
脳虚血とは、脳への血流が何らかの原因で減少または停止し、脳組織が酸素と栄養不足に陥る状態を指します。 脳は酸素欠乏に極めて弱く、数分間の血流遮断で神経細胞が死滅し始めます。 虚血が発生すると、エネルギー代謝が障害され、興奮性アミノ酸の放出、細胞内カルシウム濃度の上昇、フリーラジカルの生成など、一連のカスケード反応が引き起こされます。
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この結果、神経細胞の機能障害から壊死に至り、臨床症状として現れます。 脳底部でつながって輪のようになっているウィリス動脈輪の狭窄・閉塞が原因でおこる脳の虚血が最も多いとされています。 脳梗塞とは、脳動脈が閉塞することで脳組織が壊死に陥り、手足の麻痺や言語障害などの神経脱落症状をきたすものです。 一方、一時的な脳動脈の閉塞で24時間以内に神経脱落症状が消失するものが一過性脳虚血発作(TIA)です。
脳虚血の症状は、虚血が発生した部位に対応する神経症状(巣症状)が出現します。 典型的な症状は次のようなものです。
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これらの症状は多くの場合、数分〜数十分で自然に治まります。 TIAの症状は、片側の脱力・しびれ、顔のゆがみ、ことばの異常、片目の見えにくさが突然出て、数分〜数十分で治まるのが典型です。 回転性めまいやふらつきが単独で続く場合はTIA以外の原因も多く、症状の組み合わせと「突然」がサインです。
医療現場では、FASTチェックが広く用いられています。
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| 頭文字 | チェック内容 | 確認方法 |
|---|---|---|
| F(Face・顔) | 顔の片側がゆがむ | 「イー」と笑ってもらうと、顔の片側だけ下がる・ゆがむ |
| A(Arm・腕) | 片腕に力が入らない | 両腕を前に上げると、片方だけ力が入らず下がってくる |
| S(Speech・言葉) | ろれつが回らない・言葉が出ない | 短い文を復唱してもらう。言葉が出てこない、相手の話が理解できない |
| T(Time・時間) | 発症時刻を確認してすぐ行動 | 1つでも当てはまれば発症時刻を確認してすぐ受診・救急要請 |
⚠ 数分〜数十分で消えても「TIAを疑う」症状
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TIAを呈する疾患には脳卒中以外の鑑別(てんかん発作、偏頭痛、一過性黒内障、失神、一過性全健忘など)も多く存在します。 神経学的所見の評価に加えて、低血糖発作などの除外のため血糖測定を速やかに行います。 必要に応じ血算・生化学検査や凝固系、炎症反応をチェックし、感染性心内膜炎や多血症など背景因子の有無も評価します。
参考)一過性脳虚血発作(TIA)の定義・疫学・脳卒中リスク - 医…
TIAの定義は、脳もしくは網膜の局所虚血によって一過性の神経機能障害が生じる発作であり、画像上急性梗塞の所見を伴わないものを指します。 症状は長くとも24時間以内に完全消失しますが、現在は症状の持続時間ではなく組織学的に梗塞を残さないことを重視する定義が世界的コンセンサスとなっています。 従来の時間基準のみの定義から改訂されたことで、TIAと診断するにはMRIの拡散強調画像(DWI)などで梗塞巣がないことを確認することが求められます。
脳画像検査はTIA初期対応の必須項目です。 まず頭部MRI(DWI拡散強調画像)を可能な限り早期に行い、症状の原因が脳梗塞でないこと(すでに梗塞に進展していないか)を確認します。 受診時に症状が既に消失していることが多く、診断には病歴が極めて重要です。 (1) 突然発症したか、(2) 神経障害に対応するか(巣症状であるか)、の2点を中心に聴取しましょう。
脳梗塞の治療は、発症後4.5時間が鍵となる超急性期治療(t-PA・血栓回収療法)から、後遺症のリハビリ、再発予防まで網羅されています。 米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)は2026年1月26日、「急性期虚血性脳卒中患者の初期治療に関するガイドライン(2026年版)」を発表しました。
日本脳卒中学会の『脳卒中治療ガイドライン2021』は2025年に改訂版が公開されています。 2026年前半のNeurology領域は、(1) 脳卒中ガイドラインの大規模更新(AHA/ASA 2026急性期、ESO 2025血圧、JSS脳卒中治療ガイドライン2021改訂2025)、(2) 抗アミロイド療法のリアルワールド・データ蓄積などが主要トピックです。
参考)2026年5月14日:ジェネラリストのための専門領域アップデ…
医療従事者として知っておくべき意外な視点として、低酸素性虚血性脳症(Hypoxic-ischaemic encephalopathy)があります。 低酸素性虚血性脳症とは、心停止、窒息、重篤な低血圧などによって、脳への酸素供給(低酸素)と血流(虚血)が著しく低下し、脳全体がダメージを受ける病態です。 成人では心肺停止後によく見られ、新生児では出生時のトラブル(新生児仮死)として発生することがあります。
主な症状(体からのSOSサイン)は以下の通りです。
後遺症として意識障害、認知機能障害、運動障害などが残る可能性があります。 また、もやもや病では、一過性の脳虚血発作で発症することが最も多く、数分から数十分の脳虚血発作を繰り返します。 一過性脳虚血発作の症状は、手足の脱力、しびれ、くり返す強い頭痛、けいれん、不随意運動(勝手に手や足が動く)などで、繰り返されますが、発作時以外は無症状です。 小児では過呼吸が発作を誘因します。 熱い食べ物を吹いて冷ましたとき、大泣きした時、急な激しい運動、ピアニカやリコーダーの演奏などです。 発作時以外無症状でも、発作を長年繰り返すことで、成長期の脳、特に前頭葉への悪影響が指摘されています。
参考リンク。