視神経炎は、視神経に生じる炎症性または脱髄性の障害を背景として、急性から亜急性の視機能低下を来す病態です。臨床的には、片眼性の視力低下、見え方のかすみ、視野の中心が抜ける感覚、眼の奥の痛み、眼球運動時痛などを契機に受診する例が多くみられます。典型的な視神経炎では、視力低下は数時間から数日で進行し、発症後およそ1~2週間で最も悪化する経過をとることがあります。視力障害の程度には幅があり、軽い霧視から高度の視力低下、まれには光覚低下まで至る場合があります。
参考)視神経炎 - 17. 眼疾患 - MSDマニュアル プロフェ…
患者の訴えは「片目だけピントが合わない」「中央に黒い影がある」「白が黄ばんで見える」「赤色がくすんで見える」「明るさが左右で違う」といった非特異的な表現になり得ます。そのため、単に視力表の結果だけを確認するのではなく、発症時期、進行速度、単眼性か両眼性か、視野のどの部位に異常を自覚しているか、疼痛の有無と誘発因子を系統的に聴取することが重要です。特に色覚の低下や赤色の彩度低下は、視力低下が軽度な段階でも認められることがあり、患者が自覚していないこともあります。
参考)視神経炎 - 20. 眼の病気 - MSDマニュアル家庭版
視神経炎が疑われる場合は、矯正視力、近見視力、瞳孔所見、色覚、視野、眼底、眼球運動、必要に応じて光干渉断層計(OCT)を組み合わせて評価します。片眼性または左右差のある視神経障害では、患側への直接対光反射が低下し、相対的求心性瞳孔障害(relative afferent pupillary defect:RAPD)が検出されることがあります。RAPDは網膜・視神経の片側性または非対称性障害を示す重要な徴候であり、ベッドサイドではswinging flashlight testを丁寧に実施します。
参考)Optic neuritis - Symptoms, dia…
視野異常としては中心暗点、傍中心暗点、中心盲点拡大、中心盲点と固視点をつなぐ中心盲点・盲点暗点、びまん性の感度低下などがみられます。患者が「視野が狭い」と表現していても、実際には中心部の視認性低下によって読字や顔認識が困難になっている場合があります。対座法だけで異常が明瞭でない場合にも、症状や他覚所見に応じて静的視野検査を検討します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 視力 | 急性から亜急性に低下し、程度は軽度から高度まで幅広い | 単眼性が典型だが両眼性もあり得る |
| 疼痛 | 眼窩周囲痛、眼球後部痛、眼球運動時痛 | 典型例で多いが、欠如しても除外はできない |
| 色覚 | 色覚低下、赤色の彩度低下、左右差 | 視力低下より目立つ場合がある |
| 瞳孔 | 片側性または左右差があればRAPDを確認する | 両眼性で対称の場合はRAPDが明瞭でないことがある |
| 視野 | 中心暗点、傍中心暗点、中心盲点拡大、びまん性低下 | 自覚症状と視野パターンの対応を確認する |
| 眼底 | 正常に見えることもあり、軽度の視神経乳頭腫脹を伴うこともある | 出血や著明な滲出は非典型所見として評価する |
成人の典型的な脱髄性視神経炎は、比較的若年から中年の患者において、片眼性、亜急性、眼球運動時痛を伴う視力低下として発症し、一定期間後に自然回復傾向を示すことが多い病型です。しかし、視神経炎という診断名は単一疾患を意味するものではありません。多発性硬化症関連視神経炎、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)に関連するAQP4抗体陽性視神経炎、MOG抗体関連疾患(MOGAD)、感染症、自己免疫疾患、肉芽腫性疾患、傍腫瘍性病態、薬剤関連など、多様な病因を含みます。
日本眼科学会は視神経症の症状として、片眼、ときに両眼の急激な視力低下、中心暗点、上下半視野の欠損、眼球運動痛、眼の圧迫感などを示しています。症状の組み合わせと時間経過を捉え、典型例に合致するかだけでなく、危険な非典型例を見落とさないことが初期対応の本質です。
参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=32
日本眼科学会:視神経症(視神経炎)の解説
視神経炎の臨床診断では、眼科所見に加えて、造影MRIによる視神経の評価および脳・脊髄病変の検索が大きな役割を果たします。眼窩MRIでは、脂肪抑制T2強調画像や造影T1強調画像によって視神経の腫大、信号異常、造影増強を評価します。中枢神経系の脱髄病変の有無は、多発性硬化症のリスク評価や神経内科的な診療方針に関わります。
ただし、MRI所見は臨床像と切り離して解釈してはなりません。眼球運動時痛を伴う亜急性単眼性視力低下、色覚低下、RAPD、視野異常という臨床的組み合わせは視神経炎を支持しますが、視神経周囲炎、虚血性視神経症、浸潤性病変、圧迫病変などでも視神経の異常がみられ得ます。画像検査の目的は単なる診断名の確認ではなく、病因の層別化、緊急治療の適応判断、再発予防や長期管理の基盤づくりにあります。
視神経炎が疑われる患者では、「翌日以降の外来予約」でよいのか、「当日中の眼科評価や救急対応を要するのか」を症状の重症度と鑑別疾患から判断します。急速に進行する視力低下、著しい視力障害、両眼性障害、乳頭浮腫や網膜所見、神経学的異常、発熱などの全身症状、免疫抑制状態、巨細胞性動脈炎を疑う症候、突然完成した無痛性視力低下がある場合は、典型的視神経炎と決めつけず、速やかな専門評価につなげる必要があります。
患者への説明では、「視神経の炎症が疑われ、視力・視野・色覚に影響し得ること」「眼底が一見正常でも視神経の病気を否定できないこと」「原因によって検査や治療、将来の経過が異なること」を、過度に断定せず伝えます。視力低下がある患者では、転倒、運転、危険機械の操作、服薬管理、仕事上の安全に直結するため、片眼視であっても生活上のリスクを確認します。特に視野欠損やコントラスト感度低下がある場合は、標準視力だけでは実生活上の支障を過小評価しやすい点に注意します。
MSDマニュアル プロフェッショナル版:視神経炎