お酒をほとんど飲めない患者さんにニトログリセリンを投与すると、血管拡張が有意に遅延することがあります。
硝酸薬が体内に入ると、まず血管平滑筋細胞内でNO(一酸化窒素)が遊離されます。 このNOが可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を活性化し、GTPからcGMP(サイクリックGMP)の産生を促進します。 cGMPが増加すると、プロテインキナーゼG(PKG)が活性化されます。
参考)循環器薬の作用機序とは? 意味や使い方 - コトバンク
PKGはミオシン軽鎖を脱リン酸化し、細胞内カルシウム濃度を低下させ、カルシウムチャネルを閉じるという3つの作用によって血管平滑筋を弛緩させます。 つまり、「硝酸薬→NO遊離→グアニル酸シクラーゼ活性化→cGMP増加→PKG活性化→平滑筋弛緩→血管拡張」という一連の連鎖が起きます。結論はNO/cGMP経路が核心です。
参考)【医学生・薬学生必見!】NO (一酸化窒素)の働きと硝酸薬の…
なお、硝酸薬がNOを遊離するためにはALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)による代謝が必要です。 これはプロドラッグ的な側面であり、ニトログリセリン(GTN)の場合に特に顕著です。これは後述の個人差に直結します。
参考)https://www.tmd.ac.jp/mri/cph/members/PDF/nikkei_2014October_ALDH2.pdf
参考:NO→cGMP→血管拡張の分子機序を図解で解説(薬剤師情報局)
硝酸薬の作用機序 - 薬剤師情報局
硝酸薬は全身の血管に作用しますが、その強さは部位によって異なります。最も強く作用するのは静脈です。 静脈が拡張することで静脈血液の貯留が増し、心臓へ戻る静脈還流量(前負荷)が減少します。前負荷が下がれば心臓の仕事量が減り、心筋の酸素消費量が軽減されます。
冠動脈(特に200μm以上の太い冠動脈)も拡張させます。 カルシウム拮抗薬ほどではありませんが、冠血流量増加により心筋への酸素供給が増えます。動脈の拡張は相対的に弱めですが、末梢血管抵抗が低下することで後負荷も軽減されます。 静脈系が静脈を2倍以上のスペースに広げられるとも言われており、前負荷軽減の効果は非常に大きいです。
静脈系への作用が主であることを覚えておけばOKです。これにより狭心症だけでなく、急性心不全・高血圧緊急症の治療にも応用できます。
臨床で使用する硝酸薬には主に以下のものがあります。
これらは全て「硝酸薬」としてNO→cGMP経路で作用しますが、ニトログリセリンはALDH2依存性が特に高く、硝酸イソソルビドはその依存性が低いという差があります。 後述するALDH2遺伝子多型の影響を受けるのは主にニトログリセリンです。これは同じ硝酸薬でも使い分けに直結します。
急性発作への対応として舌下錠やスプレー剤を使用する場合、発現時間は通常1〜3分です。重要な点は、5分以内に効果が出なければ再投与を検討し、3回投与しても改善しない場合はただちに医療機関への連絡が必要になることです。
参考:硝酸薬の剤形・種類別の使い分けについて(医書.jp 臨床薬理)
硝酸薬 (medicina 37巻8号)
ここは特に注目すべき点です。ニトログリセリンはプロドラッグであり、ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2型)によって代謝されてNOを放出します。 ALDH2遺伝子には487番アミノ酸における1塩基多型があり、活性型(*1/*1)、ヘテロ型(*1/*2)、非活性型(*2/*2)の3タイプが存在します。
日本人の約44%がこのALDH2遺伝子多型(*1/*2または*2/*2)の保有者とされており、お酒で顔が赤くなりやすいいわゆる「フラッシャー」と呼ばれる体質と重なります。 研究によると、*1/*2と*2/*2のタイプではGTN投与後の血管拡張に要する時間が有意に長かったことが示されています。 つまり、狭心症発作時に舌下ニトログリセリンを使っても、約44%の日本人では効果の発現が遅延する可能性があります。
これが個人差の正体です。アルコール非耐性の患者さんにはISDN(硝酸イソソルビド)の方が反応の安定性が高い可能性があります。 発作予防薬の選択や緊急時の評価に影響する知識として、臨床現場での意識が求められます。
参考:ALDH2遺伝子多型と硝酸薬投与後の血管拡張・耐性形成(KAKEN研究)
KAKEN — 研究課題をさがす
硝酸薬の連続投与では「耐性」が問題となります。24時間継続して硝酸薬を使い続けると、数時間〜数日で効果が著しく低下することが知られています。 これを「硝酸薬耐性(ニトレート耐性)」と呼びます。
参考)硝酸薬の耐性について
耐性形成のメカニズムのひとつとして、ALDH2活性の低下があります。 ニトログリセリンの代謝にはALDH2の活性中心にあるシステイン残基(Cys)が必要ですが、反応後にCysが変性・不活化されると代謝能力が落ちます。また、持続的なNO産生は活性酸素(スーパーオキシド)の産生を増加させ、NOを不活化させるという悪循環も関与します。
対策として有効なのは「休薬時間(nitrate-free interval)」の設定です。 1日90分以上、硝酸薬の血中濃度を低下させる時間帯を設けることで、耐性を回避できることが示されています。実際に経皮吸収製剤(貼付剤)では、就寝前に剥がして翌朝貼り替えるという方法が実践されています。この「貼り替えのタイミング」が耐性予防の条件です。
耐性に注意すれば大丈夫です。長期使用の患者さんのケアで「最近ニトロが効きにくい」という訴えがあったときは、投与間隔と休薬時間を確認することが第一歩になります。
臨床で特に注意すべきなのが、硝酸薬とPDE5阻害薬の併用禁忌です。シルデナフィル(バイアグラ)、タダラフィル(シアリス・アドシルカ)、バルデナフィルは、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害することでcGMPの分解を抑制します。 一方、硝酸薬はNO経路でcGMPを増加させます。
この2つが重なると、cGMPが過剰に蓄積して急激かつ重篤な血圧低下(場合によっては致死的な低血圧)を引き起こします。 勃起不全治療薬としてのシルデナフィルだけでなく、肺動脈性高血圧症の治療薬としてのタダラフィル(アドシルカ)も同様の禁忌対象です。これは必須の知識です。
なお、「最後にシルデナフィルを服用してから何時間後なら硝酸薬を投与できるか」については、シルデナフィルで24時間以上、タダラフィルでは半減期が長いため48時間以上が目安とされています。救急での問診で薬歴確認が欠かせません。これを知らないと患者さんに取り返しのつかないリスクが生じます。
参考:シルデナフィルと硝酸薬の相互作用・cGMP経路(薬剤師国家試験解説)
薬剤師国家試験 第102回 問28 過去問解説

【指定医薬部外品】 新ビオフェルミンSプラス錠 550錠 61日分 大正製薬 整腸剤 [乳酸菌/ビフィズス菌/ロンガム菌/フェーカリス菌/アシドフィルス菌 配合] 腸内フローラ改善 便秘や軟便に