
チカグレロル(ticagrelor)は、血小板のアデノシン二リン酸(ADP)受容体であるP2Y12受容体に選択的かつ可逆的に作用する経口抗血小板薬である。日本における販売名、すなわち商品名はブリリンタ錠であり、ブリリンタ錠60mgおよびブリリンタ錠90mgが製造販売されている。製造販売元はアストラゼネカ株式会社である。PMDAの医療用医薬品情報では、ブリリンタ錠60mg/90mgの一般名・成分名としてチカグレロルが示されている。
医療現場では、一般名処方、持参薬確認、退院時共同指導、薬局での服薬情報提供などで、「チカグレロル」と「ブリリンタ」の対応を即座に確認できることが重要である。とくに冠動脈疾患患者では複数の抗血栓薬が併用される場合があるため、商品名だけで薬効を判断せず、有効成分、規格、投与目的、アスピリンなどの併用状況まで一体的に確認する必要がある。
ブリリンタはチエノピリジン系薬剤ではなく、シクロペンチルトリアゾロピリミジン系に分類されるP2Y12受容体拮抗薬である。クロピドグレルやプラスグレルとの比較を行う際は、「P2Y12阻害薬」という共通点のみならず、可逆的結合、活性化を要しない薬理学的特性、投与回数、適応範囲、禁忌・相互作用、患者背景を個別に評価することが求められる。
PMDA:ブリリンタ錠60mg/ブリリンタ錠90mg 医療用医薬品情報
ブリリンタ錠は60mg錠と90mg錠で規格が異なるだけではなく、主な適応および標準的な投与設定も異なる。90mg錠は、経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群を対象とする。一方、60mg錠は、複数のリスク因子を有する陳旧性心筋梗塞患者のうち、アテローム血栓症の発現リスクが特に高い場合に用いられる。したがって、処方監査や薬剤管理では、「チカグレロルが処方されている」ことだけでなく、どちらの規格が、どの臨床局面で処方されているかを確認しなければならない。
90mg錠の適応は、アスピリンを含む抗血小板薬2剤併用療法が適切であり、かつアスピリンと併用する他の抗血小板剤の投与が困難な場合に限られるPCI適用急性冠症候群である。通常、成人には初回用量としてチカグレロル180mgを投与し、2回目以降は90mgを1日2回経口投与する。初回180mgは90mg錠2錠に相当するため、入院時のロード投与と維持投与の移行時には、投与指示・薬袋・服薬説明の整合性を確認する。
60mg錠は、65歳以上、薬物療法を必要とする糖尿病、2回以上の心筋梗塞既往、多枝病変を有する冠動脈疾患、末期でない慢性腎機能障害のうち、少なくとも1つのリスク因子を有する陳旧性心筋梗塞患者で、アテローム血栓症のリスクが特に高い場合を対象とする。通常は1回60mgを1日2回経口投与する。長期二次予防における処方として認識し、出血リスクと虚血リスクのバランスを継続的に評価する。
| 項目 | ブリリンタ錠90mg | ブリリンタ錠60mg |
|---|---|---|
| 有効成分 | チカグレロル90mg/錠 | チカグレロル60mg/錠 |
| 主な対象 | PCI適用の急性冠症候群 | アテローム血栓症高リスクの陳旧性心筋梗塞 |
| 通常用法 | 初回180mg、以降90mgを1日2回 | 60mgを1日2回 |
| 確認事項 | アスピリンを含むDAPTの適切性、他の抗血小板薬が困難な理由 | 虚血リスク因子、長期投与時の出血リスクと治療継続の妥当性 |
規格の取り違えは、投与量の過量・過少につながるおそれがある。薬剤師は、紹介状、カテーテル治療記録、退院サマリー、循環器内科の処方意図を参照し、患者が急性期治療中なのか、二次予防としての長期管理中なのかを明確にしたうえで処方内容を評価する。
チカグレロルはP2Y12受容体に対する選択的かつ可逆的な拮抗薬であり、ADPによって誘発される血小板凝集を阻害する。血小板活性化と凝集を抑えることで、冠動脈ステント留置後を含む冠動脈疾患患者におけるアテローム血栓性イベントの抑制を図る薬剤である。薬理作用の中心は抗血小板作用であり、抗凝固薬とは作用点が異なる。
「血液をさらさらにする薬」という患者向けの抽象的説明だけでは、出血時の行動や併用薬確認の重要性が十分に伝わらない場合がある。説明時には、血小板の働きを抑えて血栓をできにくくする薬であること、自己判断での休薬が心筋梗塞やステント血栓症などの重大な虚血性イベントにつながり得ること、ただし出血や侵襲的処置の予定がある場合には必ず主治医・歯科医師・薬剤師へ申告することを、患者の理解度に合わせて伝える。
可逆的なP2Y12受容体拮抗という作用機序をもつからといって、臨床上の休薬時期や周術期管理を一律に判断してはならない。手術・抜歯・内視鏡的処置・生検などの予定がある場合は、処置の緊急性、出血リスク、冠動脈イベントリスク、PCI実施時期、ステント種別、併用抗血栓薬をふまえ、循環器内科などの処方医と処置担当医が連携して個別に決定する。
ブリリンタの安全使用では、出血の既往・現在の出血・出血を起こしやすい病態に加え、併用薬の確認が不可欠である。抗血小板薬であるため、抗凝固薬、血栓溶解薬、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)などとの併用は出血を助長するおそれがある。処方追加時だけでなく、市販の鎮痛薬、他院処方、歯科処方、サプリメント・健康食品を聴取し、重複または相加的な出血リスクを見逃さない運用が重要である。
チカグレロルはCYP3Aを介した相互作用に注意を要する。強いCYP3A阻害薬はチカグレロルの代謝を阻害し、血漿中濃度を著しく上昇させ、抗血小板作用および出血リスクを高めるおそれがある。代表例として、イトラコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル、コビシスタットを含む薬剤、エンシトレルビル フマル酸が挙げられる。感染症治療時、とくに抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬の新規開始時には、処方医、薬剤師、感染症診療チーム間で速やかな確認が必要となる。
反対に、強いCYP3A誘導薬はチカグレロルの代謝を著しく亢進させ、血中濃度低下と有効性減弱につながるおそれがある。リファンピシン、リファブチン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトインに加え、セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品にも注意する。健康食品は患者が医療者に申告しないこともあるため、商品名や成分名を具体的に確認する。
その他、ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾールなどのCYP3A阻害薬、エファビレンツやモダフィニルなどのCYP3A誘導薬、P糖蛋白質阻害薬、シンバスタチン、ロスバスタチン、ジゴキシン、モルヒネとの併用にも注意を要する。相互作用の有無を単純な「併用可・不可」に還元せず、血栓リスク、出血リスク、代替薬の可否、モニタリング計画を患者ごとに評価する。
KEGG MEDICUS:ブリリンタの添付文書情報・相互作用情報
ブリリンタ服用患者では、出血傾向、皮下出血、鼻出血、挫傷、血尿、喀血などの出血性事象に注意する。呼吸困難、悪心、下痢、血中クレアチニン増加、高尿酸血症、めまいなども添付文書上の副作用として示されている。患者が「息苦しさ」「あざが増えた」「黒っぽい便が出た」「血尿がある」と表現した際には、単なる軽微な訴えとして扱わず、症状の程度、経過、貧血徴候、バイタルサイン、併用薬、受診の必要性を評価する。
服薬支援で特に重要なのは、1日2回投与である点を踏まえたアドヒアランス支援である。朝夕など、生活リズムに結び付けた服用時点を患者と共有し、飲み忘れ・重複服用の対応は添付文書および個別の処方指示に沿って説明する。抗血小板療法では、服薬中断が重大な血栓性イベントのリスクに直結し得る一方、出血時には緊急対応を要することもある。そのため、「出血しても自分で中止しない」「医療機関へ必ず連絡する」という二つのメッセージを両立させる必要がある。
また、救急受診や歯科受診、他科手術、内視鏡検査などの場面でブリリンタ服用情報が確実に共有されるよう、患者にお薬手帳または服薬情報の携帯を促す。高齢者、腎機能低下患者、多剤併用患者、転倒リスクの高い患者では、定期的な処方見直しと生活上の出血予防も重要となる。チカグレロルの商品名をブリリンタとして正確に把握し、規格別の処方目的、併用薬、出血徴候、予定処置を継続して確認することが、適正使用を支える基本となる。
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