
ナルデメジン(商品名:スインプロイク錠0.2mg)は、塩野義製薬が創製した末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(peripherally-acting mu-opioid receptor antagonist:PAMORA)です。
参考)医療用医薬品 : スインプロイク (スインプロイク錠0.2m…
オピオイド鎮痛薬の鎮痛作用は、主に中枢神経系のμオピオイド受容体を介して発現します。一方、オピオイドは末梢組織、特に消化管に存在するμオピオイド受容体にも作用します。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20170308001/340018000_22900AMX00513_B100_1.pdf
消化管のμオピオイド受容体が活性化されると、以下の複合的な作用により便秘が発症します。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20170308001/340018000_22900AMX00513_D100_1.pdf
ナルデメジンは、消化管に存在するμオピオイド受容体に選択的に結合し、オピオイドの末梢性作用に拮抗します。
これにより、オピオイドの中枢性鎮痛作用を維持したまま、オピオイド誘発性便秘症(opioid-induced constipation:OIC)を改善するという、従来の下剤とは異なる作用機序を持っています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20170308001/340018000_22900AMX00513_H100_1.pdf
ナルデメジンの最大の特徴は、血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)の透過性が極めて低いという点です。
参考)日本発で新機序のオピオイド誘発性便秘治療薬:日経メディカル
放射性同位体標識ナルデメジンを用いた全身オートラジオグラフィー(QWBA)試験では、投与後15分から72時間にかけて大脳及び小脳における放射能は検出下限未満でした。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20170308001/340018000_22900AMX00513_I100_1.pdf
この結果から、ナルデメジン及びその代謝物の血液脳関門における透過性は、単回投与時だけでなく反復投与時にも極めて低いことが示唆されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20170308001/340018000_22900AMX00513_F100_1.pdf
化学構造の観点から見ると、ナルデメジンはモルヒナン骨格を有する化合物ですが、血液脳関門の透過性を低下させることを目的として側鎖が付加されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00006801.pdf
具体的には、モルヒナン骨格の7位にカルバモイル基を導入することで、経口吸収性を保ちつつ血液脳関門の透過性を極めて低く設計されています。
この分子設計により、ナルデメジンは高溶解性及び低膜透過性の化合物に分類され、中枢におけるオピオイド鎮痛薬の作用を阻害しにくいようにデザインされています。
ナルデメジンの化学構造は、オピオイド受容体拮抗薬としての活性と末梢選択性を両立させるよう精密に設計されています。
化学名:(5R)-17-(Cyclopropylmethyl)-6,7-didehydro-4,5-epoxy-3,6,14-trihydroxy-N-2-(3-phenyl-1,2,4-oxadiazol-5-yl)propan-2-ylmorphinan-7-carboxamide mono(4-methylbenzenesulfonate)
分子式:C32H34N4O6・C7H8O3S
参考)https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/medley-medicine/prescriptionpdf/340018_2359007F1020_1_03.pdf
分子量:742.84
特に注目すべきは、1,2,4-オキサジアゾール環を含む側鎖の存在です。この構造が血液脳関門透過性の低下に寄与しています。
また、ナルデメジンはトシル酸塩の形で製剤化されており、これが経口投与時の溶解性と吸収性を向上させています。
オピオイド受容体との結合親和性については、ナルデメジンは強力なμオピオイド受容体アンタゴニスト活性を有しており、モルヒネやオキシコドン、フェンタニルなどの様々なオピオイド鎮痛薬に対して拮抗作用を示します。
ナルデメジンの臨床効果は、便秘改善作用だけでなく、制吐作用も有していることが知られています。
オピオイドによる嘔吐は、化学受容器引金帯(chemoreceptor trigger zone:CTZ)でのオピオイド受容体活性化により引き起こされます。
ナルデメジンは、化学受容器引金帯でのオピオイドの消化管神経活動の抑制作用に対して強力な拮抗作用を示すことで、オピオイド誘発性の嘔吐に対しても効果を示します。
2024年にJournal of Clinical Oncology(JCO)に発表された日本のグループによる研究では、ナルデメジンの予防的投与によりオピオイド誘発性悪心嘔吐(OINV)が軽減されるという結果が報告されました。
参考)オピオイド誘発性便秘に対するナルデメジンの予防効果|rute…
この研究では、強オピオイドの定期内服を開始した患者を対象に、ナルデメジン投与群と対照群を比較しました。
その結果、day1-3の間に制吐剤を使用した患者割合は、ナルデメジン群10.6%に対して対照群51.1%と、ナルデメジン群で有意に少ないことが示されました。
主要評価項目である14日目のBowel Function Index(BFI)<28.8の患者割合は、ナルデメジン群64.6%に対して対照群17%、リスク差47.6%(P<0.0001)でナルデメジン群で良好でした。
試験期間中のrescue下剤の使用頻度も、ナルデメジン群0.6±1.5回に対して対照群2.0±3.0回(P=0.0059)と、ナルデメジン群で有意に少なかったことが報告されています。
このように、ナルデメジンはOICの改善だけでなく、オピオイド誘発性悪心嘔吐の予防効果も期待できる薬剤です。
ナルデメジンの使用において、医療従事者が特に注意すべき重要な点は、消化管穿孔のリスクです。
消化管穿孔の危険性が高まる恐れがあるため、以下の患者には投与してはなりません。
この注意点は、ナルデメジンの作用機序に起因しています。
ナルデメジンは消化管のμオピオイド受容体に結合し、オピオイドによる消化管運動抑制作用を強力に拮抗します。
これにより腸管運動が促進されますが、すでに消化管閉塞やその疑いがある患者では、腸管運動の急激な促進が消化管穿孔を引き起こす可能性があります。
臨床試験では、ナルデメジンの主な副作用として下痢が報告されています。
下痢の発現頻度は、ナルデメジンの用量や患者の基礎疾患によって異なりますが、一般的に5-10%程度と報告されています。
参考)https://izumi.tokushukai.or.jp/pdf/ci/ci40.pdf
下痢が発現した場合は、減量または休薬を考慮し、重症下痢や脱水症状が認められる場合には適切な対症療法を行う必要があります。
また、ナルデメジンはオピオイドの末梢性作用に拮抗するため、オピオイド鎮痛薬の鎮痛効果を減弱させる可能性についても理論上は考えられます。
参考)https://www.shionogi.com/content/dam/shionogi/jp/news/pdf/2016/160330.pdf
しかし、臨床試験ではナルデメジン投与によりオピオイド鎮痛薬の鎮痛効果が減弱したという報告はなく、実際の臨床使用においても鎮痛効果への影響は最小限であると考えられています。
参考)https://nsmc.hosp.go.jp/Journal/2018-8/SMCJ2018-8_original01.pdf
これは、ナルデメジンの血液脳関門透過性が極めて低く、中枢のμオピオイド受容体にほとんど到達しないためです。
PMDA 審査報告書 スインプロイク錠0.2mg - 薬物動態および血液脳関門透過性に関する詳細データ
日経メディカル 日本発で新機序のオピオイド誘発性便秘治療薬 - 臨床的意義と使用上の注意