会陰裂傷とは、経腟分娩時に児頭や児体が産道を通過する過程で、腟口から肛門にかけての会陰組織、腟壁、肛門周囲組織に生じる裂傷である。裂傷の「レベル」は、見た目の創長ではなく、どの解剖学的組織まで損傷が及んでいるかを示す重症度分類である。分娩直後には出血量だけで重症度を判断せず、十分な照明と鎮痛を確保したうえで、腟壁、会陰体、肛門括約筋複合体、直腸粘膜を系統的に観察する必要がある。
一般に会陰裂傷は第1度から第4度に分類される。第1度は会陰皮膚および腟粘膜などの表層に限局した裂傷であり、第2度では会陰筋群まで損傷が及ぶ。ただし第2度の時点では肛門括約筋は保たれている。第3度は肛門括約筋複合体を含む損傷であり、第4度はさらに肛門・直腸粘膜まで連続して損傷する最重症型である。第3・4度裂傷は産科的肛門括約筋損傷、すなわちOASIS(obstetric anal sphincter injuries)として区別され、便失禁、便意切迫、排便痛、性交痛、慢性会陰痛などのリスクを念頭に置く。
レベル評価では、「会陰が裂けているか」だけで終わらせないことが重要である。肛門括約筋損傷は視診のみでは過小評価されることがあり、裂傷が小さく見えても深部損傷が存在し得る。とくに第3・4度裂傷を疑う所見がある場合、または裂傷の深達度が明確でない場合は、適切な同意とプライバシーへの配慮のもと、直腸指診を含めた確認を行い、必要に応じて経験豊富な産科医へ速やかに相談する。
RCOG:第3・第4度会陰裂傷管理ガイドライン
会陰裂傷レベルの記録は、診療録、分娩記録、看護記録、退院サマリー間で齟齬がないよう、単に「会陰裂傷あり」とせず、度数と損傷組織を併記する。とくに第3度は3a、3b、3cに細分類され、外肛門括約筋(EAS)の断裂範囲と内肛門括約筋(IAS)損傷の有無を明確にする。IASは平滑筋からなるため識別が難しい場合もあるが、同定できる場合には損傷の有無を記録することが重要となる。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 第1度裂傷 | 会陰皮膚および腟粘膜などの表層組織に限局し、会陰筋の損傷を伴わない。 | 止血不良や創縁離開がなければ、縫合を要しない場合がある。 |
| 第2度裂傷 | 会陰筋群・会陰体まで損傷するが、肛門括約筋複合体には達しない。 | 解剖学的な再建と止血を目的に、通常は層別の縫合修復を検討する。 |
| 第3a度裂傷 | 外肛門括約筋の断裂が厚みの50%未満である。 | 第3度以上はOASISであり、専門性を要する評価・修復・経過観察が必要である。 |
| 第3b度裂傷 | 外肛門括約筋の断裂が厚みの50%を超える。 | 完全断裂か部分断裂か、断端の同定状況も記録する。 |
| 第3c度裂傷 | 外肛門括約筋に加え、内肛門括約筋も損傷している。 | IAS損傷は肛門保持機能への影響を考慮し、明確な記録が重要となる。 |
| 第4度裂傷 | 外・内肛門括約筋複合体に加え、肛門・直腸粘膜まで損傷が及ぶ。 | 最重症型であり、直腸粘膜の確実な閉鎖と術後の感染・排便管理が不可欠である。 |
国際的な分類では、第3度裂傷は肛門括約筋複合体に及ぶ損傷、第4度裂傷は肛門括約筋複合体と肛門直腸粘膜に及ぶ損傷として定義される。第3a度はEAS断裂が50%未満、第3b度は50%超、第3c度はEASとIASの双方の断裂とされる。分類に迷う場合は、軽く見積もるよりも、より重症の可能性を前提に上級医・専門家の確認を求める姿勢が安全である。
分娩後の会陰評価は、児娩出後に止血を確認するだけの作業ではなく、将来の骨盤底機能を守るための重要な診断プロセスである。会陰部の視診では、腟粘膜、側壁、腟円蓋付近、会陰皮膚、会陰体、肛門縁の連続性を確認する。裂傷の頂点を同定し、創部の深さ、出血部位、血腫の有無、組織欠損、縫合前後の解剖学的整復状態を評価する。
第3・4度裂傷または直腸損傷を疑う場合は、直腸指診を行い、直腸粘膜の損傷、肛門括約筋の連続性、縫合糸の直腸内露出の有無を確認する。縫合後にも直腸指診を実施し、誤って直腸粘膜を貫通する縫合がないかを確認することが重要である。分娩直後は浮腫、出血、疼痛、組織の脆弱性により評価が難しくなるため、観察環境、鎮痛、照明、吸引、介助者を整えることが診断精度に直結する。
臨床では、第2度裂傷と第3度裂傷の鑑別がとくに重要となる。会陰体の深い損傷を第2度として処理した後に、実際には括約筋損傷が見逃されていた場合、産褥期あるいは長期経過で肛門機能障害が明らかになる可能性がある。出血が少ない、会陰皮膚の裂傷が小さい、患者が疼痛を強く訴えないといった所見は、深部損傷を否定する根拠にはならない。疑わしい場合は単独で判断せず、再評価とエスカレーションを行う。
第1度裂傷は、止血され、創縁の解剖学的ずれがなく、患者の症状も軽い場合には保存的に管理できることがある。一方、持続する出血、創縁離開、疼痛の原因となる組織の不整合がある場合には、吸収糸による縫合を検討する。第2度裂傷は会陰筋を含むため、組織層を意識して死腔やずれを残さないよう修復する。術後は疼痛、腫脹、血腫、排尿困難、感染兆候を観察し、清潔保持と排便時の負担軽減を支援する。
第3・4度裂傷では、経験を有する術者による適切な麻酔・照明・展開下での層別修復が原則となる。第4度では直腸粘膜、第3c度または第4度で識別可能なIAS、EAS、会陰筋・会陰体、腟粘膜、皮膚というように、損傷組織を解剖学的に再建する。EASの修復には端々吻合または重複法が検討されるが、選択は断裂の状態、術者の経験、施設プロトコルに依存する。いずれの場合も、修復前後の直腸評価と詳細な手術記録が不可欠である。
OASIS後の産褥期ケアでは、創部の治癒だけでなく、肛門括約筋保護を目的とした排便コントロールが重要である。便秘や強いいきみは修復部への負荷を増やすため、必要に応じて緩下剤を用い、十分な水分摂取、便性状の確認、排便時疼痛の評価を行う。鎮痛ではアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬が考慮される一方、オピオイドは便秘を助長し得るため、必要性を慎重に評価する。第3・4度裂傷では、感染リスクを踏まえて抗菌薬を使用する方針が採られることがあり、具体的な薬剤・投与期間は施設基準および個々の臨床状況に従う。
看護では、患者が「傷が裂けるのではないか」と排便を恐れることが少なくない。排便で縫合部が通常直ちに開くわけではないこと、便を硬くしないこと、いきみを抑えること、便失禁や便意切迫、強い疼痛、悪臭を伴う分泌物、発熱、創部離開感などは早めに申し出ることを、羞恥心に配慮しながら具体的に説明する。身体的ケアと同時に、分娩体験に伴う心理的負担への傾聴も重要である。
RCOG:第3・第4度会陰裂傷後の患者向け情報
会陰裂傷レベルの正確な記録は、急性期の安全確保だけでなく、産褥健診、骨盤底リハビリテーション、次回妊娠・分娩方針の検討に直結する。記録には、裂傷の部位と程度、第3度であれば3a・3b・3cの別、直腸粘膜損傷の有無、評価方法、修復に関与した術者、縫合の概要、推定出血量、抗菌薬・鎮痛薬・緩下剤の使用、患者への説明内容、フォロー予定を残す。単に「会陰裂傷縫合」と記載するだけでは、後続する医療者がリスクを把握できない。
退院前には、疼痛の程度、座位や歩行への影響、排尿、初回排便、便失禁やガス失禁、創部の発赤・腫脹・分泌物、発熱の有無を確認する。第3・4度裂傷を経験した患者には、産後早期だけでなく、症状の有無を含めた継続評価が必要である。症状が表面化しにくい背景には、羞恥心、育児優先による受診控え、「産後だから仕方ない」という自己判断がある。医療者側から便・ガスの保持、便意切迫、排便痛、性交痛、骨盤底の違和感を具体的に尋ねることが、支援につながる。
また、次回妊娠時には前回の会陰裂傷レベルと産後経過を必ず確認する。とくにOASIS既往例では、現在の肛門機能、前回修復後の症状、分娩時の背景因子、本人の希望を総合して分娩方法を検討する。経腟分娩が常に不可能になるわけではないが、個別評価なしに一律の説明を行うべきではない。産科医、助産師、看護師、必要に応じて大腸肛門外科、理学療法士・骨盤底リハビリテーション担当者が情報を共有し、長期的な生活の質を見据えた支援を行うことが求められる。
会陰裂傷レベルの理解は、分類を暗記することが目的ではない。損傷の深さを正確に見極め、見逃しを避け、適切な術者と環境で修復し、産褥期から退院後まで排便機能・創部治癒・心理面を継続して支えるための共通言語である。とくに「肛門括約筋に達しているか」「直腸粘膜まで損傷しているか」という二つの問いを明確にし、疑わしい場合に速やかに相談できる体制を整えることが、OASIS関連合併症の低減に結び付く。