
尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis:RTA)は、糸球体濾過が比較的保たれているにもかかわらず、腎尿細管における水素イオン排泄、アンモニウム排泄、あるいは重炭酸イオン再吸収の障害によって生じる代謝性アシドーシスの総称である。診断の出発点は、血液ガスおよび血清電解質から代謝性アシドーシスを確認することである。一般に血液pH低下、血清HCO3−低下を認め、塩素上昇を伴う正常アニオンギャップ性代謝性アシドーシス、すなわち高クロール性代謝性アシドーシスが典型的である。
血清アニオンギャップ(AG)は、通常、AG=Na+−(Cl−+HCO3−)で算出する。アルブミン低下がある場合にはAGが見かけ上低くなるため、アルブミン補正AGを併用して高AG性代謝性アシドーシスを見落とさない。乳酸アシドーシス、ケトアシドーシス、中毒、進行した腎不全に伴う酸貯留などでは高AG性アシドーシスを示しやすく、典型的RTAとは異なる評価経路が必要となる。RTAを疑うのは、原因が明らかでない正常AG性代謝性アシドーシスを認めた場合である。
参考)Renal Tubular Acidosis - StatP…
ただし、正常AG性代謝性アシドーシスだけでRTAと確定してはならない。下痢、回腸導管・尿路変更、膵液や胆汁など消化液の喪失では重炭酸喪失により同様の病態を示す。また、アセタゾラミド、トピラマートなど炭酸脱水酵素阻害作用を持つ薬剤、アンホテリシンB、リチウム、イホスファミド、テノホビルなどは尿細管障害の原因となり得る。高Cl性アシドーシスの原因を問診、薬剤歴、下痢の有無、腎機能、尿路疾患、自己免疫疾患、糖尿病・副腎系疾患の背景から体系的に除外することが重要である。
小児慢性特定疾病情報センター:尿細管性アシドーシス診断の手引き
実臨床では単一の検査値ではなく、血清HCO3−、AG、血清K+、尿pH、尿中電解質、尿中アンモニウム排泄の代替指標、腎機能、尿糖・尿蛋白・リン代謝異常を統合してRTAを評価する。特に尿pHは有用である一方、尿路感染症、尿素分解菌、低循環血漿量、低尿Na+、遠位Na送達低下、採尿後の放置などにより解釈が変わるため、尿pHのみで病型を断定しない。
尿アニオンギャップ(urine anion gap:UAG)は、UAG=尿Na++尿K+−尿Cl−で算出する。代謝性アシドーシス時に腎の酸排泄が適切であれば、尿中NH4+は主にNH4Clとして排泄され、尿Cl−が増加するためUAGは陰性になりやすい。反対に、腎からのNH4+排泄が不足している場合にはUAGは陽性または不適切に高値となり、RTA、とくに遠位尿細管酸性化障害や4型RTAを支持する。ただし、ケトン体、重炭酸、薬物由来の陰イオンが尿中に多い状況ではUAGはNH4+の推定指標として不正確になり得るため、可能なら尿浸透圧ギャップや直接的な尿中NH4+測定も検討する。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 代謝性アシドーシス | 血清HCO3−低下と血液pH低下を確認する | 呼吸性代償が適切かも併せて評価する |
| 血清アニオンギャップ | AG=Na+−(Cl−+HCO3−)が正常域または補正後も上昇しない | アルブミン低下では補正AGを考慮する |
| 血清Cl− | 高クロール血症を伴うことが多い | 生理食塩液大量投与後など医原性要因も確認する |
| 尿pH | 全身性アシドーシス下で尿pHが5.5超なら遠位酸性化障害を疑う | 尿路感染、低尿Na+、検体管理の影響を除外する |
| 尿アニオンギャップ | UAG=尿Na++尿K+−尿Cl− | 陰性は腎外性HCO3−喪失を、陽性はNH4+排泄低下を支持する |
| 血清K+ | 低K血症なら1型・2型、高K血症なら4型を優先して考える | 利尿薬、RAAS阻害薬、補正前後の変動に注意する |
| 近位尿細管機能 | 尿糖、低リン血症、低尿酸血症、アミノ酸尿を確認する | Fanconi症候群は2型RTAを示唆する |
1型RTA(遠位型、distal RTA)は、集合管のα介在細胞を中心とした遠位尿細管での水素イオン分泌障害により起こる。低K血症、高Cl性正常AG性代謝性アシドーシスに加え、全身性アシドーシスが存在するにもかかわらず尿pHを5.5以下まで低下させられないことが重要である。尿中NH4+排泄も低下し、UAGは陽性となりやすい。高尿Ca、低クエン酸尿、腎石灰化、尿路結石を伴いやすいことは病型を推定する重要な臨床所見である。成人ではSjögren症候群など自己免疫疾患、薬剤、慢性尿路閉塞、遺伝性疾患を念頭に原因検索を進める。
2型RTA(近位型、proximal RTA)は、近位尿細管での重炭酸再吸収障害が本態である。血清HCO3−がまだ比較的高い段階では濾過された重炭酸が再吸収しきれず、尿pHは5.5超となり得る。しかしアシドーシスが定常状態に至り、血清HCO3−が再吸収可能な低い閾値まで低下すると、遠位尿細管の酸性化能自体は保たれているため、尿pHは5.5未満まで低下し得る。このため、持続する尿pH高値は1型ほど典型的ではない。Fanconi症候群を伴う場合は、尿糖、リン酸尿、アミノ酸尿、低尿酸血症、低リン血症などを積極的に確認する。
病型判定が通常検査だけで困難な場合に、負荷試験を選択する。遠位型RTAの評価では塩化アンモニウム負荷試験が古典的検査として知られる。小児慢性特定疾病情報センターの診断の手引きでは、塩化アンモニウムを0.1 g/kgまたは75 mEq/m2経口投与し、血液pHが7.3以下にもかかわらず尿pHを5.5以下に低下させられない場合にdRTAと診断するとしている。ただし、既に明らかな代謝性アシドーシスがある症例では原則として試験は不要であり、高度のアシドーシスでは危険となり得るため実施しない。
参考)尿細管性アシドーシス 診断の手引き - 小児慢性特定疾病情報…
近位型RTAを疑う場合は、重炭酸負荷による尿中重炭酸排泄の評価が病態理解に役立つ。血清HCO3−を上昇させた際に尿pHが7.5超となり、重炭酸分画排泄率(fractional excretion of bicarbonate:FEHCO3−)が15%超であれば、近位尿細管での重炭酸再吸収障害を支持する。一方で、検査値は腎機能、体液量、投与中のアルカリ製剤、利尿薬、低K血症の影響を受けるため、専門施設または腎臓専門医と連携し、適応を絞って実施する。
酸負荷試験には悪心、嘔吐、アシドーシス増悪、循環動態への影響があり、肝疾患、腎機能低下、重症代謝性アシドーシス、高K血症、妊娠、全身状態不良などでは慎重な適応判断が必要である。臨床的に明瞭な高Cl性アシドーシス、尿pH異常、K異常、尿中電解質所見、基礎疾患がそろう場合、侵襲的な負荷試験を行う前に治療可能な原因の是正と専門医紹介を優先する。
NCBI Bookshelf:Renal Tubular Acidosis
RTAを疑う場面では、「正常AG性代謝性アシドーシス」から「腎外性の重炭酸喪失か、腎性の酸排泄・重炭酸再吸収障害か」を切り分ける。下痢など腎外性HCO3−喪失では、腎臓が代償的にNH4Clを多く排泄するため、一般にUAGは陰性となる。これに対してRTAではNH4+排泄が不十分でUAGが陽性となることが多い。この枠組みは有用だが、UAGはあくまで間接指標であり、尿中に未測定陰イオンが多い場合や、腎機能低下・体液量異常がある場合には単独の決め手にしない。
診療録には、血液ガスの採取条件、血清Na+・Cl−・HCO3−・K+・Cr・Alb、補正AG、尿pH、尿Na+・K+・Cl−、算出したUAG、下痢や尿路変更の有無、薬剤一覧、糖尿病・自己免疫疾患・CKD・尿路閉塞の有無を時系列で記載する。さらに、アルカリ補充前か後か、カリウム補正の前後かを明確にすると、病態の変化と検査値の解釈を共有しやすい。
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