脊椎骨折は、骨粗鬆症性圧迫骨折、外傷性破裂骨折、病的骨折に大別されます。骨粗鬆症性圧迫骨折は、尻もちや転倒、日常動作での軽微な衝撃で発生し、寝返りや起き上がり時に耐えがたい痛みを呈するのが特徴です。保存療法で2カ月程度で治癒することが多いものの、約10人に1人は骨癒合せず2カ月以上経過しても疼痛が持続する難治性骨折となります。
手術療法の適応は、(1)すでに神経麻痺を合併している場合、(2)今後麻痺が生じる可能性が高いと判断される場合、(3)保存療法を行っても改善が認められない場合、(4)骨のかけらが神経を圧迫し足のしびれや麻痺が出ている場合、(5)骨がうまくくっつかず不安定な偽関節になった場合、の5点が主要基準です。特に粉砕骨折や爆裂骨折では、骨片が脊柱管内に突出して神経障害を引き起こすリスクが高く、積極的な外科的介入が必要となります。
安定型と不安定型の判別は、レントゲン、CT、MRIを組み合わせ、骨折線の走り方や椎体の潰れ具合を詳細に評価します。圧迫骨折は比較的安定型に分類され保存療法が第一選択となりますが、粉砕骨折は不安定型となることが多く、金属製インプラントによる固定術が検討されます。
経皮的椎体形成術(BKP)は、背中から細い針を刺し、つぶれた椎体の中で風船(バルーン)をふくらませて空間をつくり、医療用の骨セメントを注入して椎体を安定させる低侵襲手術です。皮膚を大きく切開する必要がなく、術後早期の離床が可能で、高齢者や全身状態が不良な患者にも適応されます。骨由来の疼痛改善が期待でき、保存療法で十分な除痛が得られない場合や、骨の潰れが進行する恐れがある場合に選択されます。
除圧術は、突出した骨片や椎間板、肥厚した靭帯などを取り除き、脊髄や神経への圧迫を解除する術式です。前方から骨折した椎体を取り除く前方除圧固定術や、後方から椎弓を切除する方法などがあり、神経症状を伴う症例に実施されます。除圧のみでは背骨の不安定性が残存する場合には、固定術と組み合わせて施行されます。
固定術は、椎弓根スクリューとロッドで後方から固定する後方固定術が最も一般的です。スクリューやロッド、プレートなどの金属製インプラントを用いて脊椎を固定し、安定性と骨癒合を促します。椎体が大きくつぶれている場合には、自家骨や人工骨を用いて椎体を置き換える手術が行われることもあります。近年では、背中や側腹部から小さな切開で行う低侵襲固定術(MISt・XLIFなど)も普及しており、従来の手術と比較して術後の回復が格段に早まっています。
| 術式 | 適応 | 侵襲度 | 早期離床 |
|---|---|---|---|
| 経皮的椎体形成術(BKP) | 骨粗鬆症性圧迫骨折、保存療法不応 | 低(数mm) | 可能(術後即日~翌日) |
| 除圧術 | 神経圧迫を伴う骨折、脊柱管狭窄 | 中~高 | 術後数日~1週間 |
| 後方固定術 | 不安定骨折、粉砕骨折、変形矯正 | 高 | 術後1~2週間 |
| 低侵襲固定術(MISt/XLIF) | 変性すべり症、椎間不安定性 | 中(小切開) | 術後数日~1週間 |
術前評価では、骨折の新旧を判別するためにMRI検査が必須です。骨内部の水分量の変化を可視化することで、現在の疼痛の原因がその骨折にあるのかを確定させます。CT検査は、骨の断片がどのように飛び散っているかという立体的な構造を把握するのに優れており、治療方針の策定には欠かせません。骨密度測定は、骨折の再発リスクを客観的に評価し、将来的な骨折を防ぐための治療薬を正しく選択する上で極めて重要な判断材料となります。
75歳以上が受ける待機的な脊椎固定術において、手術前4週間の多因子リハビリテーションを加えると、術後90日以内の合併症が減少することが無作為化比較試験で示されています。術前リハビリは、肺機能を維持し筋力低下を防ぐだけでなく、精神的な活力の維持にも大きく貢献します。
合併症リスクとしては、感染、深部静脈血栓症、肺塞栓症、神経損傷、内臓損傷(前方アプローチ時)、隣接椎間障害(固定術後)などが挙げられます。特に高齢者では、長期間の寝たきりによる体力低下や認知機能の減退といった合併症を効果的に防ぐため、早期離床が強く推奨されます。
参考)臨床監修|脊椎固定の方法と期待される成功率:手術の流れから術…
現代の整形外科医療では、受傷後できるだけ早い段階、具体的には数日以内からリハビリを開始することが強く推奨されています。まずはベッドの上で手足を動かすなどの軽い負荷から始め、疼痛の程度に合わせて歩行訓練へと進みます。コルセットは、起き上がって活動している時間のみの着用で問題なく、横になっている間は椎体にかかる重力が分散されるため外して休むことができます。ただし、骨折の状態が極めて不安定な場合には、就寝中も着用を指示されるケースがあるため、必ず自身の病態に合わせた医師の指示に従ってください。
再発防止のためには、骨粗鬆症治療の継続が不可欠です。疼痛が消えたからといって治療を自己判断で止めることは、骨の脆弱性を放置することに繋がり、次の骨折を招く大きな要因となります。骨の密度を高め、質を根本から改善するには年単位の継続が必要であり、主治医と連携しながら粘り強く薬物療法を続ける姿勢が求められます。現在は注射薬や飲み薬など多様な選択肢があり、個々の骨の状態に合わせた最適な薬剤を組み合わせることで、高い予防効果を発揮できます。
転倒を未然に防ぐ住環境の整備も、最も身近で効果的な再発防止策の一つです。足元を明るく保つ照明の工夫や、つまずきやすい段差の解消、滑りやすい敷物の撤去など、具体的な改善案を一つずつ実行に移しましょう。また、骨折後はバランス感覚が一時的に低下しやすいため、階段や浴室に手すりを設置することも、安心感を高めるために非常に有効です。
患者指導では、「痛みが消えたからといって治療を自己判断で止めないこと」「転倒予防のための住環境整備」「適切な運動と栄養摂取」の3点を強調してください。適切な治療とリハビリを完遂し、その後の骨粗鬆症対策を継続すれば、多くの方が以前に近い日常生活を取り戻すことが可能です。骨折を「人生の終わり」と捉えるのではなく、今後の体をより大切にするための転換点として前向きに向き合っていくことが大切です。
Q&A対応では、(1)疼痛は受傷から1~2カ月で日常生活に支障がない程度まで落ち着くが、骨の構造的安定には3カ月以上を要する、(2)コルセットは活動時のみ着用で原則就寝時は不要、(3)安全に移動できるのであれば入浴可能、(4)受傷後数日以内からリハビリ開始が推奨、(5)適切な管理で以前に近い生活が可能、といったエビデンスに基づく回答を提供してください。
参考情報として、日本整形外科学会の脊椎疾患ガイドラインや、各施設の脊椎センターの患者向け資料を参照することをお勧めします。広尾病院 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折長岡京病院 圧迫骨折の治療・手術