上腕骨(humerus)は上肢で最も長い長管骨であり、肩関節から肘関節までを連結する上肢運動の中核をなす骨です。 近位部では肩甲骨の関節窩と肩甲上腕関節(glenohumeral joint)を形成し、遠位部では橈骨・尺骨とともに肘関節を構成します。
参考)https://acibademinternational.com/health-library/humerus-bone-what-patients-need-to-know/
上腕骨は大きく近位部(proximal end)・骨幹部(shaft)・遠位部(distal end)の3領域に区分され、それぞれ異なる解剖学的特徴と臨床的意義を有しています。 近位部は肩関節の可動性と安定性に、骨幹部は筋付着と神経血管の保護に、遠位部は肘関節の機能と神経圧迫症候群に関与します。
参考)Humerus: Symptoms, Causes & Tr…
上腕骨の理解は、腱板損傷・インピンジメント症候群・上腕骨骨折・変形性肩関節症・肘部管症候群・外側上顆炎(テニス肘)など、日常診療で頻繁に遭遇する疾患の病態解明に不可欠です。
参考)https://note.com/team_actx/n/n79b400b98f5b
近位部には上腕骨頭(humeral head)・解剖頸(anatomical neck)・外科頸(surgical neck)・大結節(greater tubercle)・小結節(lesser tubercle)・結節間溝(intertubercular sulcus)が存在します。
上腕骨頭は球状で、関節窩の約3〜4倍の関節面積を持ち、後捻角(retroversion)は平均約30°です。 この後捻により、上肢下垂位では上腕骨頭が後方を向き、肩関節の可動域確保に寄与しています。関節窩は上腕骨頭の約3分の1程度しか覆わないため、骨性安定性は低く、関節唇・関節包・腱板・肩甲骨周囲筋による動的安定が重要です。
大結節は外側の隆起で、棘上筋・棘下筋・小円筋が付着する腱板の外側3筋の付着部です。 小結節は前内側の隆起で、肩甲下筋が付着します。 結節間溝(上腕二頭筋溝)は大結節と小結節の間に位置し、上腕二頭筋長頭腱が走行します。
解剖頸は上腕骨頭の直下に位置するくびれで、骨端線の痕跡です。 外科頸は結節の下方、骨幹部との移行部に位置し、腋窩神経(axillary nerve)が走行するため、骨折時に神経損傷のリスクが高まります。 外科頸は上腕骨近位部骨折の好発部位であり、特に高齢者の転倒時に頻発します。
参考)https://umsystem.pressbooks.pub/arrtprep/chapter/humerus/
骨幹部(shaft)は上部では円筒形、下部では三角形の断面を呈し、前外側に軽度凸弯します。 外側面には三角筋粗面(deltoid tuberosity)があり、三角筋が付着します。
後面には橈骨神経溝(radial groove)が斜めに走行し、橈骨神経(radial nerve)と深上腕動脈(profunda brachii artery)が通ります。 この溝の存在により、骨幹部中軸部の骨折では橈骨神経損傷のリスクが高く、手首下垂(wrist drop)を呈することがあります。
骨幹部には上腕二頭筋・上腕筋・上腕三頭筋・円回内筋・上腕橈骨筋など、多数の筋が付着し、上肢運動の力学的基盤を形成します。 三角筋粗面の上方では三角筋、下方では大胸筋・広背筋・大円筋が付着します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 三角筋粗面 | 骨幹部外側面の隆起 | 三角筋付着部、骨折時の整復指標 |
| 橈骨神経溝 | 後面を斜走する溝 | 橈骨神経・深上腕動脈が走行、骨折時に損傷リスク |
| 骨幹部断面 | 上部:円筒形、下部:三角形 | 筋付着部の形態変化を反映 |
| 主要付着筋 | 三角筋・上腕二頭筋・上腕筋・上腕三頭筋 | 屈曲・伸展・回内・回外運動に関与 |
遠位部には上腕骨小頭(capitulum)・上腕骨滑車(trochlea)・内側上顆(medial epicondyle)・外側上顆(lateral epicondyle)・鉤突窩(coronoid fossa)・橈骨窩(radial fossa)・肘頭窩(olecranon fossa)が存在します。
参考)♯CCD003ー上腕骨ー|からだ編集室
上腕骨小頭は遠位外側の球状関節面で、橈骨頭と関節します。 上腕骨滑車は内側の滑車状関節面で、尺骨の滑車切痕と関節し、肘関節の屈曲・伸展を可能にします。
内側上顆は尺骨神経(ulnar nerve)が走行する肘部管の位置であり、圧迫により肘部管症候群(cubital tunnel syndrome)を発症します。 外側上顆は総伸筋腱起始部であり、ここでの腱付着部炎が外側上顆炎(テニス肘)の病態です。
鉤突窩・橈骨窩・肘頭窩は、それぞれ尺骨鉤突・橈骨頭・尺骨肘頭の受容窩であり、肘関節の可動域確保に寄与します。 肘頭窩は後面に位置し、肘伸展時に尺骨肘頭が収容されます。
遠位部の骨折(上顆上骨折)では、正中神経(median nerve)・上腕動脈の損傷リスクがあり、特に小児で頻発します。 内側上顆骨折では尺骨神経麻痺、外側上顆骨折では橈骨神経深枝損傷の可能性があります。
上腕骨近位部骨折は高齢者の転倒時に頻発し、特に外科頸骨折では腋窩神経損傷により三角筋麻痺・肩外転障害を呈します。 解剖頸骨折は比較的稀ですが、骨頭壊死のリスクがあります。
参考)The Humerus - Proximal - Shaft…
骨幹部骨折では橈骨神経損傷により手首下垂を呈し、遠位部上顆上骨折では正中神経・上腕動脈損傷のリスクがあります。 小児の上顆上骨折は緊急対応が必要で、コンパートメント症候群のリスクも考慮します。
腱板付着の理解は肩関節疾患の診断・治療に不可欠です。大結節には棘上筋・棘下筋・小円筋が、小結節には肩甲下筋が付着し、これらの筋の協調により肩関節の動的安定が保たれます。 腱板断裂の9割が棘上筋に起こる理由も、大結節付着部の血行不良と力学的負荷に関与します。
内側上顆炎(ゴルフ肘)は総屈筋腱起始部の炎症、外側上顆炎(テニス肘)は総伸筋腱起始部の炎症であり、それぞれ反復的な握力・伸筋負荷が関与します。 肘部管症候群は尺骨神経の圧迫により、小指・環指の感覚障害・筋力低下を呈します。
上腕骨の解剖理解は、画像診断(X線・CT・MRI)・手術的アプローチ・リハビリテーション計画の全てにおいて基盤となります。 特に肩関節置換術・上腕骨骨折観血的整復固定術・腱板修復術では、正確な解剖知識が手術成績に直結します。
参考)https://swordhealth.com/care-glossary/humerus

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