
グリチルリチン(グリチルリチン酸)はマメ科カンゾウ属の根である甘草から抽出される主成分で、砂糖の約200~300倍の甘味度を持つトリテルペノイドサポニンです。
参考)カンゾウ(甘草)の根に含まれる成分「グリチルリチン酸」の特性…
甘草エキス自体には抗潰瘍、鎮痙、鎮痛、解毒、胃液分泌抑制、副腎皮質ホルモン様作用、エストロゲン様作用など多彩な薬理作用が報告されており、その中核を担うのがグリチルリチン酸とされています。
参考)https://www1.hus.ac.jp/~e-lab/kanzo.html
これらの作用から、グリチルリチン製剤は皮膚炎・湿疹、口内炎、慢性肝炎など多様な病態に使用され、特に肝庇護薬としての位置づけが古くから確立しています。
参考)https://www.inm.u-toyama.ac.jp/collabo/doc/2010fy_report_01.pdf
漢方領域では甘草は多数の処方に配合されており、味を整える矯味作用や他の生薬の毒性緩和だけでなく、鎮咳・去痰、抗潰瘍作用などを目的とした配合が行われていると報告されています。
一方で、甘草配合の意義の全てが現代科学的に解明されているわけではなく、例えば胆汁酸誘発肝障害モデルで甘草エキスよりグリチルリチン単独の方が強い肝障害抑制を示すなど、まだ検討課題も残されています。
胆汁酸誘発肝障害モデルで、グリチルリチン経口投与群において用量依存的な肝重量増加抑制と血清トランスアミナーゼ上昇抑制が報告されており、臨床での肝障害抑制効果の機序を裏付けるデータとされています。
皮膚科領域では、グリチルリチン酸もしくはグリチルリチン酸ジカリウムを配合した外用剤が、湿疹・皮膚炎・かゆみの抑制目的で広く使用されています。
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/dipotassium_glycyrrhizinate.html
グリチルリチン酸ジカリウムは水溶性が高められており、局所での抗炎症・抗アレルギー作用を活かしつつ全身性の副作用リスクを相対的に低減する目的で化粧品やスキンケア製品にも応用されています。
アレルギー・耳鼻科領域では、点鼻薬や点眼薬、口腔粘膜炎症に対するトローチなどにグリチルリチン酸が配合され、局所の炎症やかゆみを抑える薬剤として利用されています。
甘草自体も鎮咳・去痰作用から咳止めシロップやトローチなどに配合され、咽頭痛や慢性咳の緩和に寄与すると報告されています。
肝疾患以外にも、グリチルリチンはウイルス増殖抑制作用が示唆されており、C型肝炎合併症などへの補助的役割が議論されていますが、その有効性を確定するにはさらなるエビデンスが必要とされています。
一方、甘草を含むハーブ製剤やサプリメントについては、消化不良・過敏性腸症候群の症状緩和などに有用である可能性が示されつつも、製品ごとのグリチルリチン含量差や品質ばらつきに注意が必要です。
参考)甘草 - 24. その他のトピック - MSDマニュアル プ…
MSDマニュアルでは、甘草の高用量摂取が腎臓での塩分・水分貯留を促し、高血圧や低カリウム血症を引き起こす可能性があると記載されており、心疾患やジゴキシン、特定の利尿薬を使用中の患者では特に注意が必要とされています。
日本の医薬品行政でも、グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取り扱いについて通知が出されており、高用量・長期使用による偽性アルドステロン症リスクに対して用法・用量、投与期間の制限や、患者への注意喚起が求められています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6972&dataType=1&pageNo=1dataType=1href="https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6972&dataType=1&pageNo=1">https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6972&dataType=1&pageNo=1pageNo=1" target="_blank" rel="noopener">・グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて(◆昭和…
甘草を含む食品やサプリメントについても、通常量では副作用は少ないものの、長期間の過剰摂取により同様の偽性アルドステロン症を生じうることが報告されています。
特にリコリス菓子や甘草茶を習慣的に大量摂取した症例では、血圧上昇や低カリウム血症から心電図異常、筋力低下が問題となるケースがあり、詳細な食習慣聴取の重要性が強調されています。
妊婦においては、甘草摂取が早産のリスクを高める可能性が指摘されており、MSDマニュアルでは妊婦は甘草を摂取すべきではないと明記されています。
さらに、ワルファリン服用者や特定の利尿薬との併用でも問題が生じうるため、OTCやサプリでの自己判断使用を含め、患者指導時には甘草・グリチルリチン含有製品の有無を確認し、相互作用やリスクを説明することが望まれます。
漢方処方中で甘草は約7割の方剤に配合されているとされ、その配合意義の一部として矯味(味を整える)、症状緩和、鎮痛、鎮咳、去痰、抗潰瘍など多岐にわたる薬理作用が挙げられています。
一方で、甘草配合の全ての理由が現代科学的に説明されているわけではなく、例えば胆汁酸誘発肝障害モデルでは甘草エキスよりもグリチルリチン単独がより強い肝障害抑制作用を示すなど、成分間の役割分担に関する解析が続けられています。
興味深い点として、グリチルリチンは他の生薬成分と相互作用し、例えばオウゴンのバイカリンなどとともに肝障害抑制に寄与している可能性が示唆されており、漢方方剤全体としてのシナジーの一部を担っていると考えられています。
また、甘草は副腎皮質ホルモン様作用を持つことから、ストレス反応や炎症コントロールに影響しうる一方、長期連用での偽性アルドステロン症リスクも内包しており、漢方処方においても投与期間や患者背景を踏まえた管理が求められます。
甘草は「緩和」や「矯味」の目的で少量配合されることも多く、その場合には副作用リスクは相対的に低いものの、他の甘草含有製品との重複により総グリチルリチン量が増加する可能性があります。
臨床では、複数の漢方薬やOTC、サプリメントを併用している患者で「なぜか血圧が上がる」「低カリウム血症が続く」といったケースに遭遇した場合、甘草・グリチルリチンの総摂取量を意識して確認することが実務的なポイントになります。
さらに、漢方処方の中には「甘草を抜いた変方」が検討されるケースもあり、肝障害モデルで示されたように、甘草エキスとグリチルリチンの効果差を踏まえつつ、患者ごとに甘草量を調整することが今後の個別化医療の一つの方向性として議論されています。
このように、グリチルリチンと甘草は単なる「味つけ」成分ではなく、方剤全体の薬理プロファイルと安全性プロファイルに影響する「調整役」として再評価されつつあります。
甘草は食品分野では醤油や漬物、スナック菓子などの塩味食品に甘味料として広く用いられており、グリチルリチン酸の強い甘味と塩味緩和効果を活かした利用がされています。
植物由来甘味料としてのグリチルリチン酸は、砂糖の数百倍の甘味度を持ちつつカロリー寄与は相対的に低いため、風味調整や減塩製品での味補強などにも応用されていると報告されています。
一方、安全性への配慮から、天然甘草からグリチルリチンを減量した「脱グリチルリチン甘草」製品も存在し、グリチルリチンに高感受性のある人向けに通常用量の約10分の1のグリチルリチン量に抑えた製品が使用されることがあります。
これらの製品は、甘草由来の風味や一部の薬理作用を維持しつつ、偽性アルドステロン症リスクを低減することを狙ったものであり、特に長期摂取が想定されるサプリメントや健康食品での活用が検討されています。
サプリメント領域では、甘草抽出物やグリチルリチンを含む製品が消化不良、胃の不調、軽度の炎症などをターゲットに販売されており、消費者が医療用と同等のリスク認識を持たないまま摂取しているケースが懸念されています。
医療従事者としては、サプリメントや健康茶、リコリス菓子などを含めた総グリチルリチン摂取量を把握し、特に高血圧や心疾患、腎疾患を持つ患者では過量摂取回避の指導を行うことが重要です。
化粧品では、グリチルリチン酸ジカリウムが抗炎症成分として多くのスキンケア製品に配合されており、ニキビや敏感肌向け製品で「肌荒れ防止成分」として訴求されることが少なくありません。
局所外用での安全性は高いとされていますが、広範囲・長期間使用や、他のステロイド外用薬との併用などでは、皮膚バリアや局所ステロイド負荷との関係も含め、個々の症例で評価していく必要があります。
日常診療でグリチルリチンや甘草を扱う際のチェックポイントとして、まず「どのくらいの総量を、どのくらいの期間使っているか」を把握することが重要です。
複数の漢方薬、肝庇護薬、OTC、サプリ、食品を跨いで甘草・グリチルリチンが重なっているケースでは、添付文書上では推奨用量内でも、実質的には高用量・長期投与に近い状況になっていることがあります。
特に高齢者、腎機能障害、利尿薬・ジゴキシン・ワルファリン使用者ではリスクが高く、電解質や腎機能の定期的なモニタリングとともに、必要に応じて用量調整や中止を検討します。
医療従事者としては、「危険な成分」か「万能の生薬」かという二元論ではなく、用量・期間・患者背景に応じたベネフィットとリスクのバランスを評価し、患者への説明と共有を行う視点が求められます。
今後の研究テーマとしては、グリチルリチンと甘草成分が他の漢方生薬や現代薬とどのような相互作用・シナジーを持つのか、また個々の患者の遺伝的背景や微生物叢がグリチルリチン代謝や副作用リスクにどう影響するかなど、個別化医療・プレシジョンメディシンの観点からの解析が挙げられます。
臨床現場では、症例ごとの経験を蓄積しつつ、エビデンスとガイドラインを踏まえた「甘草・グリチルリチンの上手な付き合い方」をチームで共有しておくことが、患者安全と治療効果の両立に直結するテーマと言えるでしょう。
甘草配合漢方方剤における甘草抜きの変方検討や、脱グリチルリチン甘草製品の位置づけなど、まだガイドライン化されていない領域では、個々の医療機関・チームでの方針策定と情報共有が重要な実務課題となります。
漢方処方中の甘草配合意義や、胆汁酸誘発肝障害モデルでのグリチルリチンの作用を解説した研究報告書の内容を詳しく確認したい場合に有用です(漢方処方中の甘草の役割・基礎研究の参考)。
漢方処方における「甘草」配合の意義に関する基礎的研究(富山大学和漢医薬学総合研究所)
グリチルリチン酸製剤の作用機序・適応・副作用など、医療従事者向けに整理された情報を確認したいときに参照できます(グリチルリチン製剤の臨床利用全般の参考)。
甘草およびグリチルリチンの一般的な効能と副作用、安全性、妊婦や特定薬剤服用者への注意点を俯瞰したい場合に便利です(安全性・リスク管理の参考)。