公認心理師法の守秘義務を実務で守る要点

公認心理師法第41条の守秘義務は、支援対象者との信頼を守る法的・倫理的基盤です。秘密の範囲、正当な理由、情報共有時の同意、違反時の罰則を医療・福祉・教育の現場でどう判断すればよいでしょうか?

公認心理師法 守秘義務の基礎知識と核心ガイド

守秘義務を実務で判断する要点
第41条の基本原則

業務上知り得た人の秘密は、正当な理由がない限り漏らせず、資格を失った後も義務は継続します。

連携は無制限ではない

多職種連携が求められても、共有目的、相手、必要最小限の範囲を本人に説明して確認する姿勢が重要です。

例外は根拠と最小限性

虐待通告や生命・身体保護などでは情報提供が必要になり得るため、法的根拠、緊急性、記録を確認します。


公認心理師法第41条が定める守秘義務とは



公認心理師法における守秘義務の直接の根拠は、第41条です。同条は、「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない」と定めています。さらに重要なのは、「公認心理師でなくなった後においても、同様とする」と明記されている点です。退職、異動、廃業、資格登録の取消しその他の事情によって業務を離れた後も、職務上知り得た秘密を自由に扱えるようになるわけではありません。


参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80ab4905&dataType=0&pageNo=1dataType=0href="https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80ab4905&dataType=0&pageNo=1">https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80ab4905&dataType=0&pageNo=1pageNo=1" target="_blank" rel="noopener">・公認心理師法(◆平成27年09月16日法律第68号)
ここでいう「秘密」は、診断名、心理検査結果、相談内容、家族歴、生活歴、服薬状況、経済状況、学校や職場での困難、虐待・DV被害、犯罪被害、自傷・他害に関する訴えなどに限定されません。氏名を伏せた場合でも、所属、年齢、居住地域、家族構成、稀な経過、SNS投稿等の断片を組み合わせて本人が推知できるなら、秘密の漏示に当たり得ます。対象は支援対象者本人の情報だけでなく、面接・観察・関係者相談の過程で知った家族、同居者、同僚、教職員その他の関係者の情報にも及びます。
守秘義務は、単に「話した内容を外部に伝えない」という消極的なルールではありません。支援対象者が、心理的な苦痛、被害体験、希死念慮、家族関係など、通常は他者に話しにくい事項を安心して語れる環境を支える専門職上の基盤です。公認心理師法第1条は、資格制度を通じて業務の適正を図り、国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的としています。守秘義務は、この目的を実現する信頼関係の前提と理解する必要があります。


一方で、守秘義務は「情報を一切共有してはならない」という絶対的な沈黙義務ではありません。公認心理師法第42条は、保健医療、福祉、教育等の提供者・関係者との連携を保つことを求めています。つまり実務では、守秘義務と多職種・多機関連携を対立概念として扱うのではなく、支援対象者の利益を中心に、必要な情報を、適切な根拠と範囲で扱うことが求められます。


厚生労働省「公認心理師法」


秘密の範囲と違反時の責任を整理する

守秘義務の対象となる情報は、面接室で聴取した内容だけではありません。診療録・心理記録・相談記録・検査所見・紹介状・連絡票・会議資料・電子カルテ・メール・チャット・録音データ・オンライン面接の映像や音声・予約情報など、業務に関連して知り得た情報を広く含みます。情報の取得経路も、本人からの聴取、家族からの相談、主治医や看護師からの情報提供、学校との連絡、カンファレンス、待合室での偶発的な見聞などを問いません。
個人情報保護の観点では、医療・介護分野で扱われる病歴、障害、診療・調剤・保健指導に関する情報、犯罪被害に関する情報などは、特に配慮を要する「要配慮個人情報」に該当します。医療・介護関係事業者における個人データの第三者提供は原則として本人同意が必要であり、情報の取扱いには利用目的の特定、安全管理、従業者・委託先の監督も求められます。公認心理師個人の第41条上の守秘義務と、所属組織に課される個人情報保護上の管理責任は、重なり合いながら実務を規律します。


参考)医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガ…

項目 基準・内容 備考
守秘義務の根拠 公認心理師法第41条 業務に関して知り得た人の秘密が対象です。
義務の継続 公認心理師でなくなった後も継続 退職・異動・廃業後も秘密を漏らしてはなりません。
行政上の対応 登録取消しまたは名称使用停止の対象となり得る 第32条第2項は第41条違反を処分対象にしています。
刑事罰 1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 第46条。告訴がなければ公訴を提起できません。
個人情報保護 第三者提供は原則として本人同意が必要 要配慮個人情報を含む心理・医療情報は特に慎重に扱います。

公認心理師法第32条第2項では、第41条の守秘義務に違反した公認心理師に対し、文部科学大臣および厚生労働大臣が登録を取り消し、または期間を定めて「公認心理師」および名称中の「心理師」の文字の使用停止を命じられると規定しています。また、第46条では第41条違反に対し、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。刑事罰の規定があることは、守秘義務が単なる職場内の服務規律ではなく、国家資格に伴う法的義務であることを示します。


ただし、違反の成否を「氏名を言ったかどうか」だけで短絡的に判断してはいけません。例えば、院内・学校内での不用意な雑談、スタッフステーションでの大声の会話、私用端末への記録保存、宛先を誤ったメール、画面共有時のカルテ表示、生成AIや外部クラウドサービスへの事例入力、SNS上の「匿名事例紹介」なども、再識別可能性、利用目的、アクセス権限、安全管理措置を踏まえて評価する必要があります。


正当な理由と情報共有の実務判断

第41条は「正当な理由がなく」と規定しているため、一定の場合には情報提供が許容または要請されます。しかし、正当な理由の有無は、支援者の主観的な善意だけで決まりません。法令上の義務・権限、生命・身体・財産の保護に必要な緊急性、本人同意の内容、共有目的、共有先の役割、提供情報の必要最小限性、代替手段の有無、所属組織の規程などを総合的に検討する必要があります。
通常の診療・支援連携であれば、まず本人に対し、誰と、何の目的で、どの程度の情報を共有するのかを具体的に説明し、同意を得ることが基本です。「チームで共有します」という包括的説明だけでは、本人の理解や選択を十分に担保できないことがあります。とくに、家族関係、性被害、DV、虐待、性的指向・性自認、依存症、精神科受診歴、希死念慮、職場上の問題など、共有による不利益が大きくなり得る情報では、共有範囲を分けて確認する配慮が必要です。

  • 共有目的を明確にし、「治療方針の調整」「安全確保」「福祉サービス導入」など、目的に直接必要な情報に限定します。
  • 共有先を特定し、職種名だけでなく、必要に応じて部署・担当者・関係機関まで本人へ説明します。
  • 本人同意は口頭でも成立し得ますが、重要な共有では説明内容、同意日時、対象情報、相手先、不同意または条件を記録します。
  • 家族は当然の情報共有先ではありません。成人の支援対象者については、家族への説明・情報提供も原則として本人の意思を確認します。
  • カンファレンスでは、参加者全員に必要な情報だけを提示し、議事録・配付資料・画面表示・終了後の回収や廃棄まで管理します。
  • メールやチャットでの共有は、誤送信、転送、端末紛失、アカウント共有、ログ保存のリスクを踏まえ、組織が認めた手段とルールを使用します。

公認心理師法第42条は、保健医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、関係者との連携を保つことを求めています。また、心理支援の対象者に当該支援に係る主治医がいる場合、公認心理師は主治医の指示を受けなければなりません。この規定は、多職種連携の重要性を示しますが、連携の必要性だけで無制限の情報共有を正当化するものではありません。本人への説明・同意、法令上の根拠、最小限性、記録という手順を外さないことが安全な実務につながります。


医療・介護関係事業者向けガイダンスでも、個人データの第三者提供は原則としてあらかじめ本人同意が必要とされています。本人以外への病状説明が必要な場合には、あらかじめ説明対象となる家族等を確認して同意を得ることが望ましいとされています。家族から「本人が何を話しているのか教えてほしい」と求められた場合、支援の継続上必要な一般論の説明と、本人の相談内容を開示することは分けて検討しなければなりません。


個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」


虐待・自傷他害・照会で迷う場面の対応

守秘義務が問題となりやすいのは、支援対象者または第三者の生命・身体に具体的な危険が及ぶ可能性がある場面です。自殺企図や切迫した希死念慮、具体的な他害予告、児童虐待・高齢者虐待・障害者虐待の疑い、DVや性暴力被害、保護を要する子どもの安全確保などでは、秘密を守ることと安全を守ることの両方を視野に入れた判断が必要になります。
個人情報保護法上、本人同意なしの利用・第三者提供が認められ得る例外として、法令に基づく場合、人の生命・身体・財産の保護のために必要で本人同意を得ることが困難な場合、公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のため特に必要で本人同意を得ることが困難な場合などがあります。医療・介護関係事業者向けガイダンスでは、児童虐待防止法に基づく児童虐待に係る通告を、法令に基づく個人情報利用の例として挙げています。


ただし、「自傷他害のおそれがある」という言葉だけで、あらゆる情報を警察、家族、職場、学校等へ広範に伝えてよいわけではありません。危険の切迫性、具体性、実行可能性、保護要因、本人の判断能力、利用可能な緊急支援、通告・相談先の法的役割を評価し、提供する情報は目的達成に必要な最小限に留めます。可能であれば本人に情報共有の必要性を説明し、本人とともに受診、家族連絡、危機対応計画、地域支援への接続を進めます。本人への説明が危険を増大させる場合や、同意取得が困難な緊急場面では、その理由を明確に記録します。
警察、行政、学校、勤務先、裁判所などから照会があった場合も、相手が公的機関であることだけを理由に、直ちに全記録を開示してはいけません。照会の法的根拠、文書の内容、対象者、対象期間、回答義務の有無、提出範囲、本人同意の有無、組織内の決裁手順を確認します。任意照会、捜査関係事項照会、令状に基づく差押え、法定の通告義務などでは性質が異なるため、現場の公認心理師だけで抱え込まず、所属長、個人情報保護責任者、法務担当、主治医や多職種チームへ速やかに相談することが重要です。
緊急時の判断を後から検証可能にするため、記録には、危険に関する客観的事実、本人の発言、評価した事項、検討した選択肢、相談した相手、共有先、提供情報の範囲、提供日時、根拠、本人への説明状況を残します。記録は責任回避だけのためではなく、支援の連続性と、本人の権利擁護を両立させるための臨床的・組織的な基盤です。


医療・福祉・教育現場で定着させる運用

守秘義務違反の多くは、悪意ある情報売買や意図的な暴露だけで生じるものではありません。「チーム支援だから当然共有できる」「家族なので説明してよい」「匿名なら問題ない」「研修目的なら許される」「職員同士の口頭連絡なら記録は不要」といった慣行的な思い込みが、漏えい・過剰共有につながります。特に医療・福祉・教育をまたぐケースでは、組織ごとに個人情報保護の規程、同意書の様式、記録システム、職員の守秘義務の根拠が異なるため、連携開始時にルールをすり合わせることが欠かせません。
所属組織は、個人情報の取扱いに関する責任体制を明確にし、規程の整備、利用目的の周知、相談・苦情対応の窓口、漏えい時の報告連絡体制、研修、自己点検を行う必要があります。個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンスは、医療・介護関係事業者に対し、組織的・人的・物理的・技術的な安全管理措置、従業者への必要かつ適切な監督、委託先への監督を求めています。従業者には有資格の専門職だけでなく、事務職員、派遣職員、実習生等も含まれます。


実務では、初回面接や契約時に、守秘義務の原則と例外を平易な言葉で説明することが出発点になります。説明は「秘密は守ります」とだけ伝えるのでは不十分です。「生命・身体に重大な危険がある場合」「法令に基づく通告や照会への対応が必要な場合」「支援に必要な範囲で、本人の了解を得て主治医や関係機関と連携する場合」などを、所属先の機能と対象者の理解力に応じて具体化します。そのうえで、情報共有を予定する相手、目的、範囲、拒否や変更の意思を表明する方法を確認します。
例えば、学校から紹介された生徒の心理面接で、保護者が「面接内容を毎回すべて報告してほしい」と求めたとします。このとき公認心理師は、支援の目的、本人の年齢・判断能力、緊急の安全課題、保護者の監護上必要な情報、学校との役割分担を評価します。そして、本人と保護者に対して、日常支援に必要な共有事項と、面接内で保護される私的な語りを区別して説明します。自傷の切迫や虐待の疑いなど安全確保が優先される事情がある場合には、必要な関係者へ最小限の情報を共有し、その根拠と過程を記録します。
公認心理師法の守秘義務を守る鍵は、「漏らさない」だけではなく、「共有するなら、なぜ・誰に・何を・どこまで・どの根拠で共有するかを説明し、必要最小限にし、記録する」ことです。迷う事例を個人判断に委ねず、平時から多職種カンファレンス、倫理委員会、個人情報保護担当、顧問弁護士等へ相談できる導線を整えることが、支援対象者の安全と信頼、そして専門職自身を守る運用となるでしょう。


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