病態形成にはVirchowの三要素(血流停滞、血管内皮障害、凝固亢進状態)が関与しており、静脈瘤、静脈カテーテル留置、外傷、手術後、妊娠・産褥期、がん、凝固能異常などのリスク因子が存在します。 表在性血栓性静脈炎は、従来は良性自限性と考えられていましたが、血栓が深部静脈系へ進展して深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症(PTE)をきたすリスクがあるため、適切な評価と治療が求められます。
参考)Superficial venous thrombophle…
上肢の血栓性静脈炎では、末梢静脈カテーテル留置部位に沿った発赤・腫脹・疼痛が典型的で、カテーテル関連血流感染(CRBSI)や化膿性血栓性静脈炎(septic thrombophlebitis)への進展に注意が必要です。 化膿性血栓性静脈炎では、局所の膿瘍形成、全身の発熱、炎症反応の著明な上昇を認め、超音波や造影CTで静脈壁の肥厚、静脈内充填欠損、静脈壁の造影効果増強などの画像所見が得られます。
参考)https://r3journal.org/doi/10.2214/r3j.24.01071
下肢の静脈瘤に伴う血栓性静脈炎では、静脈瘤がより顕著に浮き上がり、立位や長時間の站立で不快感が増強します。 患者によっては、掻痒感、引っ張られるような感覚、衣服の接触による不快感を訴えることもあります。 写真で記録する際は、発赤の範囲、索状硬結の長さ、膝関節との位置関係(膝上か膝下か)、鼠径部(大腿静脈との接合部)や膝窩部(膝窩静脈との接合部)への近接度を明確にすることが、治療方針の決定に不可欠です。
血栓性静脈炎の診断は、まず病歴聴取と身体所見から開始されますが、臨床所見のみでは表在性血栓性静脈炎と深部静脈血栓症を確実に鑑別することは困難です。 そのため、静脈超音波検査(venous duplex ultrasound)が診断のゴールドスタンダードとして推奨されます。 超音波検査では、血栓の正確な位置、長さ、深部静脈系(大腿静脈、膝窩静脈、腋窩静脈など)との距離、および併存するDVTの有無を評価できます。
参考)https://acibademinternational.com/health-library/thrombophlebitis-diagnosis-outlook-and-modern-treatment-approaches/
特に重要な評価ポイントは、血栓が深部静脈との接合部(saphenofemoral junction: SFJ、saphenopopliteal junction: SPJ)から3cm以内にあるかどうかです。 この距離が3cm以内の場合、血栓が深部静脈へ進展するリスクが高く、治療的には深部静脈血栓症に準じた抗凝固療法の適応となります。 また、血栓の長さが5cm以上であることも、進展リスクの高い因子として治療方針に影響します。
D-ダイマーは、表在性血栓性静脈炎の除外診断には有用性が限られており、感度が48~74.3%と低いため、陰性でもSTPを否定できません。 したがって、D-ダイマー単独での判断は避け、超音波検査による直接評価が必須です。 化膿性血栓性静脈炎や深部への進展が疑われる場合には、造影CTやMRIによる評価も考慮されます。
表在性血栓性静脈炎の治療は、血栓の範囲、深部静脈との距離、リスク因子の有無に基づいて層別化されます。 限局性で低リスクの症例(血栓長5cm未満、膝下、深部静脈接合部から遠位、リスク因子なし)では、歩行、下肢挙上、温罨法、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による対症療法が第一選択となります。 弾性ストッキング(30~40 mmHg)の着用も、疼痛軽減と血栓解消を促進する目的で推奨されます。
一方、高リスクの症例(血栓長5cm以上、膝上部、深部静脈接合部3cm以内、活動性がん、最近の手術、既往の静脈血栓塞栓症、男性など)では、抗凝固療法の適応となります。 第一選択として、フォンダパリナクス(fondaparinux)2.5mg皮下注を1日1回、45日間投与することが推奨されており、低分子ヘパリン(LMWH)よりも優れた有効性が示されています。 深部静脈へ進展している場合、または接合部3cm以内の症例では、治療用量の抗凝固薬(DOAC、ワルファリン、LMWHなど)を少なくとも3ヶ月間投与し、深部静脈血栓症として管理します。
表在性血栓性静脈炎の主な合併症は、深部静脈血栓症への進展と肺血栓塞栓症(PTE)です。 報告により頻度は異なりますが、表在性血栓性静脈炎の約25%に併存するDVTが指摘されており、適切な評価が行われないと見逃されるリスクがあります。 したがって、初診時に超音波でDVTを除外することは必須であり、治療中も臨床症状の悪化(疼痛・発赤・熱感の増強、四肢全体の腫脹、呼吸困難、胸痛など)が認められた場合には、直ちに再評価を行う必要があります。
また、静脈瘤に伴う血栓性静脈炎では、再発リスクが高く、根治的には静脈瘤に対する治療(血管内焼灼術、硬化療法、静脈切除術など)を考慮します。 日本静脈学会の「静脈疾患における圧迫療法ガイドライン2025」では、静脈疾患に対する弾性ストッキングや圧迫療法の適応と方法が示されており、血栓性静脈炎の急性期後も、静脈うっ滞の改善と再発予防の目的で圧迫療法の継続が推奨されます。
化膿性血栓性静脈炎では、抗菌薬の投与、膿瘍形成時の切開排膿、必要に応じた静脈切除などの外科的処置が必要となり、早期の専門医へのコンサルトが推奨されます。 血栓性静脈炎は、一見軽症に見えても重篤な合併症をきたす可能性があるため、医療従事者は視診所見だけでなく、超音波検査による客観的評価とリスク層別化に基づいた適切な治療選択が求められます。

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