神経内分泌腫瘍ガイドライン2026の診療実践要点

膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン2026年版は、原発巣別の構成へ大きく再編され、PRRTも扱う第3版です。病理診断、病期評価、治療選択を実臨床でどう整理すべきでしょうか?

神経内分泌腫瘍ガイドライン2026の基礎知識と核心ガイド

原発巣別に読むNEN診療戦略
第3版は原発巣別に再構成

膵臓から直腸までの原発部位を軸に、全身療法と遺伝性も含めて診療判断を整理した構成となっています。

病理・機能性評価が出発点

分化度、増殖能、機能性の有無、進展範囲を統合し、NETとNECを混同しない治療設計が重要です。

PRRTを含む選択肢を検討

切除適応、薬物療法、肝転移への局所治療、ソマトスタチン受容体標的内照射を多職種で検討します。


NEN診療ガイドライン2026年版の位置付け



「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン 2026年」は、日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS)に関連する診療指針として刊行された第3版である。前版である2019年版から約6年半を経て改訂され、希少がんである膵・消化管NENの診療において、診断から治療、遺伝性疾患への対応までを整理することを目的としている。旧版は治療法別の構成が中心であったが、2026年版では臨床の患者導線に合わせ、原発巣別の考え方を前面に出した構成へ再編された。
対象は主に膵・消化管由来の神経内分泌腫瘍であり、膵臓、食道、胃、十二指腸、小腸・虫垂、結腸・直腸の各部位を扱う。さらに、原発部位横断的に参照される全身療法と、遺伝性の背景を有する症例への対応も独立した論点として取り上げられている。神経内分泌腫瘍は発生部位、分化度、Ki-67指数、ホルモン産生の有無、腫瘍量、転移臓器、症候性などによって臨床像が大きく異なるため、「NEN」という一つの名称だけで治療を一律に決めないことが重要である。2026年版を読む際は、原発部位別の章を起点にしつつ、病理、画像、全身療法、遺伝性の項目を横断して参照する運用が実用的である。
膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン 2026年版の出版社情報


診断時に統合すべき病理・画像・臨床情報

NENでは、治療方針を決定する前提として、病理学的な腫瘍分類と病期評価を精度よく行う必要がある。まず、神経内分泌分化を確認し、形態学的分化度と増殖能を評価する。臨床現場では、分化良好な神経内分泌腫瘍であるNETと、分化不良で一般に高悪性度の神経内分泌癌であるNECを区別することがとりわけ重要となる。高いKi-67指数のみから単純にNECと判断するのではなく、組織学的所見、壊死、細胞異型、増殖パターン、免疫組織化学的所見を病理医と共有して総合的に判定する。
画像評価では、原発巣の局在、局所進展、肝・リンパ節・腹膜・骨などへの転移、治療前後の腫瘍量変化を把握する。造影CTやMRIは解剖学的進展の評価で中心的役割を担い、病変分布や肝転移の性状に応じて撮像法を選択する。加えて、ソマトスタチン受容体(SSTR)発現の評価は、分化良好NETにおける診断補助だけでなく、ソマトスタチンアナログやペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)の適応を検討する基盤となる。一方、増殖が速い病変やNECを疑う場面では、腫瘍生物学の把握を目的に別の機能画像が臨床判断へ寄与することがある。

項目 基準・内容 備考
原発部位 膵臓、胃、十二指腸、小腸・虫垂、結腸・直腸などを同定する 部位により転移形式、内視鏡的治療や手術の考え方が異なる
分化度 NETとNECの鑑別を病理形態と免疫組織学的情報で総合評価する 高グレード病変でも分化良好NETである可能性を検討する
増殖能 Ki-67指数および核分裂像を確認する 予後推定と治療強度の検討に用いるが、単独で治療を固定しない
機能性 ホルモン過剰症状と関連する生化学的検査を評価する 症候性では腫瘍制御と同時にホルモン症候群の安全管理が必要
SSTR発現 受容体画像を含めて評価し、標的治療・PRRTの検討材料とする 病変間不均一性や腫瘍進展時の再評価にも留意する
病期・腫瘍量 局所進展、リンパ節、肝、腹膜、骨などの転移を評価する 切除可能性、局所療法、全身療法の優先順位を左右する

機能性NENでは、腫瘍径や画像上の進行度だけでは臨床的な緊急性を判断できない。インスリノーマに伴う低血糖、ガストリノーマに伴う消化性潰瘍や下痢、カルチノイド症候群に伴う紅潮・下痢・気管支攣縮などでは、ホルモン関連症状がQOLと周術期安全性を直接左右する。患者の症状日誌、栄養状態、併存症、服薬内容も含め、腫瘍評価と症候群評価を並行して進める必要がある。


原発巣別に考える局所治療と手術適応

2026年版の大きな特徴は、膵臓、食道、胃、十二指腸、小腸・虫垂、結腸・直腸という原発巣別の臨床課題に沿って情報を参照しやすくした点にある。消化管NENでは、原発巣の部位、腫瘍径、深達度、脈管侵襲、グレード、切除断端、リンパ節転移リスクなどを踏まえ、内視鏡的切除、局所切除、系統的リンパ節郭清を伴う手術のいずれを選ぶかを検討する。内視鏡治療の可否は「小さいから切除可能」とは限らず、病理学的リスク因子と完全切除の見込みを確認する必要がある。
膵NENでは、機能性か非機能性か、腫瘍サイズ、画像上の悪性所見、主膵管との位置関係、遺伝性疾患の可能性、患者の年齢・併存症・膵機能などが手術方針に影響する。低リスクと判断される小型の非機能性病変では、直ちに手術を選ばず、画像フォローアップを含む慎重な経過観察が選択肢となる場合がある。一方で、機能性病変、増大傾向、浸潤や転移が疑われる病変、悪性度上昇を示唆する所見がある病変では、外科治療を含めた積極的評価が必要となる。

  • 内視鏡的または局所的な治療を検討する際は、原発部位、サイズ、深達度、脈管侵襲、グレード、完全切除の見込みを確認する
  • 根治切除を目指す場合は、原発巣のみでなく所属リンパ節、血管浸潤、遠隔転移、残存臓器機能を同時に評価する
  • 肝転移を伴う場合は、切除可能性、腫瘍量、病変分布、腫瘍増殖速度、症候性をもとに、手術・局所療法・全身療法の順序を多職種で検討する
  • 手術適応の判断では、画像所見だけでなく、病理学的悪性度、機能性症候群、患者の希望と治療負担を統合する

転移性病変に対する局所療法では、肝転移の分布や腫瘍量、将来の全身治療の選択肢、肝予備能、門脈血流などを確認する。病勢が比較的緩徐で肝優位の病変では、切除や肝動脈を介する治療、焼灼などを検討する余地があるが、すべての患者に局所治療を優先するわけではない。治療目的が根治、腫瘍減量、症候緩和、病勢制御のどれにあるのかを明確にし、治療後に評価すべき指標も事前に共有することが重要である。


進行・再発NENの全身療法とPRRTの考え方

切除不能、再発、遠隔転移を有する分化良好NETでは、治療開始の時期と治療順序を個別化する必要がある。無症候性で腫瘍量が少なく、画像上も安定している症例では、一定の間隔で画像フォローを行いながら経過をみる判断があり得る。一方、腫瘍増大、臓器障害リスク、ホルモン関連症状、腫瘍量の増加、患者の不安や生活への影響がある場合には、全身治療または局所療法を含めた介入を検討する。治療の目的は、必ずしも画像縮小のみではなく、進行抑制、症候緩和、臓器機能の維持、治療継続可能な生活の確保にある。
ソマトスタチンアナログは、SSTR陽性で分化良好なNETにおいて、ホルモン症候群のコントロールと腫瘍増殖抑制の両面から検討される重要な治療選択肢である。分子標的薬や細胞障害性抗がん薬は、原発部位、グレード、進行速度、既治療、腫瘍縮小の必要性、患者の臓器機能などを踏まえて選択する。膵NETでは腫瘍縮小を必要とする局面があり、消化管NETとは薬物療法の優先順位が異なることがあるため、原発部位別の考え方を確認する必要がある。
2026年版では、2021年に保険承認されたPRRTが新しい治療法として追加されている。PRRTは、SSTRを発現する腫瘍細胞へ放射性核種を結合させたペプチドを集積させ、標的内照射を行う治療である。適応検討では、SSTR発現の評価、骨髄機能、腎機能、肝機能、腫瘍進展、既治療、患者の全身状態を確認し、核医学、腫瘍内科、消化器内科、外科、放射線部門等の連携を前提に計画する。PRRTは「SSTR陽性であれば自動的に実施する治療」ではなく、病勢、症候、他の有効な選択肢、治療施設の体制を比較したうえで位置付けるべきである。
2026年版におけるPRRT追加と原発巣別構成の書誌情報
NECが疑われる場合は、分化良好NETとは生物学的挙動や治療反応性が異なり得るため、同じ「神経内分泌腫瘍」として一括りにしない。急速な病勢進行、強い全身症状、画像・病理の不整合、治療抵抗性がみられるときは、病理標本の再評価や再生検を含めて診断の再確認を行う。再発時や治療抵抗性の局面では、初診時のグレード・SSTR発現が維持されているとは限らないため、腫瘍の不均一性を意識した再評価が必要である。


遺伝性背景と多職種連携で見落とさない実務

NENの一部には遺伝性腫瘍症候群が関与する。若年発症、多発性病変、複数の内分泌臓器病変、特徴的な家族歴、皮膚・中枢神経・腎などを含む関連病変がある場合には、遺伝性背景を念頭に置く必要がある。代表的には多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)などが鑑別の対象となり、病変の見つかり方によっては、単発の散発性腫瘍として扱うだけでは不十分なことがある。
遺伝カウンセリングや遺伝学的検査を検討する際は、検査の医学的意義だけでなく、本人と血縁者への影響、結果の伝え方、長期サーベイランス、就労・保険・心理面の懸念などにも配慮する。遺伝情報は患者本人だけに閉じない可能性があるため、主治医のみで完結させず、遺伝医療部門や専門家と連携し、十分な説明と同意のもとで進めることが望ましい。2026年版が遺伝性を独立した論点として扱う意義は、原発巣の治療選択に加えて、生涯を通じた臓器横断的な管理を見据える点にある。
実務上は、初診時から病理医、放射線診断医、消化器内科医、腫瘍内科医、外科医、核医学・放射線部門、内視鏡医、緩和ケア、看護師、薬剤師、栄養士などが情報を共有できる体制が望ましい。希少がんでは、各施設が経験する症例数に限りがあるため、診断の不確実性、切除可能性、PRRTを含む治療選択、臨床試験の可能性などについて、必要に応じて専門施設へ相談することが患者利益につながる。
日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS)


診療現場での2026年版の使い方

神経内分泌腫瘍ガイドライン2026年版を実務で活用する際は、まず患者を「原発巣」「分化度・グレード」「機能性」「病期・腫瘍量」「SSTR発現」「遺伝性の可能性」という六つの軸で整理する。その後、原発巣別の章で局所治療と外科的判断の基本を確認し、進行例では全身療法およびPRRTに関する横断的な情報を参照する。これにより、診療科ごとに異なる断片的な判断を避け、患者ごとの診療計画を一枚の臨床像として組み立てやすくなる。
ただし、ガイドラインは標準的な判断を支える道標であり、個々の患者に対する機械的な適用表ではない。希少腫瘍であるNENでは高品質な比較試験が限られる領域もあり、推奨の解釈には患者背景、施設経験、使用可能な医療資源を踏まえた臨床判断が伴う。とくに、治療を急ぐべき症候性疾患か、経過観察を許容できる緩徐進行例か、腫瘍縮小を優先すべき臓器危機に近い状態かを見極めることが、治療選択以上に重要になる場面がある。
外来・カンファレンスでは、病理診断書の分化度とKi-67値、最新画像での病変分布と増大速度、SSTR評価、症候の有無、既治療歴、臓器機能、患者の治療目標を定型的に確認するとよい。たとえば、SSTR陽性で増大傾向を示す分化良好転移性NETでは、ソマトスタチンアナログ、局所療法、分子標的薬、化学療法、PRRTを単独の優劣だけで比較するのではなく、必要な腫瘍縮小、治療の即効性、毒性、通院負担、次治療の選択肢を並べて検討する。2026年版の原発巣別構成を活用しながら、多職種カンファレンスで治療順序まで合意しておくことが、継続的で再現性の高いNEN診療につながる。


参考)膵・消化管神経内分泌腫瘍(NEN)診療ガイドライン 2026…

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