
相対危険度(relative risk:RR)は、リスク比(risk ratio)とも呼ばれ、ある曝露、治療、生活習慣、検査結果などがある集団と、比較対象となる非曝露集団で、ある転帰が起こる確率を比で表した指標です。臨床研究では、薬剤投与の有無による有害事象の発生、ワクチン接種の有無による感染・重症化、危険因子の有無による疾患発症などを比較する際に用いられます。
基本的な考え方は単純であり、「曝露群での発症リスクは、非曝露群の何倍か」を示します。たとえば、治療群の有害事象発生率が10%、対照群が5%なら、RRは2.0です。これは治療群で当該有害事象が観察されたリスクが、対照群の2倍であったことを意味します。ただし、RRが2.0であっても、絶対リスクが5%から10%へ増えたのか、0.05%から0.10%へ増えたのかでは、患者にとっての影響や意思決定上の重みは大きく異なります。
RRは主として、曝露群・非曝露群の人数と追跡起点が把握でき、各群からのイベント発生を追跡できるコホート研究やランダム化比較試験で算出します。コホート間の観察期間が概ね同等で、累積発症リスクを比較できる状況では、曝露群の累積罹患率を非曝露群の累積罹患率で割る方法が基本となります。
参考)https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2010/04/2010_ekigaku_4.pdf
京都大学OCW:コホート研究と症例対照研究
相対危険度を正確に求めるには、まず曝露の有無と転帰の有無を組み合わせた2×2表を作成します。ここでいう曝露は、薬剤使用、治療介入、喫煙、特定の検査値、疾患要因など、研究上比較したい因子です。転帰は、発症、死亡、改善、再入院、有害事象など、あらかじめ定義された評価項目です。
一般に、曝露群で転帰ありをa、曝露群で転帰なしをb、非曝露群で転帰ありをc、非曝露群で転帰なしをdと置きます。曝露群のリスクはa÷(a+b)、非曝露群のリスクはc÷(c+d)です。したがって相対危険度は、次の式で求めます。
相対危険度(RR)=[a÷(a+b)]÷[c÷(c+d)]
同じ式は、RR=a(c+d)÷c(a+b)と変形できます。ただし、日常的な集計・査読・教育では、まず各群のリスクを別々に算出してから比を取る形のほうが、分母の取り違えを防ぎやすくなります。相対危険度は「症例数の比」ではなく、「各群内での発症リスクの比」である点が最も重要です。
| 項目 | 転帰あり | 転帰なし | 合計 |
|---|---|---|---|
| 曝露群・治療群 | a | b | a+b |
| 非曝露群・対照群 | c | d | c+d |
| 曝露群のリスク | a÷(a+b) | — | 群内の累積発症リスク |
| 非曝露群のリスク | c÷(c+d) | — | 比較基準となる累積発症リスク |
| 相対危険度 | [a÷(a+b)]÷[c÷(c+d)] | — | 曝露群リスク÷非曝露群リスク |
例として、ある薬剤Aの投与後30日以内の悪心発現を、投与群と非投与群で比較する場面を考えます。薬剤A投与群100人のうち20人に悪心が生じ、80人には生じなかったとします。一方、非投与群100人では10人に悪心が生じ、90人には生じなかったとします。このとき、a=20、b=80、c=10、d=90です。
投与群の悪心リスクは20÷100=0.20、すなわち20%です。非投与群の悪心リスクは10÷100=0.10、すなわち10%です。したがって、RRは0.20÷0.10=2.0となります。この結果は、観察された集団において、薬剤A投与群の悪心発現リスクが非投与群の2倍だったことを表します。
ただし、この結果を「薬剤Aが悪心を必ず2倍増加させる」と断定してはいけません。観察研究なら、年齢、性別、がん種、原疾患重症度、併用薬、支持療法、投与量、腎機能、既往歴などが曝露選択と悪心発現の双方に関連し、交絡因子となる可能性があります。薬剤の安全性評価では、RRの大きさに加えて、ベースラインリスク、絶対リスク差、投与開始から転帰までの時間関係、生物学的妥当性、用量反応関係、再投与時の再現性なども統合して評価する必要があります。
RRは標本から得た点推定値であり、同じ設計の研究を別の標本で行えば値は変動します。その不確実性を表すために、通常は95%信頼区間(95%CI)を併記します。RRの95%CIが1.0をまたがない場合、一般的な両側5%水準の考え方では、リスク比が1.0、すなわち両群のリスクが等しいという仮説と整合しにくい結果と解釈されます。
近似法の一例では、まず対数変換したRRの標準誤差を計算します。2×2表に基づく代表的な式は、SE[ln(RR)]=√{1/a−1/(a+b)+1/c−1/(c+d)}です。その上で、95%CIはexp{ln(RR)±1.96×SE[ln(RR)]}として求めます。CIの下限・上限は、対数スケールで計算後、指数変換して元のRRスケールへ戻します。
参考)http://halbau.world.coocan.jp/lecture/2008/epi12.pdf
たとえば、RRが2.0でも95%CIが0.8~5.0なら、推定値はリスク増加方向を示す一方、データの不確実性が大きく、RR=1.0も区間内に含まれます。この場合、「統計学的有意差がない」ことと「臨床的に意味のある差がない」ことは同義ではありません。イベント数が少ない、追跡脱落が多い、症例数が不足しているなどにより、効果推定の精度が低い可能性があります。
反対に、非常に大規模なデータベース研究では、RRが1.05のように小さい差でもCIが1.0をまたがず、統計学的有意となることがあります。その際は、絶対リスク差、必要治療数(NNT)または必要害数(NNH)、患者背景、アウトカムの重篤性、代替治療の有無を評価し、臨床的に意味のある差かを見極める必要があります。
RRと混同されやすい指標にオッズ比(odds ratio:OR)があります。RRが「発症リスクの比」であるのに対し、ORは「発症オッズの比」です。オッズは、発症確率pに対してp÷(1−p)で表されます。2×2表では、OR=ad÷bcとして計算できます。症例対照研究では、研究者が疾患の有無に基づいて対象者を抽出するため、原則として発症リスクそのものを直接算出できず、ORを用いることになります。
参考)301 Moved Permanently
転帰が稀な場合には、ORはRRに近似することがあります。しかし、転帰頻度が高くなるほどORはRRから離れ、RRよりも効果を大きく見せる方向に働きやすくなります。たとえば、治療群のイベント率が40%、対照群が20%ならRRは2.0ですが、ORは約2.67です。論文の結果を患者説明や院内資料へ翻訳する際、ORを「リスクが何倍」と言い換えると、効果や有害事象の大きさを過大に伝えるおそれがあります。
また、追跡期間が個人ごとに大きく異なる研究では、単純な累積リスク比でなく、人時間を分母にした発生率比(incidence rate ratio)や、生存時間解析に基づくハザード比(hazard ratio:HR)が選択されることがあります。HRは瞬間的なイベント発生率の比に関する指標であり、累積リスクの比であるRRと同義ではありません。研究デザイン、対象者の選定方法、追跡期間、アウトカム頻度、調整後推定値か未調整値かを確認してから、指標を解釈することが重要です。
医療従事者が相対危険度を確認する際は、まず2×2表から各群の分母を明確にし、RR=曝露群リスク÷非曝露群リスクの順序を固定します。続いて95%CI、絶対リスク差、交絡調整の有無、研究対象と実臨床患者との類似性を評価します。この一連の確認により、数値を単なる「何倍」という見出しで終わらせず、治療選択や患者へのリスクコミュニケーションに活用できるでしょう。