
周皮細胞(pericyte、ペリサイト)は、血管の周囲に存在する壁細胞(mural cell)の一種です。「周皮」という名称のとおり、血管内腔を覆う内皮細胞のさらに外側、すなわち血管の管腔から見て外側の層に位置します。とくに毛細血管、前毛細血管細動脈、毛細血管後細静脈といった微小循環系に沿って分布し、細胞体と細長い細胞突起を血管の長軸方向へ伸ばします。
重要なのは、周皮細胞が単に「血管の外に散在する細胞」ではないことです。典型的には内皮細胞と共通または密接に接する血管基底膜の内部に埋め込まれ、内皮細胞に直接接触します。両者はペグ・ソケット様接触部位や接着結合、ギャップ結合などを介して情報交換を行うと考えられています。したがって組織切片では、血管マーカー陽性の管状構造に沿って、内皮細胞の外側に密着するPDGFRβ陽性またはNG2陽性の細胞として観察されます。
周皮細胞は脳だけに存在する細胞ではなく、循環系をもつ多くの組織・臓器の微小血管網に分布します。ただし、臓器ごとに周皮細胞の密度や内皮細胞に対する比率、微小血管のどの区画まで周皮細胞様の壁細胞が連続するかは異なります。血管の透過性を高度に制御する必要がある組織、あるいは血管恒常性が組織機能に直結する組織では、その意義がとくに注目されています。
代表例は中枢神経系と網膜です。脳では周皮細胞が神経血管ユニットを構成し、内皮細胞、基底膜、アストロサイト終足、ニューロン、ミクログリアなどと近接します。脳毛細血管では、周皮細胞は内皮細胞の管腔側ではなく血管外側に存在するため、脳実質と血管内皮の間でシグナルを仲介しうる解剖学的位置にあります。脳毛細血管表面に対する周皮細胞の被覆は骨格筋や心筋より多く、網膜よりは少ないとする報告もあり、部位ごとの豊富さを理解する際の参考になります。
参考)https://www.ahajournals.org/doi/pdf/10.1161/strokeaha.108.533117
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 前毛細血管細動脈 | 細動脈から毛細血管へ移行する領域に、周皮細胞様の壁細胞が存在する | 血管平滑筋細胞との境界は連続的で、定義は研究系により異なる |
| 毛細血管 | 周皮細胞の典型的な局在部位で、内皮細胞外側の基底膜内に存在する | 細胞体と長い突起が毛細血管に沿って走行する |
| 毛細血管後細静脈 | 周皮細胞または周皮細胞に近い壁細胞が分布する | 炎症時の血管応答や透過性との関係が研究される |
| 脳・網膜 | 神経血管ユニットおよび血液組織関門に近い位置を占める | 血液脳関門、血液網膜関門との関連が重要である |
| 腎臓・筋・皮膚など | 各組織の毛細血管周囲に分布する | 局所環境により遺伝子発現と機能的性質が異なりうる |
周皮細胞の局在を理解する際には、「内皮細胞のすぐ外側にある」という位置そのものが機能に結び付いている点が重要です。内皮細胞は血液と組織の境界を形成しますが、周皮細胞はその外側から内皮細胞の成熟、増殖、細胞間結合、基底膜形成および生存シグナルに関与します。血管新生の過程では、新しく形成された内皮性チューブに周皮細胞がリクルートされ、微小血管の安定化や成熟に関わります。
PDGF-B/PDGFRβシグナルは、内皮細胞と周皮細胞の相互作用を理解するうえで中心的な経路の一つです。内皮細胞側からのPDGF-BシグナルはPDGFRβを発現する周皮細胞の遊走、定着および維持に関与します。この相互作用が障害されると、周皮細胞の被覆低下、微小血管の不安定化、透過性亢進、血管新生異常などが生じうるため、発生生物学、腫瘍血管、糖尿病性微小血管障害、神経変性疾患の研究で重要な論点になります。
脳において周皮細胞が注目される理由は、血液脳関門を構成する内皮細胞に最も近い血管外側の細胞の一つだからです。BBBは単なる物理的な壁ではなく、内皮細胞の密着結合、低い小胞輸送、特異的輸送体、基底膜、周皮細胞、アストロサイトなどが協調して機能する動的な構造です。周皮細胞はこの構造の中で、内皮細胞のバリア表現型の維持、血管新生、局所の炎症応答、毛細血管レベルの血行動態に関わると考えられています。
網膜でも周皮細胞は重要です。網膜は高い代謝要求をもち、血液網膜関門によって厳密な恒常性が必要とされる神経組織です。網膜毛細血管における周皮細胞の消失や障害は、糖尿病網膜症で認められる微小血管病変と関連して長年研究されてきました。臨床的には「周皮細胞脱落」という表現が使われることがありますが、病理像の解釈では、細胞数の実測、マーカーの変化、細胞死、表現型変化、標本作製条件を区別する必要があります。
実際の評価では、第一に血管内皮マーカーとの位置関係を確認します。CD31/PECAM-1、endomucin、lectinなどで内皮性血管構造を描出し、その血管の外側に沿って候補細胞が存在するかを評価します。第二に、複数の周皮細胞関連マーカーを組み合わせます。第三に、核の位置、細胞体から伸びる突起、毛細血管に沿った走行、基底膜との関係を観察します。第四に、α-SMAやMYH11などを用いて平滑筋細胞優位の血管区画との違いを検討します。
研究論文や病理の読影では、「どこにあるか」を血管径と解剖学的区画に言い換えると整理しやすくなります。すなわち、周皮細胞は大血管の中膜ではなく、主として毛細血管網とその移行部の壁にあり、内皮細胞に接する血管外側の細胞です。脳、網膜、腎臓、筋、皮膚、腫瘍など、観察する臓器によって見かけやマーカーの解釈が変わるため、周皮細胞を一律の細胞集団とみなさず、「臓器特異性をもつ微小血管壁細胞群」として評価することが、臨床研究・基礎研究の双方で妥当でしょうか?