多剤耐性菌一覧と感染対策の実践ポイント

多剤耐性菌にはMRSA、VRE、CRE、MDRP、MDRAなどがあり、菌種ごとに耐性機構、保菌部位、伝播経路、治療選択が異なります。臨床検査結果を感染管理と抗菌薬適正使用へどう結び付けるべきでしょうか?

多剤耐性菌一覧の基礎知識と核心ガイド

主要耐性菌と現場対応の要点
一覧は定義と耐性機構で読む

菌名だけで判断せず、薬剤感受性、耐性酵素、検出検体、感染か保菌かを併せて評価することが重要です。

接触予防策を確実に実施する

手指衛生、個人防護具、共有物品の管理、環境清掃を標準予防策に重ね、伝播の連鎖を遮断します。

抗菌薬選択は培養結果で最適化

経験的治療を漫然と継続せず、培養・感受性結果と感染巣を踏まえて狭域化、投与量、投与期間を再評価します。


多剤耐性菌とは何か:薬剤耐性菌との違い


薬剤耐性菌とは、本来は細菌の増殖を抑制または死滅させる抗菌薬が効きにくい、あるいは効かない性質を獲得した細菌です。耐性は、抗菌薬の標的部位の変化、抗菌薬を分解する酵素の産生、細胞外への排出ポンプの亢進、細胞膜透過性の低下など、複数の機序によって生じます。抗菌薬曝露の積み重ねにより耐性菌が選択され、医療機関、介護施設、地域に広がることが問題になります。
多剤耐性菌は、複数系統の抗菌薬に耐性を示す菌の総称です。ただし、医学的に「何剤に耐性なら多剤耐性菌か」という統一的な定義がすべての菌種に当てはまるわけではありません。例えば多剤耐性緑膿菌(MDRP)は、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の3系統すべてに耐性を示す緑膿菌として扱われます。一方で、MRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌、VREはバンコマイシン耐性腸球菌、CREはカルバペネム耐性腸内細菌目細菌というように、特定薬剤または重要な薬剤群への耐性を基軸に呼称されます。
したがって「多剤耐性菌一覧」は、単なる病原体リストではなく、菌種、耐性薬剤、耐性機構、検出状況、感染症の重症度、伝播リスクを確認するための実務的な整理表として読む必要があります。保菌と感染症を区別しないまま抗菌薬を開始したり、耐性菌の検出だけを理由に過剰な隔離や不必要な広域抗菌薬投与を行ったりしないことも重要です。
厚生労働省:多剤耐性菌について


臨床で確認したい主要な多剤耐性菌一覧

医療現場で重要となる耐性菌は、グラム陽性菌とグラム陰性菌に大別できます。グラム陽性菌ではMRSAとVREが代表的です。グラム陰性菌では、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)のほか、ESBL産生菌やAmpC βラクタマーゼ産生菌などが、抗菌薬選択や感染対策の上で問題になります。

項目 基準・内容 備考
MRSA メチシリン耐性黄色ブドウ球菌。βラクタム系薬への耐性を示し、mecAなどに関連するPBP2a産生が主要機序です。 創部、カテーテル関連血流感染、肺炎、皮膚軟部組織感染症などで問題になります。
VRE バンコマイシン耐性腸球菌。vanA、vanBなどの耐性遺伝子により、細胞壁合成阻害薬への耐性を示します。 腸管保菌が多く、免疫不全、重症患者、長期入院患者で侵襲性感染症に注意します。
CRE カルバペネム耐性腸内細菌目細菌。カルバペネマーゼ産生やポーリン低下などが耐性に関与します。 大腸菌、肺炎桿菌、エンテロバクター属などで検出され、アウトブレイク対策が重要です。
CPE カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌。KPC、NDM、IMP、VIM、OXA-48様酵素などが知られます。 CPEはCREの一部です。伝播性や治療選択への影響が大きく、酵素型の把握が有用です。
MDRP 多剤耐性緑膿菌。カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の3系統に耐性を示す緑膿菌です。 人工呼吸器関連肺炎、尿路感染、菌血症、熱傷・創傷感染などで重症化し得ます。
MDRA 多剤耐性アシネトバクター。複数の重要抗菌薬に耐性を示すAcinetobacter baumannii等を指します。 集中治療領域、人工呼吸器管理、長期入院患者で問題となりやすい菌です。
ESBL産生菌 基質特異性拡張型βラクタマーゼを産生し、第3世代セファロスポリンなどを分解します。 厳密には多剤耐性菌の一律の定義ではありませんが、治療選択に大きく影響します。
AmpC産生菌 AmpC βラクタマーゼによりペニシリン系、セファロスポリン系の一部に耐性を示します。 誘導耐性や治療中の耐性化を考慮し、菌種と感受性結果を踏まえた判断が必要です。

CREとCPEは同義ではありません。CREは表現型としてカルバペネム耐性を示す腸内細菌目細菌を指し、CPEはカルバペネムを分解する酵素を産生する菌を指します。CREの耐性機構にはカルバペネマーゼ産生以外もあり得る一方、CPEでは接合伝達性プラスミドを介した耐性遺伝子の拡散が問題となる場合があります。検査室からCPE、メタロβラクタマーゼ産生、KPC産生などの情報が得られたときは、感染制御チーム、抗菌薬適正使用支援チーム、主治医間で速やかに共有する体制が求められます。


菌種別に押さえる耐性機構と臨床上の注意点

MRSAでは、mecA遺伝子などにより産生されるPBP2aがβラクタム系抗菌薬への低感受性に関与します。MRSAが検出された場合、鼻腔、咽頭、創部、喀痰などからの保菌か、発熱、炎症反応、画像所見、局所所見を伴う真の感染症かを評価します。特に喀痰培養での検出は、気道定着と肺炎の区別が重要であり、培養結果だけでは治療適応を決められません。
VREは腸管に保菌されることが多く、便失禁、下痢、ストーマ、失禁ケア、排泄介助などを通じて環境を汚染し得ます。血液培養から検出された場合には、カテーテル、腹腔内感染、尿路感染、胆道感染などを含めた感染源評価が必要です。腸球菌は菌種により自然耐性や治療選択が異なるため、Enterococcus faecalisとEnterococcus faeciumの区別、バンコマイシン以外の感受性、感染臓器への到達性を確認します。
CREやCPEでは、カルバペネマーゼの酵素型が治療の選択肢に関係します。例えばメタロβラクタマーゼ産生菌では、薬剤によって活性が期待できない場合があり、単に「カルバペネム耐性」とだけ理解するのでは不十分です。薬剤感受性試験の結果、耐性機構の推定、感染部位、菌血症の有無、腎機能、ソースコントロールの可否を総合して、感染症専門医・薬剤師と治療計画を立てます。

  • 緑膿菌は湿潤環境、人工呼吸器回路、尿路カテーテル、創部などに関連しやすく、バイオフィルム形成が治療難渋の一因になります。
  • アシネトバクターは医療環境で長く生存し得るため、患者周辺環境と共有機器の清掃・消毒手順の徹底が重要です。
  • ESBL産生菌では、セファロスポリン系の感受性表示だけでなく、感染巣、重症度、菌血症の有無を踏まえて治療薬を選択します。
  • AmpC産生が問題となる菌種では、治療経過中に耐性が顕在化する可能性を念頭に、再培養や臨床反応の確認を行います。

耐性菌の名称は治療方針を決める入口であり、最終判断ではありません。感染症診療では、感染巣のドレナージ、デバイス抜去・交換、閉塞解除、壊死組織の処置などのソースコントロールが、抗菌薬選択と同等かそれ以上に重要になることがあります。抗菌薬を追加・変更する前に、感染源に介入できているかを必ず再評価します。


検出時の感染対策:保菌と感染を分けて対応する

多剤耐性菌対策の中心は、標準予防策を例外なく実施し、必要時に接触予防策を重ねることです。耐性菌は主に医療従事者の手指、患者周辺の高頻度接触面、共有器材、排泄物や分泌物を介して伝播します。手袋やガウンを着用していても、着脱手順が不適切であれば手指や衣服を汚染させる可能性があるため、手指衛生の実施タイミングと手技の質が重要です。
具体的には、患者接触前後、無菌操作前、体液曝露リスク後、患者周辺環境に接触した後に、適切な手指衛生を行います。排泄ケア、創傷処置、吸引、気管切開部ケア、カテーテル操作などでは、汚染の程度に応じて手袋、エプロンまたはガウン、必要に応じたマスク・アイシールドを使用します。外した個人防護具を着用したままナースステーション、電子カルテ端末、共用電話、物品棚に触れないよう、動線を設計することも大切です。
患者環境では、ベッド柵、オーバーテーブル、ナースコール、ドアノブ、輸液ポンプ、モニター操作部、トイレ周辺などの高頻度接触面を、施設で定めた手順に従って清拭・消毒します。血圧計、聴診器、体温計、パルスオキシメータなどは患者専用化を検討し、共用する場合は使用ごとの清拭・消毒を確実に行います。清掃担当者、リハビリテーション職、検査技師、搬送担当者を含め、関係者全員に必要な情報が伝わる仕組みが必要です。
日本感染症学会:薬剤耐性菌(Antimicrobial resistant bacteria)
ただし、耐性菌の検出は患者への不利益な対応を正当化するものではありません。必要な診療、リハビリテーション、検査、面会、退院支援を不当に制限せず、患者・家族には感染と保菌の違い、実施する感染対策の目的、手指衛生の方法をわかりやすく説明します。個室管理やコホートの適応、スクリーニング培養の対象、解除基準は、菌種、病棟特性、流行状況、地域連携の方針により異なるため、施設の感染対策マニュアルに従います。


抗菌薬適正使用と情報共有で再拡大を防ぐ

多剤耐性菌の抑制には、感染対策と抗菌薬適正使用を一体として運用することが不可欠です。抗菌薬を必要としないウイルス感染症や無症候性細菌尿に抗菌薬を投与すれば、患者個人の有害事象だけでなく、腸内細菌叢への影響を通じて耐性菌の選択圧を高めるおそれがあります。投与開始時には感染臓器、想定起因菌、重症度、培養採取の有無、経験的治療の妥当性を明確にします。
培養結果と感受性結果が判明した後は、広域抗菌薬を継続する必要性を見直します。治療対象が明確で、より狭域の薬剤に変更できる場合はデエスカレーションを検討します。また、腎機能・肝機能、体重、重症度、薬物動態・薬力学、投与経路、感染巣への移行性を確認し、投与量と投与間隔を最適化します。培養陰性で臨床的に細菌感染の可能性が低い場合も、抗菌薬中止を積極的に検討します。
医療機関内では、微生物検査室からの耐性菌検出報告を、主治医、病棟看護師、感染制御チーム、抗菌薬適正使用支援チーム、薬剤部へ迅速に伝達できる仕組みを整えます。病棟単位・診療科単位で検出菌、耐性率、抗菌薬使用量、クラスター発生の有無を可視化し、手指衛生遵守率や環境清掃の運用も定期的に振り返ると、対策の弱点を把握しやすくなります。
転院・施設入所・救急搬送・在宅移行の際には、検出菌名、検出日、検体、感染か保菌か、現在の症状、実施中の感染対策、抗菌薬治療の内容を必要な範囲で正確に引き継ぎます。多剤耐性菌の情報共有は受け入れ拒否のためではなく、搬送先・受け入れ先で継続的かつ適切なケアを行い、伝播リスクを下げるためのものです。菌名の一覧を知識として覚えるだけでなく、検出から評価、治療、感染対策、連携までを一続きのプロセスとして実践することが、耐性菌対策の質を高めます。


参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/multidrug-resistant-bacteria.html




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