女性の尿道麻酔で男性と同じ量を使うと、過量投与で中毒リスクが3倍以上に跳ね上がります。
キシロカインゼリー2%の有効成分はリドカイン塩酸塩です。 リドカインは神経膜のナトリウムチャネルを可逆的に遮断し、活動電位の発生を抑制することで痛みを伝える知覚神経を一時的に麻痺させます。 速効性と強力な局所麻酔作用が特徴で、効果発現まで約2分、効果持続時間は約30分が目安です。
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ゼリー製剤は、液体と固体の中間的なテクスチャーをもつ粘性製剤です。 この粘性成分が、カテーテルや内視鏡への塗布時の「すべり」を助けると同時に、粘膜面への密着時間を延ばして麻酔効果を高める働きをしています。 スプレー剤や注射液と異なり、塗布部位に留まりやすい点が大きな特徴です。
製造販売元はサンドファーマ(旧アストラゼネカ)で、医療用医薬品に分類されます。 市販薬として薬局で購入することはできず、処方箋が必要です。
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キシロカインゼリー2%の添付文書(ケアネット掲載)|用法用量・禁忌・副作用の詳細が確認できます

尿道麻酔は、キシロカインゼリーの最も頻繁な使用場面です。 添付文書に定められた投与量は、男性で200〜300mg(10〜15mL)、女性で60〜100mg(3〜5mL)です。 この差は尿道の長さによるもので、男性の尿道が約18〜20cm(文庫本の長辺ほど)に対し、女性は約4〜5cm(親指の幅2本分程度)しかありません。
投与量だけでなく、投与の手順も重要です。 一般的な手順は以下の通りです。
男性の場合、前立腺部付近で抵抗を感じたときは陰茎を引き上げる角度を変えることが有効です。 無理に挿入すると粘膜損傷が起こり、出血や感染リスクが高まります。これは基本中の基本です。
注意すべき点として、挿入困難例では10mLのシリンジにゼリーを充填し、外尿道口から尿道内へ直接注入する手技が応用されることがあります。 この手技により尿道内腔をゼリーで満たすことで、カテーテルの通過抵抗を大幅に下げることができます。
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膀胱留置カテーテル挿入手順(花子のまとめノート)|カテーテル挿入時のキシロカインゼリー塗布を含む実践的手順
尿道以外にも、キシロカインゼリーには重要な使用場面があります。 気管内挿管では気管チューブの外面にゼリーを塗布することで、咽頭・気管への刺激を軽減します。 塗布量は「適当量」と添付文書に記載されており、過剰塗布によってチューブの視認性が下がるリスクや、気管粘膜への過剰吸収にも注意が必要です。 キシロカインゼリー2%の基本情報(副作用・効果効能・電子添文…
創面麻酔への使用は意外と知られていません。 砂や土が付着した擦過創をブラッシングする際、患者が幼児だったり受傷面積が広い場合に、キシロカインゼリーを創面に塗布してフィルムドレッシング材で5分密封すると、針でチクチクされても痛みを感じないほどの鎮痛効果が得られます。
参考)http://www.wound-treatment.jp/next/jikken/jikken017.htm
ただし、重要な限定事項があります。 健常皮膚(正常な皮膚)にいくらゼリーを塗布しても鎮痛効果は得られません。 「塗れば麻酔になる」という誤解が現場で広がりがちですが、表面麻酔が有効なのは粘膜面や創面に限られます。 これは一つだけ覚えておけばOKです。
さらに意外な事実として、創面にゼリーを塗布した後にキシロカインスプレーを追加散布すると、ゼリー単独より強い鎮痛効果が得られることが確認されています。 ゼリー単独でまだ痛がる場合の次の手として、速やかなスプレー追加が有効です。
| 適用場面 | 塗布・投与方法 | 効果 |
|---|---|---|
| 尿道麻酔(男性) | 10〜15mL 尿道内注入 | ⭕ 有効 |
| 尿道麻酔(女性) | 3〜5mL カテーテルへ塗布 | ⭕ 有効 |
| 気管内挿管 | チューブ外面に適量塗布 | ⭕ 有効 |
| 創面(擦過創など) | 5分フィルム密封 | ⭕ 有効 |
| 健常皮膚 | 塗布 | ❌ 無効 |
| 眼科用途 | − | ❌ 禁忌 |
局所麻酔薬中毒は、適切な使用量でもリスクがゼロではありません。 特に、外傷・びらん・潰瘍・炎症のある部位では粘膜バリアが破綻しており、通常より急速にリドカインが吸収されます。 このような部位への使用では、できるだけ少量を使うことが原則です。
中毒症状は2段階で現れます。 初期(軽症)には口唇周囲の痺れ、耳鳴り、めまい、興奮、不安が出現します。重篤化すると痙攣、意識消失、さらには心室細動など重篤な不整脈に進行します。 血圧上昇・頻脈・期外収縮、脳出血、重篤な代謝性アシドーシスが起こるおそれもあります。
中毒リスクが高いのは、体重の軽い患者・高齢者・肝機能障害患者です。 リドカインは肝臓で代謝されるため、肝機能が低下していると血中濃度が通常より長く高い状態が続きます。 体重50kgの成人での推奨上限量は、2%製剤で1kg当たり5mg、つまり合計250mg(12.5mL)が目安です。
対処の第一歩は速やかな使用中止と酸素投与です。 痙攣が起きた場合はジアゼパムなどの抗痙攣薬を使用し、心停止には直ちにCPRと脂肪乳剤(イントラリポス)投与が選択肢となります。 現場でのリスク管理として、緊急対応セットの場所を事前に確認しておくことが重要です。
キシロカイン製剤による局所麻酔薬中毒の原因・症状・処置法(サンドファーマ公式)|中毒発生時の対応フローの参考に
現場でよく見られる誤用があります。 それは「潤滑目的だけ」でのキシロカインゼリー使用です。 日本消化器内視鏡学会は、麻酔作用を期待しない内視鏡ファイバースコープへの塗布や、通常の浣腸・坐薬挿入、単純なカテーテル挿入には、KY(K-Yルブリケーティング)ゼリーやグリセリンなどの代替潤滑剤の使用を推奨しています。 これは大切な視点ですね。
参考)https://www.jges.net/wp-content/uploads/2021/03/30e16836c4955f853a652bb79c20d774.pdf
保険診療上でも算定範囲が明確に定められています。 算定が認められる手技には以下のものが含まれます。
つまり「麻酔目的が明確な手技」かどうかが算定の分かれ目です。 査定リスクを避けるためにも、使用目的と手技の記録を明確に残すことが必要です。これが算定の条件です。
また、キシロカインゼリーは金属を侵す性質があります。 金属器具に長時間接触させると腐食の原因になるため、使用後は十分な水洗いが必要です。 細かい点ですが、現場での器具管理に直結します。
リドカイン塩酸塩【ゼリー】の算定に関する審査事例(社会保険診療報酬支払基金)|保険算定の可否判断の実例
キシロカインゼリーには明確な禁忌があります。 まず眼科用途への使用は禁忌です。 ゼリー製剤に含まれる添加物が角膜を傷める可能性があり、眼表面麻酔が必要な場合は専用の点眼麻酔薬(オキシブプロカインなど)を使用しなければなりません。
投与経路の誤りも深刻なリスクです。 キシロカインスプレーを創面に直接散布するのは禁忌に近い行為です。 ゼリーの塗布と異なり、スプレーを未処置の創面に直接噴霧すると、高浸透圧による激痛(拷問レベル)が生じることが実験的に確認されています。 スプレーは必ずゼリー塗布後の創面に用いることが鉄則です。
また、アドレナリン(エピネフリン)との配合については注意が必要です。 キシロカインには添付文書上の注意として、アドレナリン配合製剤を指端・耳介・鼻翼・陰茎などの末梢循環が乏しい部位に使用すると壊死を来すリスクがあります。 ただし、ゼリー製剤自体にはアドレナリンは含まれないため、この点はキシロカイン注射液との混同が生じやすい部分です。
以下の患者には特別な注意が必要です。