精巣腫瘍、特に精巣原発の胚細胞腫瘍は、患者自身が気づく片側精巣の腫大やしこりを契機に発見されることが多い疾患です。典型的には、精巣内に硬い腫瘤を触れる、左右で精巣の大きさや重量感が異なる、陰嚢が徐々に大きくなるといった経過をとります。重要なのは、初期に強い痛み、発熱、全身倦怠感を伴わないことが少なくない点です。無痛であることを理由に受診が遅れる患者もいるため、診療時には「痛くないから様子を見ていた」という訴えを軽視しない姿勢が求められます。
国立がん研究センターは、精巣がんの初期症状として無痛性のしこりや精巣腫大が多いこと、痛みや発熱などの自覚症状に乏しい場合があることを示しています。20〜30歳代に多いという疫学的特徴はありますが、年齢だけで可能性を狭めず、精巣内腫瘤を認める場合には悪性腫瘍の可能性を前提に評価を進めることが重要です。
参考)精巣がんの原因・症状について|国立がん研究センター
問診では、腫大・硬結の自覚時期、拡大速度、疼痛の有無と推移、陰嚢外傷、発熱や排尿症状、性交感染症のリスク、停留精巣の既往、不妊治療歴、対側精巣疾患、家族歴などを確認します。ただし、外傷は腫瘍の原因というより、既存の腫瘤を偶然発見する契機になり得ます。外傷歴のみで血腫と断定し、精巣超音波検査を省略しないことが実務上の要点です。
また、陰嚢内容の異常をすべて精巣腫瘍として扱う必要はありませんが、精巣実質由来の充実性病変は悪性として取り扱う必要があります。精巣上体炎、水瘤、精索静脈瘤、精巣捻転、鼠径ヘルニアなどとの鑑別を考慮しつつも、精巣内腫瘤を認めた場合の紹介・精査遅延を避けることが優先されます。AUAも、診察または画像で精巣の充実性腫瘤が確認された場合、悪性腫瘍とみなして対応すべきとしています。
参考)https://www.auanet.org/guidelines-and-quality/guidelines/testicular-cancer-guideline
局所症状は無痛性腫瘤だけではありません。患者は「片側が少し硬い」「以前より重い感じがする」「陰嚢が張る」「精巣の位置が変わった気がする」「運動時や触れたときだけ違和感がある」といった非特異的な表現を用いることがあります。診察者は、患者の言葉をそのまま軽微な症状と解釈せず、精巣そのものの腫大・硬結なのか、精巣周囲の液体貯留なのか、精索・鼠径部の異常なのかを触診と超音波で切り分けます。
疼痛についても、「精巣腫瘍は痛まない」という理解だけでは不十分です。下腹部の重圧感や鈍痛は一定数に認められ、急性の精巣痛を伴う例もあります。腫瘍内出血、梗塞、急速な腫大、周囲組織の牽引などが疼痛の背景として考えられます。急性陰嚢症として精巣捻転を最優先で除外する場面でも、超音波で血流と精巣内病変を確認し、捻転や炎症の診断で説明しきれない所見を残さないことが必要です。国立がん研究センターは、下腹部の重圧感・鈍痛が約30〜40%、急性精巣痛が約10%にみられることがあると説明しています。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 無痛性の精巣腫大 | 片側精巣の増大、重量感、左右差、硬さの変化 | 最も重要な警告所見の一つであり、速やかな超音波評価を考慮する |
| 精巣内の硬いしこり | 精巣実質内に限局する充実性の硬結・結節 | 精巣外病変と区別し、悪性を前提とした専門科評価につなげる |
| 陰嚢痛・精巣痛 | 持続痛、急性痛、圧痛、違和感など | 捻転・炎症の鑑別を急ぐが、腫瘍の除外も必要となる |
| 下腹部の重圧感 | 陰嚢の張り、下腹部の鈍痛、骨盤内の不快感 | 局所病変だけでなく、後腹膜リンパ節病変も念頭に置く |
| 乳房・乳頭の症状 | 乳頭痛、乳房腫大、女性化乳房 | hCG産生などホルモン関連症状として評価する |
臨床現場では、陰嚢痛を訴える若年男性に対して、尿検査や抗菌薬投与だけで経過観察とする状況が問題になり得ます。発熱、明確な尿路症状、精巣上体優位の圧痛などがあれば感染症を考慮しますが、症状と身体所見が一致しない場合、治療への反応が乏しい場合、腫大や硬結が残存する場合には、精巣超音波検査と泌尿器科への紹介をためらわないことが大切です。
精巣腫瘍は後腹膜リンパ節、肺、縦隔、頸部リンパ節などへ進展し得るため、陰嚢以外の症状が初発契機になることがあります。後腹膜リンパ節転移では腰背部痛、側腹部痛、腹痛、下腹部痛、食欲低下などを呈し得ます。肺転移や縦隔病変では咳嗽、息切れ、呼吸困難、胸部不快感、胸痛などが問題となります。鎖骨上・頸部リンパ節腫大は、患者が「首のしこり」として先に自覚する場合もあります。
ホルモン産生に関連して、乳首の痛みや乳房の腫大、女性化乳房を認めることもあります。乳房症状は精巣腫瘍に特異的ではありませんが、若年〜壮年男性に新規出現した女性化乳房を評価する際には、薬剤歴、肝疾患・内分泌疾患などと併せ、精巣診察を省略しないことが重要です。EAUガイドラインは、精巣腫瘍が疑われる患者の身体診察として、両側精巣に加え、乳房、腹部、胸部、鎖骨上・頸部・腋窩・鼠径リンパ節の確認を推奨しています。
参考)Diagnostic Evaluation - EAU Gu…
これらの症状は、それぞれ単独では精巣腫瘍に特異的ではありません。しかし、精巣腫大・硬結との組み合わせ、または若年男性における原因不明の後腹膜・縦隔・頸部病変という文脈では、精巣原発胚細胞腫瘍を鑑別に挙げる意義があります。国立がん研究センターも、進行・転移に伴う腹痛、腰痛、呼吸困難、頸部リンパ節腫大や、ホルモンの影響による乳首の痛み・腫大が起こり得ると説明しています。
精巣腫瘍が疑われるときの初期対応では、問診と視触診に加え、陰嚢超音波検査を速やかに実施または手配します。超音波は精巣内病変か精巣外病変かを判別し、腫瘤の大きさ、内部エコー、血流、対側精巣の所見を把握するための中心的検査です。片側の症状であっても、対側精巣を含めた評価が重要です。EAUガイドラインは、精巣腫瘍が疑われるすべての患者に対して両側精巣超音波検査を推奨しています。
超音波で精巣内充実性病変が確認された場合は、泌尿器科と連携し、血清腫瘍マーカーとしてAFP、hCG、LDHを評価します。ただし、腫瘍マーカーが正常であっても精巣腫瘍は否定できません。マーカーは組織型、病期、治療前後の推移を評価する材料であり、陰性結果だけを根拠に精巣内腫瘤の精査を中止することは適切ではありません。
画像所見・臨床所見から精巣腫瘍が強く疑われる場合、確定診断と局所進展度の評価には原則として高位精巣摘除術および病理組織学的評価が必要です。経皮的針生検や陰嚢からの安易な生検は、標準的な初期診断手順としては選択されません。進行例では胸腹部骨盤の造影CTによる病期評価が行われ、神経症状、多発肺転移、高hCG値など一定の状況では脳画像評価も考慮されます。
EAU Guidelines on Testicular Cancer: Diagnostic Evaluation
実務上は、「精巣腫瘍かもしれない」と考えた時点で、超音波検査の実施・緊急度判定・泌尿器科紹介の導線を同時に整えることが重要です。強い急性痛があれば精巣捻転を想定した緊急対応が優先されますが、捻転が否定的であっても精巣内腫瘤が残れば、悪性病変として次の段階へ進めます。疼痛の有無、炎症反応、年齢、外傷歴だけで診断を固定しないことが、見逃し防止につながります。
患者への説明では、「痛みがないしこりでも検査が必要であること」「精巣腫瘍は早期に評価するほど治療方針を適切に立てやすいこと」「診断確定前に自己判断で受診を延期しないこと」を、過度に不安をあおらず明確に伝えます。若年患者では羞恥心、仕事・学業への影響への懸念、妊孕性や性機能への不安から受診や紹介受診をためらうことがあります。紹介の必要性を具体的に説明し、可能であれば早期の受診予約まで支援することが望まれます。
精巣摘除術や薬物療法の可能性が生じる患者には、治療前の妊孕性温存も重要な論点です。将来の挙児希望の有無は、年齢や婚姻状況から推測せず、本人に確認します。EAUガイドラインは、精巣腫瘍の治療開始前に、すべての患者と精子凍結保存について話し合うことを強く推奨しています。
紹介状には、症状の発症時期と経過、疼痛・発熱・排尿症状、外傷歴、既往歴、停留精巣歴、診察時の左右差・硬結・圧痛、超音波所見、AFP・hCG・LDHを含む検査結果、胸腹部症状、リンパ節・乳房所見を記載します。特に、腰背部痛、呼吸困難、咳嗽、頸部腫瘤、急速な体重減少などがあれば、転移病変を念頭に置いた迅速な病期評価が必要となるため、紹介先へ明確に申し送ります。
精巣腫瘍の症状は、無痛性腫瘤という比較的明瞭な所見から、軽い違和感、急性疼痛、腰背部痛、呼吸器症状、乳房症状まで幅があります。最も重要なのは、片側精巣の腫大・硬結や説明しにくい陰嚢症状を見逃さず、超音波検査と泌尿器科連携へ確実につなげることです。痛みがないこと、若年であること、炎症や外傷を疑う背景があることは、精巣腫瘍を除外する理由にはなりません。

「I Support Testicular Cancer Awareness」ブレスレット 5個 医療グレードシリコン ラテックスと毒素フリー ブレスレット5個 精巣腫瘍啓発へのサポートを示しましょう, 5, ゴム プラスチック シリコーン