甘草を含む漢方薬を長期投与すると、血圧が正常範囲の患者でも偽アルドステロン症が突然発症するケースが報告されています。
大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)は、中国・後漢時代の医学古典『金匱要略(キンキヨウリャク)』に収載された処方です。 その処方名はそのまま配合生薬の名前からきており、構成はきわめてシンプルです。
参考)漢方薬84「大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)」 - 巣鴨千…
ツムラ84番として流通しており、医療用製剤(ツムラ大黄甘草湯エキス顆粒)は処方箋が必要な医療用漢方薬に分類されます。 薬価収載品であり、保険診療での処方が可能です。
参考)302 Found
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 処方番号 | ツムラ84番 |
| 原典 | 金匱要略(後漢時代) |
| 生薬数 | 2種類(大黄・甘草) |
| 分類 | 医療用漢方製剤 |
| 標準用量 | 成人1日7.5g、2〜3回分割、食前または食間 |
| 剤形 | エキス顆粒 |
通常、成人は1日7.5gを2〜3回に分割して食前または食間に服用します。 年齢・体重・症状によって適宜増減が行われます。
参考)https://www.tsumura.co.jp/products/item/084.pdf
ツムラ大黄甘草湯エキス顆粒(医療用)インタビューフォーム(ツムラ医療用サイト)
大黄甘草湯の主役は大黄(ダイオウ)です。大黄の主要成分であるセンノサイドは、大腸内の腸内細菌によって活性化され、大腸粘膜を直接刺激することで蠕動運動を亢進させます。 これが便秘解消の中心的なメカニズムです。
参考)大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ):ツムラ84番の効能・効果…
ここがポイントです。単に「下剤として作用する」というだけではなく、大黄単独では過剰な瀉下作用による腹痛や、次第に効果が減弱するという問題が生じます。 そこに甘草を組み合わせることで、調整の役割が果たされます。
甘草のグリチルリチン酸は、腸の痙攣を抑える作用と、腸内水分を保持することで大黄の瀉下効果が持続するよう補助する働きをします。 つまり2生薬の組み合わせが、単独では達成できない「効果的で安定した排便促進」を実現しているということです。
大黄の「瀉下作用」だけに目が向きがちですが、大黄には「止瀉作用(下痢を止める作用)」も併せ持つという点は意外です。 量や体質によって作用の方向性が変わるため、投与量の調節が非常に重要です。
効能・効果は便秘、および便秘に伴う頭重・のぼせ・湿疹・皮膚炎・ニキビ・食欲不振・腹部膨満・腸内異常醗酵・痔などの症状の緩和です。 体力に関わらず使用できる薬剤という点も特徴の一つです。
参考)ツムラ漢方大黄甘草湯エキス顆粒 - 一般用漢方製剤・一般用医…
処方対象として適しているのは、体力が虚弱もしくは胃腸虚弱の傾向がある人や、皮膚が乾燥しやすい人、肩こりや動悸を伴う便秘の人です。 特に「便意はあるが我慢してしまった結果の便秘」に有効とされています。
一方、以下の状態は慎重投与・禁忌に該当します。
特に妊婦への処方は重要な禁忌です。 日常診療で「便秘だから大丈夫」という判断が先走り、妊娠初期に処方されてしまうリスクを医療従事者は常に念頭に置く必要があります。
主な副作用として、食欲不振・腹痛・下痢が報告されています。 これらは比較的よく見られる副作用であり、服用開始後に消化器症状が出た場合は処方医・薬剤師への相談が必要です。
厳しいところですね。より重篤な副作用として「偽アルドステロン症」と「ミオパチー」があります。 偽アルドステロン症は、甘草に含まれるグリチルリチン酸が体内のアルドステロン様作用を示すことで、浮腫・血圧上昇・低カリウム血症を引き起こす状態です。
この問題が特に複雑なのは、大黄甘草湯単独の甘草量は少量であっても、甘草を含む他の漢方薬との重複処方によってグリチルリチン酸が蓄積しやすい点です。 複数の漢方薬を処方する際は、各製剤の甘草含有量を必ず確認することが原則です。
これらの症状が出た場合は服用を直ちに中止し、速やかに医師の診察を受ける必要があります。 どちらの副作用も「甘草の過剰摂取」が根本原因です。甘草を含む製剤の重複は1日のグリチルリチン酸摂取量を計算して管理することが条件です。
白鷺病院薬剤部:大黄甘草湯エキス顆粒の透析・CKD患者向け投与情報(副作用・臨床報告含む)
慢性便秘症の治療では、近年リナクロチド・ルビプロストンといった新規便秘治療薬も広く使われるようになっています。ここで注目すべき臨床報告があります。
ルビプロストンとの比較研究(Yoshida A et al., Biol Pharm Bull 2019)では、大黄甘草湯はルビプロストンよりも臨床効果が高く、副作用が少なく、さらに安価であることが示されています。 これは使えそうです。
参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/306.pdf
ただし「体質改善薬ではなく頓服的に用いる薬剤」という点は非常に重要です。 継続して服用することで徐々に腸の運動機能が低下し、大黄なしでは排便できなくなるいわゆる「大黄依存」が生じるリスクがあります。
| 薬剤 | 作用機序 | 適した対象 | 費用感 |
|---|---|---|---|
| 大黄甘草湯(ツムラ84) | センノサイドによる大腸刺激 | 常習便秘・虚弱体質者 | 比較的安価 |
| ルビプロストン(アミティーザ) | クロライドチャネル活性化 | 慢性便秘症全般 | やや高価 |
| リナクロチド(リンゼス) | グアニル酸シクラーゼ活性化 | 便秘型IBS・慢性便秘症 | 高価 |
| 酸化マグネシウム | 浸透圧性下剤 | 高齢者・軽症例 | 非常に安価 |
処方の際は患者の体質(虚実)・便秘の性状・合併症・妊娠の有無・他の漢方薬との重複を総合的に評価して選択することが大切です。 単に「便秘があるから」という理由だけで処方するのではなく、漢方的な体質評価(弁証)を行うことが適切な処方につながります。
参考)大黄甘草湯(ツムラ84番):ダイオウカンゾウトウの効果、適応…
長崎クリニック:大黄甘草湯(ツムラ84番)の効果・適応症・他の便秘薬との使い分けについての解説
服薬指導において、患者から最も多い誤解の一つが「漢方薬だから副作用はなく、長期間飲み続けて大丈夫」という認識です。これは間違いです。 大黄甘草湯は刺激性下剤に分類される作用機序を持ち、長期連用には明確なリスクが伴います。
患者への説明では以下のポイントを確実に伝えることが推奨されます。
また、医療従事者が特に見落としやすい点として、OTC(一般用)の大黄甘草湯との重複処方があります。 患者が市販の便秘薬を自己判断で購入・服用していることに気づかず、医療用の大黄甘草湯を処方し続けるケースがあります。結論は「服薬歴の確認では、OTC製品も必ず聞き出すことが原則です」。
参考)https://www.tsumura.co.jp/brand/products/item/PI_N-084_304084.pdf
さらに、腎機能低下のある透析患者やCKD患者への投与も注意が必要です。 常用量(1)での投与が可能とされていますが、電解質バランスへの影響(特に低カリウム血症)を定期的にモニタリングする体制が条件です。一方で高齢者・腎機能低下患者では酸化マグネシウムとの比較検討も選択肢に入れてください。
皮膚科専門医による大黄甘草湯(ツムラ84)の効果・副作用・臨床使用例の詳細解説
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