
ラグノスは三和化学研究所が製造販売するラクツロースを主成分とする製剤であり、一般名はラクツロースです。剤形には経口ゼリー分包12g(1包中にラクツロース9.9g含有)が主力製品として展開されており、慢性便秘症、高アンモニア血症に伴う症候改善、産婦人科術後の排ガス・排便促進の3つの適応症が承認されています。
参考)医療用医薬品 : ラグノス (ラグノスNF経口ゼリー分包12…
ラクツロースはラクトース(乳糖)の異性体で、β-1,4結合を持つ二糖類です。ヒトの消化管粘膜にはラクツロースを単糖類に分解する酵素(ラクターゼなど)が存在しないため、経口投与されたラクツロースの大部分は消化吸収されることなく下部消化管に到達します。この特性が薬理作用の基盤となっています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00007281.pdf
同様のラクツロース製剤としては、興和のラクツロース・シロップ60%「コーワ」(分包10mL、15mL、瓶100mL、300mL)、NIGのラクツロースシロップ65%「NIG」などがあり、いずれも高アンモニア血症用剤として承認されていますが、便秘症の適応を持つ製剤は限られています。
参考)ラクツロース・シロップ60%分包10mL「コーワ」の基本情報…
ラクツロースの作用機序は、主に浸透圧作用と腸内細菌による代謝産物の二つの経路から構成されます。まず、小腸で分解・吸収されないラクツロースが大腸に到達すると、腸管内容物の浸透圧を上昇させ、腸管内への水分分泌を促進します。これにより便の水分量が増加し、軟便化と排便促進が図られます。
参考)https://med.skk-net.com/supplies/generic/products/item/LAGNF1809_2.pdf
次に、大腸に到達したラクツロースは腸内細菌(ビフィズス菌、乳酸菌など)によって分解され、乳酸、酢酸、酪酸などの有機酸を産生します。これらの有機酸は腸管内pHを低下させ、酸性側にシフトさせることで、アルカリ性環境を好むアンモニア産生菌(Bacteroides、E. coliなど)の発育を抑制します。
さらに、産生された有機酸自体が腸管の蠕動運動を亢進させる作用を持ち、ウサギ腸管を用いた実験でこの効果が確認されています。浸透圧性下剤としての作用に加え、腸管運動促進効果が相乗的に働くことで、緩下作用が発揮されます。
高アンモニア血症に対する効果については、腸管内pH低下によりアンモニア(NH3)がアンモニウムイオン(NH4+)へと変化し、腸管からの吸収が抑制されます。また、アンモニア産生菌の発育抑制により、腸管内でのアンモニア産生自体が減少し、血中アンモニア濃度の低下につながります。
ラグノスNF経口ゼリー分包12gの承認された効能・効果は以下の3つです。1つ目は「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」、2つ目は「高アンモニア血症に伴う下記症候の改善(精神神経障害、手指振戦、脳波異常)」、3つ目は「産婦人科術後の排ガス・排便の促進」です。
慢性便秘症に対する投与量は、通常成人には1日24g(2包)を1日2回経口投与します。症状により適宜増減しますが、1日最高用量は72g(6包)までとされています。高齢者では生理機能が低下しているため、低用量から開始し、経過を観察しながら慎重に増量することが推奨されます。
高アンモニア血症および産婦人科術後の排ガス・排便促進に対する投与量は、通常成人には1日36〜72g(3〜6包)を1日3回(1日量として3〜6包)経口投与します。年齢、症状により適宜増減します。肝硬変患者など重症例では、1日90g(7.5包)程度まで増量されることもあります。
| 適応症 | 通常投与量(成人) | 1日最高用量 |
|---|---|---|
| 慢性便秘症 | 24g/日(2包×2回/日) | 72g/日(6包) |
| 高アンモニア血症 | 36〜72g/日(3〜6包/日) | 90g/日程度 |
| 産婦人科術後 | 36〜72g/日(3〜6包/日) | 90g/日程度 |
小児に対する使用については、安全性が確立していないため、原則として推奨されません。やむを得ず使用する場合は、体重や年齢に応じて慎重に投与量を設定し、経過を十分に観察する必要があります。
参考)https://medical.itp.ne.jp/kusuri/shohou-20120000004076/
国内で実施された機能性便秘症患者を対象とした臨床試験では、270例中31例(11.5%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は下痢9例(3.3%)、腹部膨満感6例(2.2%)、腹痛6例(2.2%)でした。
参考)ラグノスNF|よくあるご質問|医薬品|三和化学研究所
消化器症状としては、5%以上に下痢が出現し、水様便が惹起された場合には投与量を減ずるか、または投与を中止する必要があります。0.1〜5%未満の頻度で腹鳴、鼓腸、腹痛、食欲不振、嘔気などが報告されています。
重大な副作用として、添付文書には「低カリウム血症」が記載されています。長期連用により下痢が持続すると、カリウムをはじめとする電解質の喪失を来す可能性があります。特に高齢者や腎機能障害患者、利尿剤併用患者では、電解質モニタリングを定期的に実施することが推奨されます。
他の薬剤との相互作用については、ラクツロースが腸管通過時間を短縮させることで、併用薬剤の吸収が低下する可能性があります。特に徐放製剤や腸溶製剤、吸収窓が狭い薬剤(ジゴキシンなど)との併用には注意が必要です。また、他の下剤との併用は下痢を増悪させるリスクがあるため、原則として避けるべきです。
妊婦・授乳婦に対する安全性については、動物実験で胎仔への移行が報告されているものの、ヒトでの安全性は確立していません。治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討し、授乳中の使用は避けることが望ましいとされています。
ラクツロース製剤には複数のブランドが存在し、それぞれ適応症や剤形に違いがあります。ラグノスNF(三和化学研究所)は慢性便秘症、高アンモニア血症、産婦人科術後の3適応を持つゼリー剤で、携帯性と服薬遵守性の高さが特徴です。
一方、ラクツロース・シロップ60%「コーワ」(興和)は高アンモニア血症のみの適応で、シロップ剤として10mL、15mLの分包および瓶剤が用意されています。液剤のため嚥下困難患者や経管栄養患者への投与に適していますが、便秘症の適応はありません。
ラクツロースシロップ65%「NIG」(日医工)も同様に高アンモニア血症、産婦人科術後の排ガス促進の適応を持ち、シロップ剤として展開されています。濃度が65%とやや高いため、少量で効果を得やすい反面、甘味が強く、糖尿病患者では血糖コントロールへの影響を考慮する必要があります。
参考)ラクツロースシロップ65%「NIG」の基本情報(薬効分類・副…
使い分けのポイントは、まず適応症で選択します。便秘症を主訴とする場合はラグノスNFが第一選択となります。高アンモニア血症(肝性脳症)が主目的で、嚥下困難や経管投与が必要な場合はシロップ剤が適しています。また、患者の嗜好や服薬遵守性を考慮し、ゼリー剤を好む患者にはラグノスNF、液剤を好む患者にはシロップ剤を選択すると良いでしょう。