
AWGS 2025では、サルコペニアの確定診断を「低筋力+低筋肉量」に整理した点が最も重要である。AWGS 2019では、低筋肉量に加えて低筋力または低身体機能のいずれかを認めた場合に診断していた。今回の改訂では、歩行速度やShort Physical Performance Battery(SPPB)などの身体機能低下は診断条件から外れ、低筋力と低筋肉量が同時に存在することが必須となった。
この変更は、身体機能が不要になったことを意味しない。身体機能はサルコペニアが生活機能、転倒、要介護、入院、死亡などに及ぼす影響を把握するためのアウトカム指標として、むしろ重要性が明確化された。診断のために歩行速度測定ができないから評価を先送りするのではなく、握力と筋肉量を優先して診断に進める設計になったと理解するとよい。
また、従来の「重度サルコペニア」は、身体機能低下が診断構成要素ではなくなったことに伴い廃止された。カルテ、栄養サマリー、リハビリテーション評価書、研究プロトコルなどで旧分類を使用している場合には、診断名と評価項目を分けて記載する運用へ更新する必要がある。
| 項目 | AWGS 2019 | AWGS 2025 |
|---|---|---|
| 確定診断 | 低筋肉量+低筋力または低身体機能 | 低筋肉量+低筋力 |
| 身体機能 | 診断要件の一部 | アウトカム指標 |
| 重度サルコペニア | 分類あり | 分類を削除 |
| 主な対象 | 65歳以上 | 50歳以上へ拡大 |
AWGS 2025の原著コンセンサスでは、疾患診断だけでなく、生涯にわたるMuscle Healthの維持・増進へ焦点を広げている。筋量低下を高齢期だけの問題として捉えるのではなく、中年期からの予防・早期介入に接続する考え方である。
AWGS 2025では、全例にDXAやBIAを実施するのではなく、まずスクリーニングで評価対象を抽出する。プライマリケアや地域予防の場では、65歳以上、またはMuscle Healthに懸念がある50~64歳を基本的な評価対象とする。下腿周囲長が男性34cm未満、女性33cm未満の場合、あるいは指輪っかテストで異常を認める場合は、握力と筋肉量測定へ進む契機となる。
指輪っかテストは、両手の親指と人差し指で作った輪で利き足ではない側の下腿最大周囲を囲み、隙間が生じるかを観察する簡便な方法である。測定器具を要しない利点がある一方、浮腫、皮下脂肪、測定部位、実施者間差の影響を受けるため、確定診断に代用してはならない。地域健診、通所サービス、外来待合などで「次の評価へつなぐ入口」として使う位置付けが適切である。
急性期・慢性期医療では、身体機能低下、意図しない体重減少、低栄養、反復転倒、抑うつ症状、認知機能障害に加え、心不全、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、慢性腎臓病などが評価開始の手掛かりとなる。特に入院中の絶食、活動制限、炎症、治療負荷が重なる患者では、入院前の体格だけでリスクを判断しないことが重要である。
握力が基準未満であれば「サルコペニアの可能性あり(低筋力)」、筋力が保たれていても危険因子があれば「サルコペニアのリスクあり」と整理する。この二段階の表現は、確定診断前でも栄養評価、身体活動量の確認、退院後支援、再評価計画を開始する根拠になる。
日本サルコペニア・フレイル学会の資料には、対象者の選定から握力、骨格筋量、確定診断へ進む実務的な流れが整理されている。
日本サルコペニア・フレイル学会:新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ
参考)https://www.jasf.jp/pdf/revision_20251111.pdf
筋力の評価はハンドダイナモメーターによる握力測定で行う。65歳以上の低握力のカットオフ値は、男性28kg未満、女性18kg未満であり、AWGS 2019から変更はない。一方、今回新たに設定された50~64歳のカットオフ値は、男性34kg未満、女性20kg未満である。中年期では高齢者と同じ基準を当てはめない点が、現場運用で見落とされやすい。
| 年齢区分 | 男性の低握力 | 女性の低握力 |
|---|---|---|
| 50~64歳 | 34kg未満 | 20kg未満 |
| 65歳以上 | 28kg未満 | 18kg未満 |
握力は全身筋力の完全な代替ではないが、短時間で実施でき、低筋肉量と組み合わせて診断アルゴリズムを前に進められる。測定時には、使用機器、姿勢、利き手・非利き手、測定回数、最大値または平均値の採用方法を施設内で標準化し、前回値との比較可能性を確保する。とくに病棟では、疼痛、関節拘縮、麻痺、点滴ライン、術後安静などが測定値に影響するため、「測定不能」と「筋力低下」を同一視しない。
握力低下だけではサルコペニア確定には至らない。しかし、低筋力は転倒、ADL低下、栄養障害、退院支援上の課題と重なりやすい。握力がカットオフ未満なら、筋肉量測定を手配すると同時に、食事摂取量、体重変化、炎症、薬剤、活動制限を確認することが臨床的には有用である。
サルコペニアの確定には、低握力に加えて低骨格筋量を確認する。筋肉量はDXAまたはBIAで四肢骨格筋量を評価する。AWGS 2025では、従来の身長の二乗による補正に加え、BMI補正のカットオフ値が導入された。これは、BMIが24以上の患者では、身長補正のみでは筋肉量低下を捉えにくいという課題への対応である。
すなわち、体重や脂肪量が多い患者では、骨格筋量が絶対量として保たれて見えても、身体サイズや脂肪量との関係では筋の相対的不足を抱えている可能性がある。サルコペニア肥満を「筋肉量が多そうだから除外」と扱わないために、BMI補正が選択肢となった点は実務上大きい。
| 方法・補正 | 65歳以上 男性 | 65歳以上 女性 | 50~64歳 男性 | 50~64歳 女性 |
|---|---|---|---|---|
| DXA・身長補正 | 7.0kg/m²未満 | 5.4kg/m²未満 | 7.2kg/m²未満 | 5.5kg/m²未満 |
| BIA・身長補正 | 7.0kg/m²未満 | 5.7kg/m²未満 | 7.5kg/m²未満 | 5.7kg/m²未満 |
| DXA・BMI補正 | 0.73未満 | 0.52未満 | 0.80未満 | 0.55未満 |
| BIA・BMI補正 | 0.83未満 | 0.57未満 | 0.90未満 | 0.63未満 |
BIAの数値は、水分状態の影響を受ける。浮腫、腹水、透析前後、急性心不全、著明な脱水などでは解釈に注意が必要であり、測定条件と臨床状態を記録する。DXAとBIAのカットオフ値は同一ではないため、他法の数値をそのまま代入して判定してはならない。機器変更時にも、経時比較の連続性が損なわれる可能性を意識したい。
身体機能が診断必須項目から外れたことで、歩行速度やSPPBを省略してよいと誤解されることがある。しかしAWGS 2025の考え方では、身体機能は診断の可否を決める部品ではなく、患者にどの程度の不利益が生じているか、介入後に何が改善したかを示すアウトカムである。この位置付けは、栄養、リハビリテーション、老年医学、地域連携の記録をつなぎやすくする。
独自の実務的視点として、診断ラベルと生活機能指標を同じ欄に混在させない記録設計が重要である。例えば、診断欄には「AWGS 2025:低握力+低骨格筋量」を明記し、別欄に歩行速度、SPPB、5回立ち上がり、転倒歴、Barthel Index、退院先、活動量を記載する。こうすると、患者がサルコペニアであるかという分類と、どの機能領域に介入すべきかという治療計画を分けて検討できる。
さらに、身体機能が低下していても筋量・筋力の両条件を満たさない患者は存在する。その場合、関節疾患、神経疾患、心肺疾患、疼痛、貧血、薬剤性、うつ、認知機能低下などを含めた鑑別が必要である。反対に、歩行が保たれているからといって低筋力・低筋肉量を見逃してよいわけでもない。早期段階で診断し、運動、栄養、疾患治療、活動環境の調整へつなげることが、今回の対象年齢拡大の意義である。
日本老年医学会の総説では、AWGS 2025を「サルコペニア診断」から「Muscle Health促進」へのパラダイムシフトとして解説している。診断後も、ICOPEの流れに沿って詳細評価、個別ケア計画、実施、モニタリング、再評価を繰り返す視点が求められる。

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