色覚異常とは、主に網膜の錐体細胞が担う色の感じ方が、多数派の色覚特性と異なる状態を指す言葉です。人の色覚は、短波長域に感度をもつS錐体、中波長域のM錐体、長波長域のL錐体という3種類の錐体の信号を脳が統合することで成立します。いずれかの錐体の欠損、感度低下、または感度特性の違いがあると、特定の色の組み合わせで色差を捉えにくくなります。日本眼科医会は、先天性と後天性の色覚異常があり、錐体の機能が十分でない場合に色を識別しにくくなると説明しています。
参考)色覚関連情報
医療従事者が患者、家族、学校関係者、あるいは同僚に説明する際には、「色が見えない」「赤と緑が反対に見える」といった単純化を避けることが重要です。先天赤緑色覚異常では、色そのものが別の単一色に置換されるのではなく、色相・明度・彩度の組み合わせによって、健常とされる多数派とは異なる色同士が似て感じられます。たとえば赤、茶、緑の近接、暗い赤・暗い緑・黒の混同、ピンク・灰色・水色の近接などが生じ得ます。
参考)https://www2.nict.go.jp/barrierfree/103/accessibility/proof/report/color/index.html
「色覚異常の見え方画像」は、こうした混同の起こりやすさを可視化する教育素材として有用です。しかし、画像はあくまでシミュレーションです。元画像の色空間、ディスプレイのキャリブレーション、照明、圧縮、閲覧者の視機能、色覚特性の型と程度によって印象は変わります。同じ診断名であっても見え方は一様ではないため、画像を見せて「本人には必ずこのように見える」と説明しない姿勢が必要です。
先天性の色覚異常では、赤緑色覚異常が大部分を占めます。L錐体に関連する1型色覚、M錐体に関連する2型色覚、およびそれぞれの異常3色覚などが含まれます。さらに頻度は低いものの、S錐体に関係する青黄色覚異常もあります。後天性色覚異常は、加齢性・黄斑部を含む網膜疾患、視神経疾患、白内障、薬剤性変化など、多様な眼・視路の病態に伴いうるため、先天性と同じ前提で扱わないことが大切です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 1型色覚・1型色覚異常 | L錐体の欠損または機能特性の違いに関連する赤緑色覚異常 | 赤、緑、茶、暗色などの判別で困難が生じることがある |
| 2型色覚・2型色覚異常 | M錐体の欠損または機能特性の違いに関連する赤緑色覚異常 | 1型と同様に赤緑軸の色差が小さく感じられやすい |
| 青黄色覚異常 | S錐体に関係する、青と黄を含む色の識別特性の違い | 先天性は比較的まれで、後天性要因も評価する |
| 後天性色覚異常 | 網膜、視神経、水晶体などの病変・変化に伴う色覚の変化 | 左右差、進行性、視力低下、視野異常などを確認する |
患者説明用の画像では、混同しやすい組み合わせを具体的に示すと理解が深まります。日本眼科医会は、赤と緑、橙と黄緑、茶と緑、青と紫、ピンクと白・灰色、緑と灰色・黒、赤と黒、ピンクと水色などを、似かよって見える可能性がある色の例として示しています。ただし、これは全員に同一の混同が起こるという意味ではなく、色の明るさ、鮮やかさ、面積、背景、照明によって変わることを併記しましょう。
参考)冊子「色覚異常を正しく理解するために」
日本眼科医会「色覚異常を正しく理解するために」
ウェブ上の「色覚異常シミュレーション」は、一般に多数派の色覚で見た原画像を、一定のアルゴリズムで変換して提示します。そのため、色覚特性の違いを知らないスタッフが配色上の問題に気づくためには役立ちます。一方で、画像変換は個々の患者の主観的体験を測定するものではありません。特に、先天性の色覚特性は生涯を通じた視覚経験の中で形成されるため、多数派の色覚で「変換後の画像」を見た人が短時間で体験する印象と、当事者の日常的な色の認知を同一視することはできません。
また、画像の表示環境は大きな交絡要因です。スマートフォンのナイトモード、ブルーライト低減、画面の自動輝度、印刷機器の色再現性、病棟照明、自然光の有無は、いずれも色の見えを変化させます。日本眼科医会は、色覚検査を実施する際には十分な明るさの自然光または昼光色蛍光灯を用い、検査表と視線を垂直にし、提示時間を管理することを示しています。これは検査表だけでなく、色を扱う説明資料や教育用画像の閲覧条件にも通じる考え方です。
参考)https://www.gankaikai.or.jp/colorvision/20190823_shishin.pdf
臨床で色覚の変化を訴える患者にシミュレーション画像のみを見せ、「この見え方なら色覚異常です」と判断することは不適切です。急な色の見え方の変化、片眼だけの違和感、視力低下、中心暗点、変視、視野異常、眼痛を伴う場合には、先天的な特性と決めつけず、網膜・黄斑・視神経・水晶体などを含む眼科的評価につなげる必要があります。
色覚検査は、目的に応じてスクリーニングと精密評価を区別して説明します。石原色覚検査表は赤緑色覚異常のスクリーニングとして広く用いられますが、これだけで型や程度を確定するものではありません。学校での色覚検査について日本眼科医会は、医学的に認められた検査表を使用し、石原色覚検査表Ⅱコンサイス版14表では12表中2表以上の誤読を「色覚異常の疑い」とする一方、学校での検査は診断ではなくスクリーニングであると明記しています。
型の鑑別や程度の評価では、パネルD-15テストやアノマロスコープなどを組み合わせます。日本眼科医会によれば、1型と2型を正確に区別するにはアノマロスコープが必要であり、通常は標準色覚検査表などに加えてパネルD-15テストの結果を用います。パネルD-15をパスする場合は中等度以下、パスしない場合は強度異常と判定する考え方が示されています。
参考)色覚異常といわれたら
患者へ説明する際は、「検査で異常が疑われた」ことと「生活上の能力が低い」ことを結びつけないよう配慮します。色覚異常があっても、対象の形や文字、明暗、文脈など色以外の手がかりを活用して、多くの日常活動を問題なく行っている人は少なくありません。一方、色だけで情報を符号化した場面では困難が起こり得るため、職業選択、学校生活、服薬管理、危険表示などで具体的な困りごとを聴取し、必要な環境調整を一緒に考えることが実践的です。
日本眼科医会「色覚異常といわれたら」
医療安全の観点からは、患者向け資材、薬袋、服薬カレンダー、自己注射手順書、インスリンや吸入器の説明、外用薬の使い分け、トリアージ表示、院内掲示などで、色のみを識別手段にしないことが原則です。「赤いシールの薬を朝に飲む」「緑の線まで注入する」「赤字なら緊急」といった表現は、色覚特性、照明、視力、認知機能、言語理解など複数の要因により誤認の余地を残します。
たとえば、内服薬の服用時点を色分けする必要がある場合、「朝=黄色、昼=緑、夕=赤」という配色だけで区別させるのではなく、「朝」「昼」「夕」の文字を十分な大きさで併記し、太陽・時計・月のような異なるピクトグラム、服用欄の固定位置、異なる枠線や模様を組み合わせます。色を使うなら、背景との明度差を確保し、赤と緑、緑と茶、青と紫、ピンクと灰色など、混同されやすい組み合わせの隣接を避けることが望まれます。
色の区別がさらに難しくなりやすい条件として、暗い環境、小さな対象、鮮やかさの低い中間色、疲労、焦りなどが挙げられます。日本眼科医会も、衣類の選択の例で、暗い場所や狭い面積での判別を避け、明るい環境で一着ずつ確認する工夫を紹介しています。この考え方は、夜間の服薬、冷蔵庫内の注射薬保管、救急時の表示、病室の薄暗い環境における医療機器の操作にも応用できます。
色覚異常の見え方画像は、配色を作成した側が見落としやすいリスクを発見するためのチェック材料になります。ただし、最終的に重要なのは「画像変換後も判別できるか」だけではありません。患者やスタッフが、色を認識できない状況でも正しい行動を選べるよう、文字・形・配置・手順・ダブルチェックを組み込んだ情報設計になっているかを確認することが、より堅実な医療安全対策といえるでしょう。