造血幹細胞移植 ガイドライン ワクチン 接種 時期

造血幹細胞移植後のワクチン接種について、ガイドラインに基づく接種時期や不活化ワクチン・生ワクチンの違い、免疫回復のメカニズムを解説。移植患者が安全に予防接種を受けるための具体的なポイントをまとめました。あなたの施設ではどのようなスケジュールで対応していますか?

造血幹細胞移植 ガイドライン ワクチン 接種 時期

造血幹細胞移植後のワクチン接種スケジュール
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不活化ワクチン 移植後3-12ヶ月

慢性GVHDの増悪がないことを確認の上、DPT-IPV、肺炎球菌、インフルエンザなどから開始

🦠
生ワクチン 移植後24ヶ月以降

免疫抑制剤終了、慢性GVHDなし、輸血・ガンマグロブリン投与後3-6ヶ月経過の条件で接種可能

📋
予診票 個別対応必須

体温測定、免疫抑制剤内服状況、GVHD症状、最近の疾患歴などを詳細に確認


造血幹細胞移植 ガイドライン ワクチン 不活化 開始時期



造血幹細胞移植後のワクチン接種において、不活化ワクチンの接種開始時期は日本造血・免疫細胞療法学会のガイドライン第4版(2023年12月)で明確に示されています 。原則として、不活化ワクチンは移植後3ヶ月(種別により6ないし12カ月)を経過して慢性移植片対宿主病(GVHD)の増悪がないことが条件となります 。


参考)https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_05_vaccination_ver04.pdf


ただし、以下の条件がある場合は早期接種を考慮できます :


  • 抗腫瘍薬の投与中でない
  • 抗B細胞抗体薬(抗CD20抗体リツキサン®など)の最終投与から6か月以上経過している
  • 中等度または重度のGVHDを認めていない


感染症がよくコントロールされた社会環境下であれば、移植後6~12ヶ月待つことが望ましいとされています 。これは、移植後の経過期間が長ければ長いほどワクチン接種に対する免疫反応は良く、移植後12ヶ月経過するとより良い効果が得られるためです 。


参考)https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/04m_vaccination_ver01.pdf


具体的な接種スケジュール例として、移植後12ヶ月以降に以下のワクチンを3回接種します :


  • DPT-IPV(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ混合ワクチン):0.5mlを3回
  • インフルエンザ菌b型(Hib):0.5mlを3回
  • 肺炎球菌(プレベナー13®):0.5mlを3回


インフルエンザワクチンについては、冬季の流行時期が迫っている場合には適宜優先的に接種することが推奨されています 。また、新型コロナウイルスワクチン(SARS-CoV-2ワクチン)も流行状況を考慮して適宜優先接種が可能です 。


参考)移植患者に対するワクチン接種について|一般社団法人日本造血・…


造血幹細胞移植 ガイドライン ワクチン 生ワクチン 接種条件

生ワクチン(弱毒化生ワクチン)の接種は、不活化ワクチンよりも慎重な対応が必要となります。ガイドラインでは、生ワクチンが接種可能な条件として以下のように定められています :



生ワクチン接種の必須条件:

  • 移植後2年以上が経過している
  • 慢性GVHDの増悪がない
  • 免疫抑制剤の投与が終了している
  • 輸血や通常量のガンマグロブリン製剤の投与後3ヶ月以上経過
  • 大量のガンマグロブリン製剤の投与後3ヶ月(種別により6ないし12ヶ月)経過
  • 抗B細胞抗体薬(抗CD20抗体リツキサン®など)の投与後6ヶ月以上経過



これらの条件をすべて満たした上で、以下の生ワクチンを2回接種します :


  • 麻しん・風しん(MRワクチン):0.5mlを2回
  • 水痘ワクチン:0.5mlを2回
  • おたふくかぜワクチン:0.5mlを2回


生ワクチンは、副作用の頻度が少なく抗体獲得が評価しやすい麻しん(麻しん風しん混合ワクチン)から開始するのが望ましいとされています 。ただし、周囲の感染症流行状況から他の生ワクチンを優先することも考慮されます 。



注目すべきは、市中で麻疹のクラスター・アウトブレイクがある場合、米国移植・細胞療法学会(ASTCT)は早期接種の基準を提示している点です 。同種HCT後1年以上経過し、免疫抑制剤が単剤でトラフ値が一定以下、プレドニン5mg/日以下、総リンパ球数1×10³/μL以上などの条件を満たせば、6ヶ月後であっても早期接種を考慮することがあります 。



造血幹細胞移植 ガイドライン ワクチン 免疫回復 自然免疫 獲得免疫

造血幹細胞移植後の免疫再構築を理解することは、適切なワクチン接種時期を判断する上で不可欠です。移植後の免疫回復は、自然免疫と獲得免疫の2つのシステムが異なる速度で回復していくという特徴があります 。



自然免疫の回復:
単球、樹状細胞、自然リンパ球、γδT細胞などの自然免疫細胞は、移植後数週間から数ヶ月で比較的早期に回復します 。このため、移植直後からある程度の感染症に対する防御能は維持されます。



獲得免疫の回復:
T細胞、Natural Killer T(NKT)細胞、B細胞などの獲得免疫細胞の回復は数ヶ月から1年~数年かかります 。獲得免疫の回復には胸腺の再構築が重要であり、小児は成人より早く回復します 。



胸腺は胸腺皮質と髄質からなる胸腺上皮スペース(TES)と非上皮性の傍血管スペースで構成されます 。胸腺は生後早期より機能低下が始まり、70歳ではTESは小児の10%以下となりますがT細胞産生は持続します 。新しいT細胞が造られるTESは中年まで<3%/年の割合で減少(萎縮)し、中年以降は<1%/年の割合で減少します 。



この胸腺機能の加齢による低下が、高齢者における移植後のワクチン接種効果に影響を与えます 。胸腺機能が回復してくればワクチン接種に反応する細胞が増加して予防接種効果が期待できますが、高齢者ではこの回復が遅れるため、ワクチン接種のタイミングや効果に注意が必要です 。



免疫回復に影響する因子には以下のようなものがあります :


  • 患者年齢(胸腺機能、ホルモン)
  • 移植細胞源(骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血)
  • 移植前治療の種類(骨髄破壊的、骨髄非破壊的)
  • 急性や慢性GVHDの有無
  • 移植前治療での抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)使用の有無
  • ウイルス感染症の有無


例えば、ATG投与により生体内でT細胞が除去されてGVHDや拒絶が予防可能となりますが、その後の免疫回復が大きく遅延します 。非血縁者間臍帯血移植(uCBT)では、当初は免疫回復が遅れると予想されていましたが、実際には他の細胞源と同等以上に迅速に免疫機構が再構築されることが分かってきました 。



造血幹細胞移植 ガイドライン ワクチン 予診票 慢性GVHD 確認

造血幹細胞移植患者に対するワクチン接種では、予診票を用いた詳細な確認が不可欠です。日本造血・免疫細胞療法学会のガイドライン第4版では、造血細胞移植患者用に作成された予診票が用意されており、各項目について確認することが求められています 。



予診票で確認する主要項目:


体温測定:
体温は医療機関(施設)に設置した体温計で測定し、37.5℃(腋窩温又はこれに相当するもの)以上を指す者は明らかな発熱者として接種を見合わせます 。



造血細胞移植歴:
移植日を確認して免疫能回復の目安とします 。一般的には、移植後の経過期間が長ければ長いほどワクチン接種に対する免疫反応は良く、通常は移植後12ヶ月経過するとより良い効果が得られます 。



免疫抑制剤の内服の有無:
シクロスポリン(ネオーラル®)、タクロリムス(プログラフ®、グラセプター®)、アザチオプリン(イムラン®)、副腎皮質ステロイド(プレドニン®など)の使用状況を確認します 。GVHDとそれに対する免疫抑制療法(IS)はワクチン接種に対する免疫反応に影響し、一般的には、GVHDがあれば個別対応が必要と考えられます 。



進行性の慢性GVHDの有無:
慢性GVHDの増悪期には免疫能回復が遅延するため、自覚症状として把握しやすい皮膚、粘膜所見を確認します 。



最近1カ月以内の病気:
造血細胞移植後に麻しん、風しん、水痘、おたふくかぜなどの急性疾患に罹患した場合には、主要症状の消失後も免疫学的に回復不十分な可能性があります 。罹患した疾病の種類によって免疫能の低下や続発疾患の可能性が考えられる場合には、治癒後2~4週間を一応の目安として間隔をあけます 。



過去の輸血、ガンマグロブリン、抗B細胞抗体薬の投与:
輸血や通常量のガンマグロブリン製剤の投与後3ヵ月、大量のガンマグロブリン製剤の投与後6ヵ月を経過していることを確認します 。リツキサン®はワクチンによる抗体反応を低下させるので、最終投与から6か月以上経過していることが望ましいとされています 。



血小板減少(<5万/μL)があれば、皮膚注射が可能なワクチンを考慮します 。IDSAガイドラインによれば、血小板数3~5万/μLであれば、筋肉注射が必要なワクチンは、23ゲージ以下の注射針を使用して接種後に局所の2分間の圧迫を行います 。



造血幹細胞移植 ガイドライン ワクチン 抗体価 評価 再接種 助成

ワクチン接種後の抗体価評価は、免疫獲得の程度を把握する上で重要なプロセスです。ただし、抗体価だけで発症予防を判断することは困難な場合があります 。感染予防には液性免疫だけではなく細胞性免疫や局所の粘膜免疫も働くため、抗体価は免疫学的指標(Correlates of Protection, CoP)の一つと考え、単に抗体価の数字にとらわれることなく免疫能全体で臨床的判断をすることが大切です 。



抗体価測定の実際:


麻しん、風しん、流行性耳下腺炎および水痘に関してCF法はすべて評価に値しません 。麻しんのHI法はワクチン世代の年長児や成人では感度不足となるため避けるべきであり、NT法が基本となりますが手技が煩雑のため近年はPA法が代わって実施されています 。風しんはHI法が優れており、水痘はIAHAが最適ですが一部の検査センターでしか実施されていないためELISA/IgG法が推奨されます 。



ワクチン接種後は最初から抗体価が上昇しない一次性ワクチン不全(primary vaccine failure、PVF)と上昇後に低下・消失する二次性ワクチン不全(secondary vaccine failure、SVF)をきたすことがあるので、接種後も年1回程度の抗体価測定が望ましいとされています 。欧米合同ガイドラインでは麻しん、破傷風、ジフテリア、ポリオ、HBVについては4~5年に一回、肺炎球菌については最初の4年間は2年ごとの測定を推奨しています 。



抗体価低下/消失に対する再接種の課題:


移植前に接種した定期予防接種の免疫が消失するためワクチン再接種が必要となりますが、再接種は定期接種とならないため、本ガイドラインで推奨するワクチンは任意接種となり、全額自己負担が必要で高額となります 。また、再接種の参考とする抗体価測定が保険診療とならないことがあります 。



このような現状に対して、自治体によるワクチン再接種の助成制度が進められています 。厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会によれば、2018年7月1日の時点で全国1741の市区町村のなかで助成事業を行っている自治体は全自治体の5.1%、実施予定は5.0%、実施を検討は14.4%でした 。再接種実施自治体の対象年齢の規定では20歳未満が多いですが、規定がない自治体は22.5%を占めていました 。



意外な事実:
造血細胞移植後の持続感染者は、病原体を排除できず、ウイルスが1年半以上持続感染したという報告があります 。持続感染に対して抗ウイルス剤で治療中に薬剤耐性が出現した例や、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の持続感染中にスパイク蛋白の複数のアミノ酸置換が生じてウイルスが変異したという報告もあります 。このような持続感染者は周囲へのまん延をきたす可能性があるため、造血細胞移植後の抗体価低下/消失の状況においては個人予防と集団予防(まん延予防)を明確に区別することは困難です 。



もし造血細胞移植患者が予防接種を受けなければ集団予防に穴が開くことになり、健常者の感染リスクが高まることになります 。このため、ワクチン再接種(定期接種化)への積極的な公的支援が期待されています 。



日本造血・免疫細胞療法学会「移植患者に対するワクチン接種について」


日本造血・免疫細胞療法学会「造血細胞移植ガイドライン 予防接種 第4版」(PDF)

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