになります。 こうした一連のことを心理療法として行い、必要に応じて、抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法を行うこともあります。
参考)適応障害
適応障害や不適応状態の治療では、ストレス要因の始まりから3か月以内に情緒面または行動面の症状が出現していることを確認し、これらの症状や行動が臨床的に意味のあるものであるかを評価します。 社会的または職業的、その他の重要な機能領域における著しい障害があるか、ストレス因に対して不釣り合いな著しい苦痛があるかを判断します。
参考)適応障害の診断基準とは?医師が診断書を出す条件と休職の必要性…
症状が一過性であり、ストレス因の開始から約6か月以内に自然軽快する傾向があることも考慮します(ただしストレス因が持続する場合は症状も持続し得ます)。 治療は、休養と環境調整を含む包括的アプローチが基本となり、医療機関で行われる問診や検査の流れに沿って進められます。
参考)適応障害の診断基準と検査方法|症状と治療を解説|アイシークリ…

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