皮膚を保湿すれば重症化を防げると思っていませんか?実は保湿だけでは不十分で、グレード2以上の発疹では早期にステロイド外用を開始しないと休薬基準に達するリスクがあります。

タグリッソ(オシメルチニブメシル酸塩)による皮膚障害は、EGFR阻害薬に共通した機序で生じます。EGFRは表皮角化細胞の正常な増殖・分化に深く関与しているため、これを阻害することで皮膚のバリア機能が低下し、炎症反応が誘発されます。
発疹・ざ瘡の発現頻度は37.7%と報告されており、服用患者の約4割に認められます。 これはざっくり言うと、外来で10人のタグリッソ服用患者を診れば4人前後に対応が必要になる計算です。
発疹は投与開始から1〜2週間以内に出現することが多く、顔面・頭部・体幹部を中心に広がる傾向があります。 毛包中心性の丘疹・膿疱として現れるのが典型的な所見で、細菌感染による通常のにきびとは異なります。重要な違いは、面皰(コメドン)を伴わない点です。これが見分けのポイントです。
参考)https://ameblo.jp/ejkejkejk/entry-12692013034.html
医療従事者として確認すべきグレード分類は以下のとおりです。
参考リンク(発疹のグレード管理と分子標的薬の皮膚障害対策):
日本癌治療学会 分子標的療法に伴う皮膚障害マネジメントの手引き(PDF)
皮膚乾燥・湿疹の発現頻度は28.5%です。 乾燥は投与開始3週目頃から認められることが多く、特に四肢末梢・手掌・足底に生じやすいのが特徴です。 放置するとひび割れ・皮膚炎へ進行し、感染合併のリスクも高まります。
参考)https://www.shimizuhospital.com/dist/wp-content/uploads/2012/07/e9dd4959e39e907297878958135549ae.pdf
基本対処は早期からの保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤など)の使用です。ヒルドイド®ローションは皮膚への塗布がしやすく、乾燥部位への使用が推奨されています。 入浴後の保湿が原則です。
患者への指導ポイントをまとめると。
かゆみが強い場合、抗ヒスタミン薬の追加や短期間のステロイド外用も選択肢となります。皮膚乾燥は軽視されやすい症状ですが、ひどくなると患者のQOLを大きく損ない、治療継続意欲にも影響します。つまり、予防的ケアの指導が重要です。
爪の障害は発現頻度23.4%で、爪囲炎・爪甲剥離・爪の変形などが報告されています。 爪囲炎は特に手指・足趾の爪周囲の発赤・腫脹・疼痛を呈し、重症化すると歩行困難にまで至ることがあります。
爪甲剥離の場合、爪が根元から剥がれるケースもあり、これは患者にとって強いショックを与えることがあります。意外ですね。多くの患者が「爪がこんなに変化するとは思わなかった」と訴えます。
管理の基本は以下です。
爪囲炎がグレード2以上(疼痛・ADL障害)に進展した場合は、ミノサイクリン経口投与や、局所に細菌感染を疑う場合は抗菌外用剤(ナジフロキサシンなど)の追加を検討します。悪化を防ぐには早期介入が条件です。
頻度は0.3%と低いですが、重大な皮膚障害として中毒性表皮壊死融解症(TEN)・皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群:SJS)・多形紅斑が報告されています。 この0.3%という数字、小さく見えますが無視はできません。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/medicine-clinical-questions/9gns7z-qd7
TENは皮膚・粘膜の広範な壊死・剥離を引き起こし、死亡率が10〜30%に達する致死的な病態です。SJSは発熱・皮膚の紅斑・粘膜病変(口腔・眼・陰部)を三徴とします。
医療従事者が早期に気づくべき警戒サインは。
これらの症状が出現した場合は即座にタグリッソを中止し、皮膚科緊急コンサルトが必要です。皮膚科への連絡は5分でも早い方が良いと言えます。EGFR阻害薬の重篤皮膚障害では初期対応の速さが予後を左右します。
参考リンク(タグリッソ適正使用ガイド・重篤副作用の対応フロー):
PMDA タグリッソ錠 適正使用ガイド(医療従事者向け)
タグリッソの副作用として皮膚障害が出ても、多くの患者は「がんの治療のために仕方ない」と我慢してしまいます。これは見逃されやすい課題です。実は、痒みや爪の痛みを適切に訴えない患者の中に、グレード2以上の症状が潜んでいることが少なくありません。
医療従事者として重要なのは、患者が「症状を申告しやすい雰囲気をつくる」ことです。外来の短い診察時間だけでは不十分な場合も多く、薬剤師によるトレーシングレポートや看護師による電話フォローも有効な手段です。
外来での問診には以下の視点を組み込むと漏れを防げます。
服薬継続率を維持するためには、「皮膚障害が出ていること自体がEGFR阻害の証拠で、薬が効いているサインでもある」という情報提供が患者の前向きな服薬継続を支えることがあります。これは使えそうです。ただし、重症化を我慢してよいという意味ではない点は明確に伝えることが原則です。
参考リンク(服薬支援・トレーシングレポートの活用):
京都大学医学部附属病院 タグリッソ服薬情報提供書(トレーシングレポート)(PDF)
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