
緑色の排泄物(緑色便)が出る主要な機序は、胆汁色素の代謝過程が不完全な状態で腸管から排泄されることに起因します。赤血球の主要成分であるヘモグロビンのヘム部分は、マクロファージによって分解され、まず緑色色素であるビリベルジンに変換されます 。このビリベルジンは、ビリルビン還元酵素によってただちに黄色のビリルビンに還元され、肝臓でグルクロン酸抱合を受けた後、胆汁として十二指腸に排泄されます 。
参考)https://ulbld.lf1.cuni.cz/file/4769/bilirubin2021-theory.pdf
通常、抱合ビリルビンは腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによって脱抱合され、ウロビリノーゲンに還元されます。ウロビリノーゲンはさらに還元されてステルコビリノーゲンとなり、最終的に酸化されて褐色のステルコビリンになります。これが正常な便の茶色い色の正体です 。
しかし、腸管通過時間が短縮される下痢状態や、腸内細菌叢が抗菌薬によって変化した状態では、ビリルビンの還元反応が不十分となり、中間代謝産物であるビリベルジンが腸管内に蓄積します。ビリベルジンは緑色色素であるため、これが便に混入することで緑色便が出現します 。この機序は、抗菌薬投与後に乳児や成人で緑色便が観察される症例報告でin vitro試験および臨床観察により裏付けられています 。
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医療従事者が知っておくべき重要な点は、緑色便が必ずしも肝胆道系の器質的疾患を示すわけではないということです。胆汁色素の代謝経路を理解することで、患者さんの病態をより正確に評価できます。
下痢を伴う緑色便は、臨床現場で最も頻繁に遭遇するパターンの一つです。その機序は、腸管通過時間の短縮にあります。通常、胆汁色素が腸管内を通過する際、腸内細菌による還元反応を受けるのに十分な時間が必要です。しかし、下痢状態では腸の蠕動運動が亢進し、内容物が急速に通過するため、ビリルビンがステルコビリンに変化する前に排泄されてしまいます 。
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この結果、胆汁色素が緑色のビリベルジン、または黄色のビリルビンの段階で便中に排泄され、緑色または黄緑色の便が観察されます。感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルス、カンピロバクターなど)や、過敏性腸症候群(IBS)の下痢型、食物不耐症(乳糖不耐症など)が原因で下痢が生じた場合、緑色便を合併することがあります 。
臨床的なポイントとして、下痢に伴う緑色便は、通常1〜2週間で自然に改善します。しかし、以下の場合は注意が必要です。
これらの症状がある場合は、感染性腸炎、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、胆道閉塞などの器質的疾患を鑑別する必要があります 。
抗菌薬投与による緑色便は、医療従事者が特に注意すべき薬剤性副作用の一つです。抗菌薬は、病原菌だけでなく腸内常在細菌叢にも影響を及ぼし、そのバランスを変化させます。この結果、胆汁色素の代謝に関与する腸内細菌(特にビリルビンをウロビリノーゲンに還元する細菌)の数が減少し、ビリルビンの還元反応が阻害されます 。
その結果、腸管内にビリベルジンが蓄積し、緑色便が出現します。この現象は、セファロスポリン系抗菌薬(セフゾンなど)、ペニシリン系、マクロライド系など、広範な抗菌薬で報告されています 。特に乳児では、抗菌薬投与後に緑色便が観察されることが多く、臨床現場で頻繁に問題となります。
また、抗菌薬以外の薬剤でも緑色便が報告されています。
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薬剤性の緑色便は、原則として重篤な副作用ではありませんが、患者さんが不安を抱くことが多いため、服薬開始前に「便の色が変わることがあります」と事前に説明しておくことが推奨されます。また、抗菌薬投与中に緑色便が出現した場合、自己判断で服薬を中断せず、処方医または薬剤師に相談するよう指導してください 。
食事由来の緑色便は、最も一般的で良性の原因です。緑黄色野菜(ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、ケールなど)や海藻類(わかめ、昆布、青のりなど)を多量に摂取すると、食品中の葉緑素(クロロフィル)が消化されずに便に混入し、緑色便が出現します 。
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葉緑素は、植物の光合成に関与する緑色色素で、ヒトの消化酵素では完全に分解されません。そのため、大量に摂取した場合、未消化の葉緑素がそのまま便中に排泄され、緑色を呈します。同様に、抹茶、青汁、緑茶、クロロフィル含有サプリメントも緑色便の原因となります 。
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また、食品添加物として使用される着色料も緑色便を引き起こすことがあります。
食事由来の緑色便の特徴は、以下の通りです。
患者さんから緑色便の相談があった場合、まず直近24〜48時間の食事内容を聴取し、緑色食品や着色料含有食品の摂取の有無を確認してください。食事由来の場合は、特別な治療は不要で、食事内容を通常に戻すことで自然に改善します 。
ここまでは、緑色便の一般的な原因(食事、下痢、薬剤)について解説しましたが、医療従事者として知っておくべき、あまり知られていない意外な疾患も存在します。緑色便が、重篤な疾患の初期症状である可能性を完全に否定することはできません。
溶血性貧血:赤血球が血管内または血管外で過剰に破壊される溶血性貧血では、ヘムの分解が亢進し、ビリルビンの産生が過剰になります。この結果、胆汁中のビリルビン濃度が上昇し、腸管内での胆汁色素の代謝バランスが崩れることで、緑色便が出現することがあります 。溶血性貧血では、緑色便の他に、黄疸、貧血症状(倦怠感、動悸、息切れ)、脾腫などを合併することが多いため、これらの所見を併せて評価してください。
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肝胆道疾患:胆道閉塞、胆管炎、原発性胆汁性胆管炎(PBC)などの肝胆道疾患では、胆汁の排泄が障害され、胆汁色素の代謝経路が変化します。通常、肝胆道疾患では胆汁うっ滞により便色が淡色(灰白色)になりますが、一部の症例では緑色便が報告されています。これは、胆汁中のビリルビン濃度の変化や、腸内細菌叢の二次的な変化によるものと考えられています 。
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炎症性腸疾患(IBD):クローン病や潰瘍性大腸炎では、腸管の炎症により腸管通過時間が短縮され、緑色便が出現することがあります。また、IBD患者では抗菌薬や免疫抑制剤を併用することが多く、これらの薬剤も緑色便の誘因となります 。
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鑑別すべき重篤な症状。
これらの症状がある場合は、血液検査(肝機能、ビリルビン、血算)、便検査(潜血、培養)、画像検査(腹部超音波、CT)などを実施し、器質的疾患を鑑別する必要があります 。
Physiology, Bilirubin - StatPearls - NCBI Bookshelf(ビリルビン代謝の詳細な機序)
DIクイズ5:セフゾン服用後に緑色便が出た乳児(抗菌薬と緑色便の機序)
ビリルビン - Wikipedia(胆汁色素の代謝経路)
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