「医療廃棄物」という言葉は広く使われていますが、法律上は発生場所、廃棄物の性状、感染のおそれなどを踏まえて取り扱いを判断する必要があります。病院、診療所、歯科診療所、訪問看護事業所などの医療関係機関で医療行為に伴って生じた感染性廃棄物は、原則として特別管理一般廃棄物または特別管理産業廃棄物として、厳格な管理・処理の対象になります。感染性廃棄物は、発生時点で他の廃棄物と分別して排出することが基本です。
参考)https://www.env.go.jp/recycle/kansen-manual1.pdf
一方、在宅自己注射、経管栄養、ストーマケア、腹膜透析、在宅酸素療法などに伴って家庭から出るものは、一般に「在宅医療廃棄物」と呼ばれます。家庭から排出される在宅医療廃棄物は一般廃棄物として扱われる考え方が基本ですが、すべてを通常の家庭ごみとして同じ方法で出せるわけではありません。特に、注射針、採血針、ペンニードル、ランセット、翼状針などの鋭利物は、収集作業員、選別作業員、患者家族、清掃担当者の針刺し事故につながる危険があります。そのため、供給した医療機関や薬局への返却を原則とする運用が広く採られています。
参考)https://www.env.go.jp/content/900534295.pdf
医療従事者が患者や家族へ説明するときは、「自宅で出たものだから、すべて可燃ごみに出せる」「病院で使ったものだけが医療廃棄物である」といった誤解を避けることが大切です。廃棄物の名称だけで判断せず、鋭利性、血液・体液の付着状況、感染リスク、液体の残存、地域の収集ルール、供給元の回収体制を組み合わせて案内します。
環境省「在宅医療廃棄物の処理に関する取組推進のための手引き」
処分方法を決める際は、まず「鋭利物か」「液体や血液・体液が残っているか」「自治体収集の対象か」を確認します。注射針などの鋭利物は、ごみ袋へ直接入れたり、資源ごみの容器に混ぜたりしてはいけません。針を装着したままの注射器、外した針、自己注射用ペン針、採血用ランセットなどは、原則として処方・指導を受けた医療機関、訪問看護ステーション、または薬局へ返却します。薬局の注射針回収は地域や薬局の運用により異なるため、患者自身の判断で持参せず、事前に受入れの可否、回収容器、返却方法を確認するよう案内します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 注射針・ペンニードル・ランセット | 原則として医療機関または薬局へ返却する | 集積所には出さない。返却まで耐貫通性のある専用容器等で保管する |
| 針付き注射器・翼状針 | 供給元または指示元の医療機関へ相談し、返却する | 針を無理に外したり、再装着したりしない |
| ガーゼ・脱脂綿・チューブ類 | 自治体の可燃ごみ等の分別区分に従う | 血液・体液の付着が多い場合や感染症が疑われる場合は医療機関へ相談する |
| 紙おむつ・ストーマ装具 | 排泄物を適切に処理後、自治体ルールに従って排出する | 排泄物そのものは原則としてトイレへ流し、装具・おむつは流さない |
| 栄養剤容器・輸液バッグ・空の容器 | 内容物を残さず、自治体の資源・可燃・不燃区分を確認する | 地域により扱いが異なるため、容器表示だけで決めない |
| 残薬・薬剤・消毒薬 | 自己判断で流しや排水口に捨てず、薬局または処方元へ相談する | 医薬品の種類により回収や廃棄方法が異なる |
大阪市では、在宅医療に伴う注射針等について、ごみには出さず、処方を受けた病院・診療所または薬局へ返却するよう案内しています。針の部分を取り除いた後の袋などは普通ごみとされる一方、鋭利な部分が残る場合には新聞紙などで包んで安全を確保することが示されています。もっとも、器具の構造や処方内容によっては患者自身による切断が適切でないこともあるため、医療従事者は製品の使用説明書と供給元の指示を優先し、無理な分解を勧めないことが重要です。
参考)大阪市:在宅医療に伴う廃棄物を処分されるときは(お願い) (…
大阪市「在宅医療に伴う廃棄物を処分されるときは」
使用済み針の安全管理は、使用後にどう保管するかで決まります。患者や家族には、「後でまとめて処理する」ためにテーブル、洗面所、寝室、バッグの中などへ一時置きする行為が危険であることを明確に伝えます。自己注射や血糖測定を行ったら、使用直後に、あらかじめ用意した回収容器へ直接入れる運用が基本です。キャップの再装着は針刺しの原因になり得るため、製品の添付文書や医療者からの指示がない限り、自己判断で行わないようにします。
環境省は、家庭から出る使用済み注射針等を医療機関へ持参する場合、危険防止の観点から堅牢で耐貫通性のある容器を使用することが望ましいと示しています。また、通常のごみ回収に出す制度を自治体が採用している場合にも、キャップを付けたうえで耐貫通性のある容器に入れること、空き缶やペットボトルはリサイクル選別に回る可能性があるため望ましくないことが示されています。つまり、地域の収集制度に例外があったとしても、「薄い袋に入れて可燃ごみへ」という自己流の処分は避ける必要があります。
参考)在宅医療に伴い家庭から排出される廃棄物の適正処理の推進につい…
医療従事者は、回収容器を渡すだけで終わりにせず、患者が実際に使う場所、手指の巧緻性、視力、認知機能、同居家族の有無、子どもやペットの行動範囲も確認します。例えば、視力低下がある患者では、容器の投入口が分かりにくいと針を落とすリスクがあります。片麻痺がある患者では、片手でふたを開閉できるか、容器が滑らないかも重要です。個別性に応じて、容器の位置、固定方法、交換時期、家族や訪問看護師との役割分担まで決めることが、安全な在宅療養につながります。
在宅医療廃棄物は全国一律のごみ袋区分ではなく、市区町村ごとの一般廃棄物処理計画や収集体制により扱いが異なります。注射針を医療機関・薬局へ返却する地域が多い一方で、針ケースが確実に装着された自己注射針などに限定して、条件付きで自治体収集を行うケースもあります。また、チューブ、カテーテル、栄養バッグ、ストーマ装具、CAPD関連物品、紙おむつなども、可燃ごみ、普通ごみ、資源ごみ、不燃ごみのどれに該当するかは地域差があります。
たとえば大阪府は、在宅医療廃棄物について、鋭利な注射針等は患者・家族または医療関係者が医療機関へ持ち込み感染性廃棄物として処理し、それ以外の非鋭利物は市町村が一般廃棄物として処理する方法が考えられると示しています。枚方市も、注射針等の鋭利物や血液等が大量に付着して感染のおそれがあるものは、原則として在宅医療を指示した医療機関等へ返却すると案内しています。
参考)医療廃棄物のQ&A(FAQ)/大阪府(おおさかふ)ホームペー…
患者指導では、「市役所のホームページを確認してください」だけでは不十分です。療養開始時、退院時、注射薬の変更時、訪問看護導入時には、患者の居住地を基準に自治体の分別ページを確認し、処方元・薬局が実際に回収できる品目を照合します。転居予定がある場合や、日中は別の家族宅で療養する場合には、排出する自治体が変わることもあります。患者へ渡す説明書には、少なくとも「針類の返却先」「非鋭利物のごみ区分」「回収容器が満杯になる前の連絡先」「判断に迷う場合の相談窓口」を記載すると実務的です。
また、感染症の有無、血液・体液の付着量、治療内容によっては、通常の在宅医療廃棄物の案内だけでは対応できない場合があります。血液が大量に付着した物、感染性が強く疑われる物、抗がん薬や特殊な薬剤が残った物、破損して漏れた物は、自治体の一般ごみに混ぜる前に、主治医、訪問看護師、薬剤師、医療機関の感染管理部門などへ相談するよう案内します。
大阪府「医療廃棄物のQ&A」
在宅医療廃棄物の安全な処理は、患者の注意力だけに依存させるべきではありません。医療機関、訪問看護事業所、薬局が連携し、物品の供給から回収、自治体収集への接続までを治療計画の一部として設計する必要があります。特にインスリン自己注射、GLP-1受容体作動薬などのペン型注入器、在宅中心静脈栄養、腹膜透析、ストーマ、褥瘡処置を行う患者では、発生する廃棄物の種類と量を初回指導時に見積もることが有効です。
医療従事者向けの実務では、退院支援部門、病棟看護師、外来看護師、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーが、患者ごとに「何が出るか」「誰がどこへ返すか」「自治体収集に出せる物は何か」を共有します。患者が高齢、独居、認知症、手指機能低下、経済的困難、遠方通院などの事情を抱える場合、回収先へ定期的に持参すること自体が難しいことがあります。その場合は、次回受診時の持参、訪問診療時の回収可否、家族による代行、回収協力薬局の利用などを早めに検討します。
患者説明では、禁止事項を並べるだけでは行動につながりにくいため、「使った針はその場で専用容器へ入れる」「専用容器が八分目程度になったら次回受診時に持参する」「回収できるか不明なときは薬局に電話して確認する」というように、具体的な生活動作へ落とし込みます。針刺し事故を防ぐことは、患者本人だけでなく、家族、訪問スタッフ、清掃・収集・選別に関わる人々を守ることでもあります。個人が医療廃棄物を捨てる際は、鋭利物を一般ごみに混ぜないこと、自己流で分解しないこと、自治体と供給元のルールを確認することを基本原則として徹底しましょう。