
リスク差(Risk Difference: RD)は、2つのグループ間のリスクの絶対的な差を意味する疫学指標です。別名「寄与危険度」や「絶対リスク」とも呼ばれ、暴露群と非暴露群の疾病発生頻度の差を直接示します 。例えば、新薬を投与した群で20%(100人中20人)、対照群で15%(100人中15人)が疾患を発症した場合、リスク差は20% - 15% = 5%(0.05)となります 。
この「5%」という数字は、新薬が対照群と比べて疾患リスクを5パーセントポイント低下させたことを意味します 。絶対的な差を示すため、公衆衛生的な観点から「集団全体でどれだけの症例を予防できるか」を評価する際に特に有用です 。
参考)生物統計学講座vol.4@mJOHNSNOW まとめメモ|n…
リスク比(Risk Ratio: RR)は、一方のグループのリスクが他方の何倍かを表す相対指標です。一般的に「相対危険度」として利用され、個人に対するリスクの大きさを直感的に伝える際に適しています 。上記の例で計算すると、リスク比 = 20% ÷ 15% = 1.33 となり、「新薬群の疾患リスクは対照群の1.33倍」と解釈できます 。
参考)https://daas.la.coocan.jp/meta_analysis/kisoyougo.htm
臨床現場では「この治療でリスクが60%減少」といった表現が論文で見られますが、これは相対的リスク減少(Relative Risk Reduction: RRR)であり、リスク比から(1 - リスク比)× 100% で計算します 。ワクチン有効率95%という表現も、リスク比0.05(1 - 0.95)を意味し、 vaccinated 群の感染リスクが未接種群の5%まで低下することを示します 。
参考)リスク比とリスク差、そしてNNT : 今日なに読もう〜病院総…
リスク差とリスク比の統計的有意性は、95%信頼区間(CI)を用いて判定します。信頼区間の解釈には重要な違いがあります。リスク差のような「差の指標」では、帰無仮説の値が0(差がない)となるため、95%信頼区間が0を含まなければ統計的に有意と判断します 。
参考)ロスマン章末問題8-8 (信頼区間を使うときの注意)|リハ…
一方、リスク比のような「比の指標」では、帰無仮説の値が1(リスクが等しい)となるため、95%信頼区間が1を含まなければ有意と判断します 。例えば、リスク差の95%CIが1.2〜5.0であれば0を含まないため有意、リスク比の95%CIが0.8〜2.4であれば1を含むため非有意となります 。
参考)臨床試験 差があるということ③ 補足(群間差、リスク比の場合…
この違いを理解していないと、P値=1.0の特異なケースで信頼区開が0(または1)を含まない場合、誤って「統計的に有意」と解釈してしまう可能性があります 。信頼区間とP値の関係は、「P < 0.05」⇔「95%CIが帰無仮説の値を含まない」という同値関係で成り立っています 。
NNT(Number Needed to Treat:治療必要数)は、リスク差の逆数(1/RD)で計算され、「1つのアウトカムを達成するために必要な治療数」を示します 。例えば、リスク差が0.003(0.3%)の場合、NNT = 1 ÷ 0.003 = 333人となり、333人に治療を施して初めて1人を救えることを意味します 。
参考)統計ノート リスクの比較 絶対リスク差、治療必要数(NNT)…
ここが意外な落とし穴です。同じリスク比でも、ベースラインのリスクが異なればリスク差とNNTは大きく変わります 。リスク比0.4(60%リスク減少)でも、ベースラインリスクが0.005(0.5%)の場合、リスク差は0.002(0.2%)、NNTは500人となり、臨床的には「1人を救うのに500人治療」という印象になります 。
逆に、ベースラインリスクが高い場合、同じリスク比でもNNTは小さくなります。このため、リスク比だけで「60%リスク減少!」と強調すると、実際の公衆衛生的インパクトを過大評価してしまう可能性があります 。論文を読む際は、必ずリスク差またはNNTも併記されているか確認し、絶対的な効果量も評価することが重要です。
リスク差とリスク比の使い分けは、研究目的と対象読者によって異なります。リスク差は「公衆衛生的な問い」に答える絶対指標であり、集団全体での予防可能症例数や費用対効果の評価に適しています 。一方、リスク比は「個人に対する問い」に答える相対指標で、患者へのリスク説明や臨床ガイドラインでの推奨に分かりやすい表現です 。
参考)リスク比とオッズ比
最新の論文では、両方の指標を併記することが推奨されています 。例えば、新谷歩氏は「同じリスク比でもリスク差が異なる場合がある。リスク比では効果を大きく見積もってしまう可能性がある」と指摘し、両指標の併用を推奨しています 。
リスク差とリスク比、NNTの関係を具体例で解説した資料(高木廣文氏)
リスク差・リスク比・オッズ比の定義と計算方法を段階的に解説(EMUYN)
生物統計学講座vol.4 佐藤俊太郎先生のまとめメモ(リスク差とリスク比の使い分け)
おすすめの参考リンク。
NNTとNNHの概念を図解で解説(日経BP)
信頼区間の解釈と統計的有意性の判定基準を詳しく解説(理学療法士ジロー)
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