
臨床試験やコホート研究では、治療、予防介入、曝露の有無によって、死亡、入院、再発、有害事象などの二値アウトカムがどの程度変化したかを評価する。一定の追跡期間内にイベントが起きた割合をリスクとし、介入群のリスクをR1、対照群のリスクをR0と置く。
リスク差(risk difference:RD)は、原則として「介入群−対照群」で算出する。
リスク差=R1−R0
リスク比(risk ratio:RR、相対リスク)は、同じ順序で割り算する。
リスク比=R1÷R0
たとえば、ある治療による1年以内の再入院が、対照群で10%、治療群で6%だったとする。この場合、リスク差は6%−10%=−4%であり、治療によって再入院が絶対値で4ポイント減少したことを表す。リスク比は6%÷10%=0.60で、治療群の再入院リスクは対照群の0.60倍、すなわち相対的に40%低いと表現できる。
| 指標 | 計算 | この例の値 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| リスク差 | 6%−10% | −4% | 100人あたり4人少ない |
| リスク比 | 6%÷10% | 0.60 | リスクは0.60倍 |
| 相対リスク減少 | 1−0.60 | 40% | 相対的には40%低下 |
リスク差は−1から1の範囲をとる絶対尺度であり、リスク比は0以上の値をとる相対尺度である。リスク比が1、リスク差が0なら、観察されたリスクに群間差がないことを意味する。ただし、「差がない」と断定するには推定値だけでなく、後述する95%信頼区間、研究デザイン、症例数を確認しなければならない。厚生労働省の資料でも、リスクはイベント発現確率、リスク差は治療群間のリスクの差、リスク比はリスクの比として整理されている。
厚生労働省:リスク比・リスク差の定義
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-5b02.pdf
リスク比だけで効果を伝えると、ベースラインリスクが見えなくなる。ここが臨床現場で最も見落とされやすい点である。同じリスク比0.50、すなわち相対リスク減少50%でも、対照群の絶対リスクにより患者にとっての意味は大きく変わる。
| 対照群リスク | 治療群リスク | リスク比 | リスク差 | NNT |
|---|---|---|---|---|
| 20% | 10% | 0.50 | −10% | 10 |
| 2% | 1% | 0.50 | −1% | 100 |
| 0.2% | 0.1% | 0.50 | −0.1% | 1,000 |
いずれも「リスクを半減」と表現できる。しかし、最初の集団では10人治療すれば平均して1件のイベントを防げる一方、最後の集団では1,000人の治療で1件である。薬剤費、投与負担、モニタリング、有害事象、患者の価値観を考慮する際、相対リスク減少だけでは意思決定に必要な情報が不足する。
このため、患者説明では「50%減少した」だけで終わらせず、「この患者集団に近い条件では、1,000人あたり何人減るか」を添えることが望ましい。ベースラインリスクは年齢、重症度、既往歴、併用療法、追跡期間で変動するため、試験集団の絶対リスクを、目の前の患者へ機械的に当てはめない姿勢も必要である。
意外に重要なのは、リスク比が一定でもリスク差は一定ではないという点である。相対効果が複数のリスク層でおおむね共通に見える場合でも、絶対的な便益は高リスク患者ほど大きくなることがある。治療適応や優先順位を考える局面では、リスク比の一貫性と同時に、各層のリスク差を確認したい。
有効性アウトカムにおいて治療群のリスクが低い場合、絶対リスク減少(absolute risk reduction:ARR)は、通常「対照群リスク−治療群リスク」と定義される。先ほどの例なら10%−6%=4%である。NNT(number needed to treat)は、その逆数で求められる。
NNT=1÷ARR
ARRが4%、すなわち0.04であれば、NNTは25となる。これは「試験と同等の条件で25人を治療すると、平均して1人の再入院を追加で防ぐ」という意味であり、25人全員が利益を得るという意味ではない。NNTには必ずアウトカム、観察期間、対照治療を付記する。「1年の再入院を防ぐNNT=25」のように書くことで解釈のずれを防げる。
有害事象では、治療群で増加したリスク差を絶対リスク増加(absolute risk increase:ARI)といい、その逆数をNNH(number needed to harm)と呼ぶ。たとえば、重篤な出血が対照群1%、治療群2%なら、ARIは1%、NNHは100である。治療の便益を示すNNTと、害を示すNNHを同じ時間枠、同程度に重要なアウトカムで並べると、治療選択を具体的に議論しやすくなる。
厚生労働省資料には、心血管イベントが投与群7.1%、プラセボ群5.7%で、リスク差1.4%、95%信頼区間−2.3%~5.0%と報告された例がある。点推定が害の方向でも、信頼区間は便益から害まで含んでおり、確実なリスク上昇とは読めない。
厚生労働省:リスク差と95%信頼区間の報告例
参考)https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/285-4.pdf
点推定値は、研究で得られた効果の最良の単一推定値にすぎない。臨床的な判断では、95%信頼区間(95%CI)によって推定の不確実性と、臨床上無視できない便益・害が残っているかを評価する。
リスク差では、帰無値は0である。95%CIが0をまたぐ場合、データはリスク低下とリスク上昇の両方と整合し得る。リスク比では、帰無値は1である。95%CIが1をまたぐ場合も同様に、相対的な低下・上昇・差なしを区別できない。
| 指標 | 推定値 | 95%信頼区間 | 基本的な読み方 |
|---|---|---|---|
| リスク差 | −4% | −7%~−1% | リスク低下の方向で0をまたがない |
| リスク差 | −1% | −5%~3% | 便益から害まで含む |
| リスク比 | 0.60 | 0.40~0.90 | リスク低下の方向で1をまたがない |
| リスク比 | 0.85 | 0.55~1.30 | 低下も上昇も否定できない |
「統計学的に有意」という表現だけでは、効果の大きさも臨床的意義もわからない。たとえばリスク差−0.2%が大規模試験で有意でも、患者にとって重要な利益かは別問題である。逆に、希少だが重篤な有害事象では、信頼区間が広くても上限にあるリスク増加を軽視できない。
また、リスク比の信頼区間は対数尺度で算出・表示されることが多く、1を中心に対称ではない。リスク比0.50の「半分」と2.00の「2倍」は対数尺度では等距離だが、通常の数直線では対称に見えない。この性質を理解すると、フォレストプロットで縦線1を基準に判断する理由が明確になる。
リスク差とリスク比は、論文の結果欄を読むためだけの数字ではない。説明の順序を整えることで、患者が過度な期待や不必要な恐怖を抱くことを抑えられる。推奨されるのは、相対表現を先に強調せず、まず自然頻度に近い絶対数で示す方法である。
たとえば、「この薬で再入院リスクが40%下がります」とだけ伝えるより、「同じような状態の100人では、薬を使わない場合に10人、使う場合に6人が再入院しました。平均すると100人あたり4人少ない結果です。その一方で、重要な副作用も確認します」と説明するほうが、便益と害の大きさをイメージしやすい。
この場面では、アイコンアレイや100人あたり・1,000人あたりの頻度表示も有用である。特に低頻度のアウトカムは百分率だけでは差が埋もれやすいため、「10,000人あたり」のように分母を調整する。ただし、便益を100人あたり、害を10,000人あたりで示すと印象操作になり得る。比較するアウトカムでは、可能な限り同じ分母、同じ追跡期間で提示する。
もう一つの独自視点は、治療継続中の患者に「自分のリスクは何%か」と聞かれた際、試験結果を個人の予言として扱わないことである。リスク差とリスク比は集団平均の推定値であり、個人の転帰を確定する数値ではない。適格基準、ベースラインリスク、併存疾患、アドヒアランス、治療期間が試験と異なれば、絶対リスクもNNTも変わり得る。
論文、添付文書、医療者向け資料を読むときは、次の順で確認すると実務的である。
リスク比は効果の相対的な強さを端的に示し、リスク差は治療によって実際に変化する人数を示す。どちらが優れているかではなく、問いに応じて補完的に用いることが重要である。相対リスク、絶対リスク、信頼区間、観察期間を一組として読むことが、臨床研究の結果を安全かつ誠実に患者ケアへ生かす出発点となる。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/27_effective.pdf

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