
医療用としてはグリチルリチン酸そのもの、あるいは水溶性を高めたグリチルリチン酸二カリウム(グリチルリチン酸ジカリウム)として製剤化され、内服薬・注射薬・外用薬からスキンケア製品まで幅広く利用されています。
薬理作用としては、炎症性サイトカインやヒスタミンなどのメディエーター産生を抑制する抗炎症・抗アレルギー作用、マクロファージ機能やIL-12産生を調節する免疫増強作用、肝細胞障害抑制と肝細胞増殖促進による肝庇護作用、さらには一部のウイルス増殖抑制作用など、多面的なプロファイルが報告されています。
参考)甘草(かんぞう)/リコリス
甘草自体には、グリチルリチン酸だけでなくフラボノイド(イソリクイリチゲニンなど)も含まれ、これらが抗酸化作用・抗炎症作用・ホルモン様作用を補完することで、漢方処方における「調和薬」としての役割を担っている点も臨床上重要です。
総合感冒薬、鼻炎用内服薬、点眼薬、トローチなどにも配合されており、「刺激性が比較的少ない抗炎症成分」として、かぜに伴う咽頭痛や鼻粘膜炎症、結膜炎症状の軽減に日常的に処方・推奨されているのが特徴です。
参考)カンゾウ(甘草)の根に含まれる成分「グリチルリチン酸」の特性…
基礎研究レベルでは、グリチルリチン酸が肝細胞の障害を抑制し、肝細胞の増殖を促すほか、C型肝炎ウイルスなどに対する増殖抑制作用も報告されており、肝炎関連の炎症制御と肝線維化進展抑制の観点からも注目されています。
参考)甘草 - 24. その他のトピック - MSDマニュアル プ…
皮膚科領域では、グリチルリチン酸ジカリウムがスキンケア用品や外用薬に広く配合され、接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎に伴う紅斑・腫脹・掻痒感の緩和を目的に使用されています。
この際、コルチコステロイド外用薬との併用でステロイド総量を減らしつつ炎症制御を図る「ステロイドスパリング」を意識して使われるケースもあり、非ステロイド抗炎症成分としての位置付けが強まっています。
甘草やグリチルリチン酸の過量摂取で最も問題となるのが、腎臓でのナトリウム・水分貯留とカリウム喪失に起因する偽アルドステロン症です。
参考)https://kirishima-mc.jp/data/wp-content/uploads/2023/04/45615cacabdeea96e807acb535dc094b.pdf
グリチルリチンは11β-HSD2阻害などを通じてコルチゾールの鉱質コルチコイド受容体への作用を増強し、本来のアルドステロンとは別経路でナトリウム再吸収を促進するため、高血圧、浮腫、低カリウム血症、場合によっては不整脈などを引き起こします。
霧島市立医師会医療センターやツムラの資料でも、甘草を含む漢方薬や健康食品を長期・大量に摂取した際に偽アルドステロン症が生じるリスクが強調されており、特に高齢者や利尿薬・ジギタリス製剤・降圧薬などを併用している患者では注意が必要とされています。
参考)https://medical.tsumura.co.jp/sites/default/files/media_document/herbal_medicine_side_effects2_02.pdf
MSDマニュアルでは、高用量の天然甘草(1日約30 g超に相当)やグリチルリチンの摂取でこれらの副作用が起こり得るとされ、心疾患患者、妊婦、ワルファリン服用者、特定の利尿薬服用者には甘草の使用を避けるべきと明示しています。
実臨床での安全管理としては、甘草含有漢方薬を複数処方する「重複甘草」による総グリチルリチン量の増加が見落とされやすく、処方設計時に甘草含量を意識したレジメン組み立てが重要です。
長期服用患者では、血圧・体重・浮腫の有無に加え、定期的な血清カリウム測定を行うことで、無症候性の低カリウム血症を早期に拾い上げることが推奨されます。
甘草由来のグリチルリチン酸は、「砂糖の数百倍の甘味度」を生かして、醤油や漬物、スナック菓子といった塩性食品の「塩なれ」を良くする目的で食品添加物としても広く使われています。
参考)甘草(カンゾウ)とは、効能と副作用
一見、医薬とは離れた領域ですが、食品として経口摂取されるグリチルリチン量も積み重なれば偽アルドステロン症のリスクにつながりうるため、医療者が嗜好食品の摂取状況まで聴取しておくことは、意外に重要な安全対策になります。
スキンケア領域では、グリチルリチン酸ジカリウムが、炎症を抑えるだけでなく、敏感肌向け化粧水・乳液・シートマスクにおいて「低刺激だが抗炎症性を期待できる成分」として定番化しています。
患者が「薬ではなく化粧品だから安全」と考えて甘草由来成分を長期・多量に使用しているケースもあり、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎患者に対しては、化粧品・スキンケア製品に含まれるグリチルリチン酸ジカリウムも含めた総暴露量を意識したカウンセリングが望まれます。
また、甘草にはエストロゲン様活性を示す成分が含まれ、ホルモンバランス調整や更年期症状の改善をうたうサプリメントにも配合されることがありますが、ホルモン関連疾患(乳がん、子宮内膜症など)の既往や家族歴を持つ患者では、医療者側から積極的にサプリの内容を確認し、必要に応じて使用中止を検討すべきケースも想定されます。
このように、グリチルリチンと甘草は医薬品だけでなく食品・化粧品・サプリメントを通じて「見えない暴露源」となりうる点が、一般向け情報ではあまり強調されていないものの、医療従事者にとっては重要な視点と言えます。
漢方医学において甘草は、多くの処方に配合される「調和薬」として知られ、グリチルリチン酸による抗炎症作用・胃腸機能調整作用に加え、他の生薬の作用や毒性を緩和する役割を担っています。
そのため、感冒、咳嗽、胃腸障害、皮膚疾患など、症候ベースで処方される漢方薬の多くに甘草が含まれており、複数の漢方を併用した際に予想以上のグリチルリチン摂取量となる「甘草多剤併用」が現場でしばしば問題になります。
実務的には、以下のようなチェックポイントが有用です。
興味深い点として、甘草の抗炎症・免疫調節作用を活かしながら偽アルドステロン症リスクを下げるため、グリチルリチンを含まない甘草抽出物や、グリチルリチン除去甘草の研究も進んでおり、将来的には「高リスク患者でも使いやすい甘草製剤」が登場する可能性があります。
こうした新しい製剤設計の動向をフォローしつつ、現時点では従来製剤のリスクとベネフィットを丁寧に患者と共有し、医薬品、食品、サプリメントをまたいだ総合的なグリチルリチン暴露管理を行うことが、医療従事者に求められる実務的スキルと言えるでしょう。
甘草を含む漢方薬と偽アルドステロン症リスクの解説(用量・症例の詳細が参考になります)
甘草を含む漢方薬の副作用について(霧島市立医師会医療センター)
甘草とグリチルリチンの一般的な作用・安全性を俯瞰する参考(家庭向け解説ですが、全体像の整理に有用です)
甘草 - MSDマニュアル家庭版
グリチルリチン製剤の薬理と臨床応用を整理する際に便利な医療者向け解説
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