下腿潰瘍は、一般に膝から足関節付近までの下腿に生じ、皮膚から皮下組織に及ぶ組織欠損が持続する状態を指します。単なる擦過傷や一時的なびらんとは異なり、皮膚の修復能力を上回る局所循環障害、炎症、感染、代謝異常、機械的刺激などが関与して治癒遷延を来します。そのため、潰瘍面の大きさ、壊死、浸出液、肉芽、感染徴候だけを観察して局所処置を行っても、原因病態が残存していれば再発や拡大を繰り返すことがあります。
外傷や熱傷を除く下腿潰瘍では、下肢静脈瘤や深部静脈血栓後症候群などに伴う慢性静脈不全、すなわち静脈性の血流障害が代表的な原因です。一方で、閉塞性動脈硬化症などによる動脈性虚血、糖尿病関連足病変、血管炎、膠原病、リンパ浮腫、感染症、薬剤、悪性腫瘍なども鑑別に含める必要があります。静脈性病変が多いとしても、「下腿潰瘍=静脈性」と短絡しないことが、初期評価における重要な原則です。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/%E4%B8%8B%E8%85%BF%E6%BD%B0%E7%98%8D%E3%83%BB%E4%B8%8B%E8%82%A2%E9%9D%99%E8%84%88%E7%98%A4%E8%A8%BA%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3.pdf
医療従事者が把握すべき点は、潰瘍が診断名ではなく、複数の疾患が到達し得る臨床所見であることです。したがって診療では、創部評価と並行して、脈拍、下肢浮腫、皮膚色、温度、疼痛、神経障害、静脈瘤、生活歴、既往歴、服薬歴、栄養状態を統合して原因を推定します。複数の要因が併存する混合性潰瘍も少なくなく、特に高齢者では静脈不全、末梢動脈疾患、糖尿病、低栄養、心不全、活動性低下が重なり得ます。
静脈性下腿潰瘍は、下肢静脈の逆流や閉塞によって静脈高血圧が持続し、微小循環障害と皮膚・皮下組織の慢性炎症が進行して発症します。下肢静脈では、筋ポンプ作用と静脈弁が協調して血液を心臓方向へ還流させています。しかし、下肢静脈瘤、深部静脈血栓症後の弁不全、深部静脈閉塞、穿通枝不全などがあると、立位時に静脈圧が低下しにくくなり、毛細血管レベルでの浮腫、赤血球漏出、炎症細胞浸潤、組織低酸素が続きます。
臨床的には、内果周囲から下腿遠位内側に生じやすく、比較的浅く、浸出液を伴いやすい潰瘍として観察されます。周囲皮膚には、下腿浮腫、褐色調の色素沈着、湿疹、脂肪皮膚硬化、白色萎縮、静脈瘤、うっ滞性皮膚炎がみられることがあります。潰瘍そのものの疼痛は個人差がありますが、浮腫や炎症、感染、接触皮膚炎が加わると強くなることがあります。下腿潰瘍のうち静脈性潰瘍が多いとされ、慢性静脈不全を示す皮膚所見を見逃さないことが重要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 主な病態 | 静脈弁不全、静脈逆流、深部静脈閉塞、静脈高血圧 | 下肢静脈瘤や深部静脈血栓症後症候群を確認する |
| 好発部位 | 内果周囲、下腿遠位内側 | 部位だけで診断せず、血流評価と併せて判断する |
| 周囲皮膚所見 | 浮腫、色素沈着、湿疹、静脈瘤、脂肪皮膚硬化 | 長期の静脈うっ滞を示す手掛かりとなる |
| 検査 | 下肢静脈エコー、ドプラ法による逆流・閉塞評価 | 深部静脈血栓症の既往や現在の血栓も確認する |
| 基本方針 | 創傷管理に加え、静脈還流不全の是正を図る | 圧迫療法の適否は動脈血流評価後に決定する |
動脈性下腿潰瘍は、末梢動脈疾患や急性・慢性の動脈閉塞によって皮膚・皮下組織への酸素供給が不足して生じます。閉塞性動脈硬化症、糖尿病、喫煙、慢性腎臓病、透析、脂質異常症、高血圧、心房細動に関連した塞栓症などは重要な背景因子です。静脈性潰瘍と比較して、足趾、足背、踵、外果周囲、下腿前面など、圧迫や軽微な外傷を受けやすい部位にみられやすく、深く打ち抜かれたような形状、乾燥した壊死、冷感、蒼白、挙上時の皮膚色不良、安静時痛を伴うことがあります。
ただし、潰瘍の形態のみで動脈性か静脈性かを確定することはできません。高齢者や糖尿病患者では、動脈硬化による虚血と静脈うっ滞が併存する混合性潰瘍が問題となります。この場合、静脈性潰瘍に有効な圧迫療法が、強い虚血がある患者では疼痛増悪や組織障害につながるおそれがあります。圧迫を開始・強化する前には、少なくとも足背動脈・後脛骨動脈の触知、皮膚温、毛細血管再充満、ドプラ血流、ABI、必要に応じて足趾上腕血圧比や皮膚灌流圧などを評価し、血行再建の必要性を検討します。
動脈性病変が疑われる症例では、局所の湿潤管理だけで経過を見るのではなく、血管外科、循環器内科、形成外科、糖尿病内科などと連携し、血流再建の適応を評価します。原因治療なしにデブリードマンや強い圧迫だけを先行させると、創傷の拡大や壊死進行を招く可能性があります。難治性潰瘍の原因は大別すると動脈性・静脈性の血流不全として捉えられますが、実際には両者の併存を想定した評価が必要です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=12496
下腿潰瘍の背景には、血管の流れそのものの障害以外にも、創傷治癒を妨げる全身性・局所性の要因が存在します。糖尿病では、高血糖による免疫機能低下、微小血管障害、末梢動脈疾患、末梢神経障害が重なり、わずかな外傷や靴ずれから創傷が悪化しやすくなります。糖尿病関連の潰瘍は足底や足趾に多いものの、下腿に及ぶ創傷、感染、虚血性変化を伴うこともあり、血糖管理、神経学的評価、足病変リスクの把握が不可欠です。
膠原病・自己免疫疾患に伴う血管炎、抗リン脂質抗体症候群、クリオグロブリン血症、血液疾患、石灰化防御症、壊疽性膿皮症なども、難治性潰瘍の原因になります。特に血管炎では紫斑、網状皮斑、結節、強い疼痛、壊死などを伴う場合があり、壊疽性膿皮症では外傷やデブリードマン後に病変が悪化するパテルギー現象が問題となることがあります。非典型的な潰瘍に対し、感染と決めつけて侵襲的処置を反復することは避け、皮膚科など専門科と連携して病態を見極める必要があります。
感染は潰瘍形成の直接原因となる場合もあれば、既存の潰瘍に二次感染として加わり治癒を妨げる場合もあります。発赤、熱感、腫脹、疼痛、膿性滲出液、悪臭、急速な創拡大、発熱、炎症反応上昇を評価し、蜂窩織炎、深部組織感染、骨髄炎、壊死性軟部組織感染症の可能性を見極めます。一方、創面からの細菌検出だけで感染を診断せず、局所および全身の臨床徴候に基づいて抗菌薬の必要性を判断することが重要です。
さらに、長期に治癒しない潰瘍、盛り上がった不整な辺縁、易出血性の肉芽、急な形状変化、局所療法への反応不良がある場合には、有棘細胞癌などの悪性腫瘍を除外する必要があります。長期間続く慢性潰瘍に悪性変化が生じることもあるため、「いつものうっ滞性潰瘍」として漫然と処置を継続せず、潰瘍辺縁を含めた生検の適応を検討します。下腿潰瘍はリンパ浮腫、膠原病、血管炎、外傷、細菌感染、悪性腫瘍などでも生じ得るとされており、非典型例では原因検索を広げる姿勢が求められます。
参考)難治性皮膚潰瘍(足壊疽・下腿潰瘍)の原因と治療|日本医科大学…
下腿潰瘍の診療では、初診時から「潰瘍の評価」と「原因疾患の評価」を並行して実施します。問診では、発症契機、治療経過、再発歴、疼痛の性質、歩行時痛・安静時痛、立位での増悪、浮腫の変動、静脈瘤や深部静脈血栓症の既往、外傷、手術歴、糖尿病、腎機能障害、透析、心不全、自己免疫疾患、喫煙、栄養状態、服薬内容を確認します。抗凝固薬、抗血小板薬、ステロイド、免疫抑制薬、血管収縮に関わる薬剤などは、出血、感染、治癒遷延、血栓リスクの評価にも関係します。
視診・触診では、潰瘍の部位、長径・短径・深さ、ポケット、トンネル、壊死組織、肉芽、上皮化、浸出液の量と性状、臭気、周囲皮膚の発赤・浸軟・湿疹・色素沈着・硬化・浮腫を記録します。写真を用いた経時的評価は、治療反応の判定と多職種間共有に有用です。加えて、足背動脈・後脛骨動脈の触知、皮膚温、感覚障害、足趾変形、胼胝、靴による圧迫部位を確認し、静脈性・動脈性・神経障害性・圧迫性の要素を整理します。
検査は病態に応じて選択します。静脈性病変が疑われる場合は下肢静脈エコーで逆流や閉塞を評価し、動脈性病変が疑われる場合はABI、足趾圧、ドプラ波形、下肢動脈エコー、必要に応じてCT血管撮影などを検討します。血液検査では、血算、CRP、腎機能、肝機能、血糖、HbA1c、アルブミン、脂質、凝固系などを背景に応じて確認します。炎症性疾患、血管炎、血液疾患、腫瘍、非定型感染症が疑われる場合には、病変部生検、培養、病理検査、免疫学的検査を組み合わせます。
治療は、洗浄、デブリードマン、外用薬、被覆材、感染制御、疼痛管理などの局所管理だけで完結しません。静脈性であれば静脈還流不全への介入と適切な圧迫、動脈性であれば血流評価と血行再建の検討、糖尿病関連では血糖管理と免荷、栄養不良では栄養介入、血管炎などでは原疾患治療が必要です。患者が自宅で継続できる下肢挙上、保湿、スキンケア、圧迫療法の着脱、感染徴候の観察、禁煙、受診継続も再発予防に直結します。原疾患と潰瘍の双方を治療するという視点を共有し、皮膚科、形成外科、血管外科、循環器内科、糖尿病内科、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士などが連携することが、治癒率と再発予防の向上につながります。

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