クローン病患者に「代替品があるから大丈夫」と伝えると、治療の空白を生む可能性があります。
2025年12月、製造販売元のフェリング・ファーマ株式会社は、ペンタサ錠(全包装)およびペンタサ顆粒の限定出荷を公式に発表しました。 直接原因として明記されているのが「海外製造所の造粒工程において十分な数量を確保するための増産体制が整っていない」という点です。
参考)ペンタサ錠およびペンタサ顆粒の出荷制限実施に関するご案内|日…
造粒工程とは、粉末状の原薬・添加剤を適切な大きさの顆粒へ加工するプロセスです。ペンタサ顆粒はエチルセルロースによる徐放コーティングを必要とするため、高度な設備と技術が不可欠です。設備の増設には通常1〜3年単位の投資計画が必要になるため、需要の急増に製造が追いつかない構図になっています。
重要なのが「これは日本固有の問題ではない」という点です。 フェリング・ファーマの公式文書には「日本を含む全市場で出荷量を減らさざるを得ず、一部の市場では出荷停止せざるを得ない状況」と記載されています。つまりメーカーが意図的に絞っているのではなく、物理的な製造キャパシティの上限に達した結果です。
グローバルな製造問題ということですね。現時点(2026年)においても、通常供給の再開時期は「未定」とされており、既存患者への継続供給を最優先として対応が続いています。
製造販売元・フェリング・ファーマ株式会社による出荷制限の公式案内(日本IBD学会掲載)。
限定出荷製品に関するご連絡 <フェリング・ファーマ株式会社より>(日本IBD学会)

出荷調整の背景として、世界規模でのIBD患者数の急増を見逃すことはできません。東邦大学による2025年の全国疫学調査によると、日本における潰瘍性大腸炎の有病者数は2023年時点で約31万6,900人、クローン病は約9万5,700人と推計されています。 2015年比で8年間に約1.4倍という増加です。
さらに遡ると、1991年から2015年の24年間では約10倍という数字も記録されています。 これほどの急増を支える製造ラインを短期間で整備するのは、世界のどのメーカーにとっても困難です。世界のIBD治療市場は2031年に340億米ドル規模に達するとの予測も出ており、製造側の追いつけない構造が長期化しうることを示しています。
これは使えそうです。患者から「なぜ薬が入りにくいのか」と問われた際、「世界中でIBDが増えていて、製造が追いつかない」と具体的に答えられるかどうかが、患者の不安の緩和度に直結します。
また、アジア諸国でのIBD発症急増も報告されており、食生活の欧米化や腸内細菌叢の変化が主な要因と考えられています。 この背景を知っておけば、今後の供給状況を予測する視点にもなります。
日本のIBD有病者数が8年間で1.4倍に増加した調査の詳細(IBDプラス)。
クローン病の治療で使用する主なお薬一覧(IBDプラス)

「ペンタサが入らない」と一律に判断するのは危険です。剤形・包装ごとに出荷区分が異なるため、正確な把握が必要です。
現状を整理すると、以下のようになります。
坐剤だけは別の話です。顆粒・錠剤が製造キャパシティの問題であるのに対し、坐剤は製造品質上の問題が主因でした。状況が異なるため、坐剤の情報だけで「ペンタサ全体の状況」を推測するのは誤りです。
在庫管理の際は、杏林製薬の医療関係者向けWebサイトや医薬品供給状況データベース(DSJP)でリアルタイムに剤形・包装別の出荷状況を確認することが原則です。
参考)ペンタサに関するお知らせ
ペンタサ製品の最新供給情報(杏林製薬 医療関係者向け)。
ペンタサに関するお知らせ一覧(杏林製薬 医療関係者向け情報)
代替品の知識が不正確だと、患者へのデメリットに直結します。まずこの大前提を押さえてください。
アサコール錠400mgおよびリアルダ錠1,200mgは、どちらも「潰瘍性大腸炎(重症を除く)」のみに保険適応があります。 クローン病には保険適応がありません。フェリング・ファーマの公式案内にも「本剤の効能又は効果の一つであるクローン病につきまして、代替薬は適応を有しておりません」と明記されています。
参考)限定出荷製品に関するご連絡 <フェリング・ファーマ株式会社よ…
各製品の放出部位と適応の違いを整理すると、以下のようになります。
参考)https://www.phamnote.com/2017/05/blog-post_21.html
| 製品名 | 放出部位 | 1日用量(活動期) | 適応疾患 | 服用回数 |
|---|---|---|---|---|
| ペンタサ顆粒94%(1g) | 小腸〜大腸(広範囲) | 4g(分2) | UC・CD | 1日2回 |
| ペンタサ錠500mg | 小腸〜大腸(広範囲) | 4000mg(分2) | UC・CD | 1日2回 |
| アサコール錠400mg | pH7.0以上(回腸末端〜大腸) | 3600mg(分3) | UCのみ | 1日3回 |
| リアルダ錠1,200mg | 小腸下部〜大腸(MMX技術) | 4800mg(分1) | UCのみ | 1日1回 |
リアルダの服用回数は1日1回です。 アドヒアランス向上の観点では、リアルダへの切り替えが患者にとって負担軽減になる場合があります。一方でアサコールとリアルダの比較試験では、有効性・コンプライアンスともにリアルダが同等以上という結果が出ています。
クローン病患者への対応は難しいところですね。大腸に限定した病変を持つクローン病患者であれば、臨床判断のうえでペンタサ錠への切り替えが最有力の選択肢となりますが、ペンタサ錠も限定出荷中のため在庫状況を踏まえた判断が必要です。
潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬の薬物動態比較(福岡県薬剤師会)。
在庫確保を「できるだけ多く取り寄せる」と考えるのは逆効果です。 フェリング・ファーマが限定出荷を実施する目的は「既存の医療機関への供給を優先するため」であり、特定医療機関が大量確保を試みると他の患者への供給が遮断されます。新規採用・増量の依頼が断られるのはその仕組みのためです。
医療現場で合理的な対応優先度は以下の通りです。
注目したいのが「患者の自己中断リスク」という視点です。薬の入手困難を機に患者が自己判断で休薬するケースが想定されますが、IBDにおけるメサラジン製剤の中断は再燃リスクを高めます。 再燃後の再治療には、追加の検査・入院・生物学的製剤(インフリキシマブ等)への切り替えという多大なコストが発生しかねません。
参考)https://www.tmd.ac.jp/grad/gast/medical/ibd_uccare.html
痛いですね。出荷調整の状況は患者本人にも適切に伝え、「薬がなくなったら自己判断で止めず、必ず相談する」という行動を促すことが、医療従事者として最も重要な役割の一つです。
処方医・薬剤師間で患者ごとに「ペンタサでなければならない理由」を共有した上で、計画的な発注を行う体制が今の時期には特に求められています。CloseDiなどのプッシュ通知サービスを活用することで、出荷状況の変化を即座に把握できます。
日本大腸肛門病学会によるペンタサ出荷制限に関する案内。
ペンタサ錠およびペンタサ顆粒の出荷制限実施に関するご案内(日本大腸肛門病学会)
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