
貼付薬は、作用範囲によって「局所作用型」と「全身作用型(経皮吸収型)」の2つに大きく分類されます。この分類を理解することは、医療従事者として適切な剤形選択と患者指導を行う上で不可欠です。
局所作用型貼付剤は、貼付した部位またはその周辺に直接的な治療効果を発揮する製剤です。代表的なものとして、消炎鎮痛薬(フェルビナク、ロキソプロフェンなど)や局所麻酔薬(リドカインなど)が挙げられます。これらの製剤は、皮膚を通して薬物成分が患部の組織に浸透し、炎症や疼痛を緩和します。
参考)https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/yakuzai/data/78.pdf
日本薬局方では、2015年の第16局方改訂以降、「貼付剤」という名称は局所作用型の外用剤に限定され、全身作用を目的とした製剤は「経皮吸収型製剤」として明確に区別されています。この分類は、薬事法規制や製造基準の観点からも重要な意味を持ちます。
貼付薬の製剤形態として代表的な「テープ剤」と「パップ剤」の違いは、基剤の性質、特に水分含有量に由来します。この違いが、使用感、粘着性、適応部位、副作用プロファイルに直接影響を与えます。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/kusuri_kihon/4145
| 特徴 | テープ剤 | パップ剤 |
|---|---|---|
| 基剤の性質 | 親油性高分子(ほとんど水を含まない) | 水溶性高分子(水分を多く含む) |
| 水分含有量 | 少ない(ほぼ含まない) | 多い(含水量が高い) |
| 膏体の厚み | 薄い | 厚い |
| 粘着性 | 強い(剥がれにくい) | 弱い(剥がれやすい) |
| 伸縮性 | 高い(可動部位に適す) | 低い |
| 使用感 | 肌色で目立ちにくい、匂い少ない | 白色、清涼感あり、冷感・温感タイプ |
| 皮膚刺激性 | かぶれやすい(密着性が高い) | かぶれにくい(刺激が弱い) |
| 交換頻度 | 1日1回 | 1日2回 |
| 適応部位 | 肘、膝、腰など可動部位 | 静止部位、広範囲 |
テープ剤は、親油性高分子を主たる基剤構成成分とし、ほとんど水を含まない製剤です。粘着性が高く剥がれにくい特徴があるため、肘や膝などの関節部、腰など頻繁に動く部位への貼付に適しています。また、薄型で肌色のものが多く、衣服から目立ちにくいという利点もあります。ただし、皮膚への密着性が強いため、接触性皮膚炎(かぶれ)を起こしやすい傾向があります。
参考)https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/yakuzai/data/239.pdf
パップ剤は、水溶性高分子を主な基剤成分とし、水分を多く含んだ膏体が特徴です。貼付時に水分の気化熱により「ヒヤッ」とした清涼感があり、患部の冷却効果も期待できます。水分を多く含むため皮膚への刺激が弱く、かぶれにくいという利点がありますが、粘着性が弱く剥がれやすいという欠点もあります。また、厚みがあるため、衣服に引っかかりやすいという問題もあります。
m3.com 薬剤師向けコラム「テープ剤とパップ剤の違い」
このリンクには、日本薬局方によるテープ剤とパップ剤の定義、基剤の性質、使い分けのポイントが詳しく解説されています。
経皮吸収型貼付薬(全身作用型)の最大の利点は、消化管を介さない投与経路により、肝初回通過効果を回避できる点にあります。この特性は、薬物動態学的に重要な意味を持ち、臨床応用において多くのメリットをもたらします。
経口投与された薬物は、消化管から吸収された後、門脈を介して肝臓に到達し、ここで代謝酵素(特にCYP450系)による代謝(初回通過効果)を受けます。この過程で、薬物の一部が代謝されて不活性化され、全身循環に到達する薬物量が減少します。これをバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)の低下と呼びます。
参考)https://www.hisamitsu-pharm.jp/assets/img/tdds/pdf/pamphlet03.pdf
一方、経皮吸収型製剤では、皮膚から吸収された薬物は、直接体循環(毛細血管→静脈系)に入ります。肝臓を最初に通過しないため、代謝を受けることなく全身に分布します。このため、以下の利点が得られます。
貼付薬の臨床応用は、局所作用型と全身作用型で大きく異なります。医療従事者は、各疾患の病態と薬物特性を理解し、適切な剤形選択と患者指導を行う必要があります。
局所作用型貼付剤の主な適応疾患は、筋骨格系疾患(腰痛、肩凝り、関節痛、筋肉痛、捻挫、打撲)、神経痛、外傷後疼痛などです。これらの疾患では、炎症や疼痛が局所に限局しているため、患部に直接薬物を送達する貼付薬が有効です。消炎鎮痛成分(NSAIDs)や局所麻酔薬が主に使用されます。
薬剤師や医療従事者が患者指導を行う際のポイントは以下の通りです。
参考)貼付剤の与薬方法
久光製薬 経皮吸収型製剤の基礎知識(PDF)
この資料には、経皮吸収型製剤の作用機序、薬物動態、臨床応用、患者指導のポイントが詳しく記載されています。
貼付薬の作用において、意外な事実として「皮膚のバリア機能を突破する技術」が重要な役割を果たしています。皮膚は本来、外部からの異物侵入を防ぐための強力なバリア機能(角層の緻密な構造、脂質二重層、細胞間脂質など)を備えています。このバリアを突破し、薬物成分を効果的に浸透させるためには、高度な製剤技術が不可欠です。
参考)教えて!ハルコさん パップ剤・テープ剤(鎮痛消炎貼付剤)Q&…
また、貼付薬の吸収率には、貼付部位の皮膚厚、血流量、温度、湿度などの要因が影響します。一般的に、顔面や陰部などの薄く血流量の多い部位では吸収が速く、手掌や足底などの厚い部位では吸収が遅くなります。このため、全身作用型貼付剤では、貼付部位が厳密に指定されており、自己判断で変更することは避けるべきです。
医療従事者は、これらの製剤技術と皮膚生理学の基礎知識を理解し、患者に対して「なぜこの部位に貼るのか」「なぜこの頻度で交換するのか」といった根拠に基づいた指導を行うことが重要です。これにより、治療効果の最大化と副作用の最小化が図れます。
参考)貼付薬Q&A – 貼る場所は?剥がれたら?切ってもいいの?薬…
このサイトには、貼付剤の作用機序、TDS(経皮薬物送達システム)の技術、皮膚バリア機能の突破方法について詳しく解説されています。