
ホルモテロールフマル酸塩水和物は、長時間作用型選択的β2アドレナリン受容体刺激薬(LABA)に分類される気管支拡張薬です。 吸入投与後の作用発現は5分以内に認められ、その速効性は短時間作用型β2刺激薬(SABA)であるサルブタモールと同等レベルです。 一方で、作用持続時間は少なくとも12時間と、LABAとしての特徴を併せ持っています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2012/P201200097/670227000_22400AMX00739_B100_1.pdf
この「速効性かつ長時間作用」という二重の特性は、他のLABA(サルメテロールなど)には見られないホルモテロール独自の薬物動態です。 作用機序としては、気道平滑筋細胞膜上のβ2受容体にほぼ完全なアゴニストとして結合し、細胞内環状アデノシン一リン酸(cAMP)濃度を上昇させます。 増加したcAMPは平滑筋弛緩カスケードを活性化し、結果として気管支拡張作用を発現します。
β2受容体に対する選択性が高く、心血管系のβ1受容体への親和性は相対的に低いため、治療用量範囲内では気管支拡張作用が心血管作用よりも優位に働きます。 ただし、過量投与時にはこの選択性が失われ、全身性のβ刺激作用が発現するリスクがあります。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190620001/670227000_30100AMX00002_F100_1.pdf
ホルモテロール吸入剤の適応は、気管支喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の2つに大別されますが、その治療位置づけには重要な違いがあります。
気管支喘息における位置づけ
喘息治療では、ホルモテロール単独での維持療法は推奨されていません。 吸入ステロイド(ICS)による適切な治療が十分ではない中等症〜重症の持続型喘息患者において、ICS維持治療への追加併用療法として使用されます。 2010年の販売開始以降、シムビコート(ブデソニド/ホルモテロール配合剤)が喘息治療の主力製剤となっています。
さらに、2026年現在ではSMART療法(Single Maintenance and Reliever Therapy)が確立されています。 これは、1本のICS/LABA配合剤(シムビコートなど)を維持療法と頓用(発作時)吸入の両方に使用する治療法です。 発作発現時に1吸入し、数分経過しても発作が持続する場合にはさらに追加で1吸入、1回の発作発現につき最大6吸入まで可能です。
参考)シムビコートの使い方・副作用・注意点|1本で予防と発作をコン…
COPDにおける位置づけ
COPD治療では、2012年8月に「慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)」として承認を取得しました。 日本呼吸器学会のCOPDガイドライン第3版(2009年)では、安定期COPDに対する第一選択薬としてLAMA(長時間作用型吸入抗コリン薬)が推奨されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs_reexam/2018/P20180416003/670227000_22100AMX02249_A100_1.pdf
ホルモテロールはCOPDに対して単剤療法、ICSとの併用療法、あるいはLAMAとの併用療法(例:グリコピロニウム臭化物・ホルモテロールフマル酸塩水和物配合剤「ビベスピⓇ」)として使用されます。 ただし、COPDの急性増悪の治療を目的として使用する薬剤ではないため、急性期治療には適応外です。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190620002/670227000_30100AMX00004_G100_1.pdf
意外な事実として、ホルモテロール単独製剤(オーキシスⓇ)はCOPDの適応として最初に発売されたLABAですが、喘息に対して単独で用いる機会はセレベントやオンブレスなどと同様、少ないのが実情です。
参考)https://www.keiseikai.net/medicalinformation/asthma/inhalations.php
ホルモテロール吸入剤の効果を最大限に引き出すためには、患者への適切な吸入指導が不可欠です。 医療従事者は、吸入器の操作法、吸入法等を十分に説明し、初めて投与する患者には吸入の訓練をさせることが推奨されています。
参考)医療用医薬品 : ブデホル (ブデホル吸入粉末剤30吸入「J…
DPI(乾燥粉末吸入器)の場合(オーキシスⓇタービュヘイラーⓇ、シムビコートⓇ)
1. 準備: 吸入器を垂直に保ち、下部のグリップを右へ回してから左へ戻し、「カチッ」と音がするまで回します。
参考)吸入薬ICS/LABAシムビコート®の使い方|咳・痰と食物ア…
2. 呼気: 吸入口をくわえる前に、無理のない程度に息を吐き切ります。
参考)ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート) …
3. 吸入: 吸入口をくわえ、息をゆっくり・深く吸い込みながら、ボタンをしっかり1回押します(pMDIの場合)。 DPIの場合は吸気力で薬が飛ぶため、強く深く吸い込むことが重要です。
4. 息止め: 吸入器を口から離し、5〜10秒程度息を止め、薬剤が肺の奥まで行き渡るようにします。
5. 呼気・清掃: ゆっくりと息を吐き出し、吸入口をきれいに拭いてキャップを戻します。
6. うがい: 吸入直後に水でよくうがいをして、口腔内に残った薬剤を洗い流します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058179.pdf
pMDI(加圧式定量噴霧吸入器)の場合(フルティフォームⓇエアゾール、ビベスピⓇエアゾール)
1. 振盪: キャップを外し、容器をよく振ります。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/medicine-clinical-questions/o5az_ffh4
2. 呼気: 無理のない程度に息を吐き出します。
3. 吸入: 吸入口をくわえ、息をゆっくり・深く吸い込みながら、ボタンをしっかり1回押します。 成人では約4〜5秒間吸い続けることが推奨されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200615001/230109000_22500AMX01797_B100_1.pdf
4. 息止め・うがい: 3秒以上息を止め、その後うがいを実施します。
本剤は口腔内への吸入投与のみに使用し、内服しないよう患者に周知してください。 また、2吸入する場合は、1吸入ごとに少し間を置くよう指導します。
ホルモテロール吸入剤の副作用発現率は、気管支喘息の維持療法で18.5%、喘息維持療法中の頓用吸入で3.9%、COPDの維持療法(国内+海外)で7.8%と報告されています。 主な副作用は、振戦、血中カリウム減少、肺炎、嗄声、筋痙攣、動悸、咽喉頭疼痛、口腔カンジダ症などです。
心血管系副作用
ホルモテロールによるβ2刺激作用により、動悸・頻脈・血圧上昇などの心血管系症状が出現することがあります。 過量投与時には、重篤な症状として不整脈、心室性不整脈、さらには心停止等が発現する可能性があります。
フルティフォームⓇのFAQでは、「本剤を過度に使用し続けた場合、不整脈や、場合によっては心停止を起こすおそれがありますので、用法及び用量を超えて投与しないでください」と明記されています。 不整脈(頻脈、動悸など)の症状があらわれたら、ただちに使用を中止し、受診するよう患者を指導してください。
代謝異常
β刺激剤の薬理学的作用により、過量投与時に血圧低下、代謝性アシドーシス、低カリウム血症、高血糖等が発現する可能性があります。 血中カリウム減少は、特に高用量を長期投与している患者や、低カリウム血症を来しやすい他の薬剤(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、テオフィリンなど)と併用している患者で注意が必要です。
口腔局所の副作用
ICS配合剤(シムビコートⓇ、フルティフォームⓇなど)を使用する場合は、口腔カンジダ症又は嗄声の予防のため、本剤吸入後にうがいを実施するよう患者を指導します。 うがいが困難な患者には、うがいではなく口腔内をすすぐよう指導します。
ホルモテロール吸入剤の禁忌と慎重投与事項は、患者の安全な治療のために不可欠な知識です。
絶対的禁忌
原則禁忌(特に必要とする場合には慎重に投与すること)
参考)http://image.packageinsert.jp/pdf.php?yjcode=2290802G3026
慎重投与が必要な患者群
薬物相互作用
シムビコートⓇとβ遮断薬の併用は原則として避けるべきです。 特に非選択性β遮断薬(プロプラノロールなど)との併用は喘息発作を誘発するリスクが高いため、禁忌とされています。 また、本剤を他の長時間作動型β2刺激剤又は長時間作動型β2刺激剤を含む配合剤と同時に使用しないよう注意してください。
意外な臨床的注意点として、患者に対し、本剤の過度の使用により不整脈、心停止等の重篤な副作用が発現する危険性があることを理解させ、用法・用量を超えて使用しないよう指導することが重要です。 患者用説明文書を交付し、使用方法を指導するとともに、残量カウンター(赤いマーカー)を毎回確認するよう指導します。