
ドロキシドパ(L-threo-3,4-dihydroxyphenylserine:L-DOPS)は、ノルアドレナリン作動性神経機能改善剤に分類される経口薬です。薬理学的な核心は、薬剤そのものが主に受容体へ直接作用するのではなく、体内で生理活性を有するL-ノルアドレナリンへ変換される前駆体である点にあります。電子添文では、生体内に広く存在する芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素により、ドロキシドパが直接L-ノルアドレナリンへ変換されて薬理作用を示すと説明されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051739.pdf
このため、ドロキシドパの薬効は「不足または機能低下したノルアドレナリン作動性神経伝達を補う」という視点で理解すると整理しやすくなります。ノルアドレナリンは交感神経系の代表的な神経伝達物質であり、末梢では血管平滑筋のα受容体を介する血管収縮や血圧維持に、中枢では覚醒、注意、運動・自律神経機能の調節などに関与します。したがって、ドロキシドパの臨床効果は、単純な「昇圧薬」という語だけでは十分に表現できません。
国内の効能又は効果は、パーキンソン病(Yahr重症度ステージIII)におけるすくみ足・たちくらみの改善、シャイドレーガー症候群および家族性アミロイドポリニューロパチーに伴う起立性低血圧・失神・たちくらみの改善、ならびに起立性低血圧を伴う血液透析患者のめまい、ふらつき、たちくらみ、倦怠感、脱力感の改善です。
なお、薬剤名に「ドパ」を含むことからレボドパと同一の作用を想起しやすいものの、ドロキシドパの主たる変換産物はドパミンではなくノルアドレナリンです。レボドパがドパミン補充を目的とする前駆体として位置付けられるのに対し、ドロキシドパはノルアドレナリン補充を通じて中枢・末梢のノルアドレナリン作動性機能低下に介入する薬剤と把握します。
ドロキシドパ電子添文(薬効薬理・用法用量)
経口投与されたドロキシドパは吸収された後、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(aromatic L-amino acid decarboxylase:AADC)による脱炭酸反応を受け、L-ノルアドレナリンに変換されます。この反応は中枢・末梢の両方で起こり得るため、変換されたノルアドレナリンが存在する部位、神経終末の状態、受容体の応答性、併用薬の影響などが臨床反応に関係します。
末梢で生成されたノルアドレナリンは、主として血管平滑筋のα1受容体を介して血管収縮を促し、静脈還流、末梢血管抵抗、起立時の血圧維持に寄与すると考えられます。自律神経障害では、立位時に下肢・内臓血管床へ血液が貯留した際の交感神経性代償が不足し、脳灌流低下に伴うめまい、眼前暗黒感、失神前症状、失神などが起こります。ドロキシドパは、このノルアドレナリン不足という病態生理に介入することで、起立時の症状および血圧反応の改善を目指す薬剤です。
一方で、薬物の投与量と臨床効果が単純な比例関係にあるとは限りません。ノルアドレナリンへの変換には酵素活性が、生成後の濃度には再取り込み・代謝が、血圧反応には血管反応性や循環血液量が関与します。特に高齢者、神経変性疾患患者、透析患者では、起立性低血圧の原因が単一でないことも多く、ドロキシドパの反応を評価するときは、脱水、食後低血圧、貧血、感染、心機能、降圧薬・利尿薬・α1遮断薬などの影響を並行して検討することが重要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 有効成分 | ドロキシドパ(L-DOPS) | ノルアドレナリンの前駆体として位置付ける |
| 主な変換酵素 | 芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素 | 脱炭酸によりL-ノルアドレナリンへ変換される |
| 末梢での主な臨床的帰結 | 交感神経性血圧維持機能の補助 | 起立時の血圧低下と関連症状の改善を評価する |
| 中枢での主な臨床的帰結 | ノルアドレナリン作動性神経機能への関与 | パーキンソン病におけるすくみ足・たちくらみの説明に関与する |
| 薬効評価の基本 | 症状、起立時血圧、臥位血圧、日常生活への影響 | 血圧値のみで有効性・安全性を判断しない |
薬物動態上、健康成人に100mgまたは300mgを単回経口投与したデータでは、未変化体の血漿中濃度は投与約2時間後に最高値へ達し、血漿中ノルアドレナリン濃度はこれより遅れて投与約4時間後に最高値へ達しています。未変化体の血中濃度ピークと、変換産物であるノルアドレナリンのピークに時間差があることは、投与タイミングと症状観察の時間軸を考えるうえでの一つの参考になります。
ドロキシドパは血液脳関門を通過して脳内へ移行することが認められています。脳内ノルアドレナリン枯渇動物では低下した脳内ノルアドレナリン量の回復、ならびにノルアドレナリン作動性神経の機能低下に伴う諸症状の回復が示されました。また、in vitro試験では神経終末部への取り込みが認められ、神経終末部からのノルアドレナリン遊離を促進する作用も報告されています。
この中枢移行性は、パーキンソン病における本剤の位置付けを理解するうえで重要です。パーキンソン病はドパミン神経系の障害だけでなく、ノルアドレナリン作動性神経系を含む多系統の神経変性を伴い得ます。すくみ足やたちくらみは、運動機能、自律神経機能、認知・注意機能、抗パーキンソン病薬の影響などが重なって出現するため、すべてをノルアドレナリン不足だけで説明することはできません。しかし、ノルアドレナリン作動性機能を補うという薬理は、適応症の一部を裏付ける合理性を持ちます。
日本神経学会のパーキンソン病治療ガイドラインでは、パーキンソン病の起立性低血圧に対して、ドロキシドパは短期的には症状改善と立位時収縮期血圧上昇が期待できるとされています。一方で、海外試験の用量と日本の承認用量は異なるため、海外のエビデンスを国内診療へ機械的に外挿しない注意も明記されています。
参考)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_15.pdf
シャイドレーガー症候群や家族性アミロイドポリニューロパチーなど、自律神経障害が前景に立つ病態では、末梢の昇圧作用がより直接的な臨床的意義を持ちます。前臨床では、交感神経終末を障害した動物で血圧上昇が認められ、ノルアドレナリン作動性神経終末を選択的に障害した動物や自律神経節遮断動物では、体位変換に伴う起立性低血圧が抑制されました。さらに、シャイドレーガー症候群患者での微小神経電図法による検討では、体位変換時の筋支配交感神経活動の発射頻度増加作用が認められています。
パーキンソン病では、電子添文上、Yahr重症度ステージIIIであり、他剤の治療効果が不十分で、すくみ足またはたちくらみが認められる患者に投与を考慮することとされています。通常は1日100mgを1日1回から開始し、隔日に100mgずつ増量して最適投与量を定め、標準維持量は1日600mgを3回に分割投与します。1日900mgを超えないこととされています。
パーキンソン病における「たちくらみ」では、起立性低血圧が存在するかを実測して確認することが重要です。自覚症状だけでは、前庭障害、薬剤性鎮静、低血糖、不整脈、脳血管疾患、脱水などとの区別が不十分になり得ます。起立時の症状が強くても、血圧低下の再現性や、症状と血圧変動の時間的関係が明確でない場合は、投与量の増量より先に病態の再確認を行う必要があります。
シャイドレーガー症候群および家族性アミロイドポリニューロパチーに対しては、通常1日200~300mgを2~3回に分けて開始し、数日から1週間ごとに1日量100mgずつ増量します。標準維持量は1日300~600mgを3回に分割投与であり、最大は1日900mgです。ここでは体位変換に対する循環調節の不足を補うことが中心となるため、起床時、食後、排便時、入浴後、歩行時など、症状が強く出る場面を具体的に聴取することが有用です。
起立性低血圧を伴う血液透析患者では、通常1回200~400mgを透析開始30分から1時間前に経口投与し、1回400mgを超えないこととされています。国内試験では、透析開始約30分前に4週間投与した際の中等度改善以上の臨床改善度は、後期第II相試験でプラセボ12.8%、ドロキシドパ200mg群43.5%、400mg群60.4%でした。また第III相試験では、プラセボ14.6%に対し400mg群53.3%でした。
ただし、透析患者の適用においては特に表現上の注意が必要です。電子添文には、透析終了後の起立時に収縮期血圧が15mmHg以上低下する患者への適用であること、そして当該病態に対する本薬の作用機序は不明であり、治療後の血圧低下の減少度は個体内変動を超えるものではないことが明記されています。したがって、透析患者では「ノルアドレナリンへの変換」という一般薬理と、透析後起立性低血圧という特定病態で確認された臨床的意義を混同せず、症状・血圧・安全性を個別に評価する必要があります。
ドロキシドパの安全性評価で最も重要な軸は、ノルアドレナリン増加に伴う過度の昇圧反応と心血管系への影響です。電子添文では、過量投与により過度の昇圧反応を起こすことがあるとされ、少量から開始して十分に観察しながら慎重に維持量まで増量するよう求めています。患者の自覚症状が改善した場合でも、臥位・座位・立位での血圧推移、頭痛、動悸、胸部症状、ほてり、浮腫などを確認し、過剰な反応を見逃さないことが大切です。
併用禁忌には、ハロタン等のハロゲン含有吸入麻酔剤、およびイソプレナリン等のカテコールアミン製剤があります。前者は心筋のノルアドレナリンに対する感受性を高め、頻脈や心室細動の危険を増大させるとされています。後者では心臓刺激作用の相加により、不整脈、場合によっては心停止を起こすおそれがあります。周術期を含め、麻酔・救急・病棟間の情報共有では、単に「昇圧薬内服中」とするのではなく、ドロキシドパがノルアドレナリン前駆体であることを明示する意義があります。
併用注意では、モノアミン酸化酵素阻害剤はノルアドレナリン代謝を抑制し、三環系抗うつ薬やアメジニウムは神経終末でのノルアドレナリン再取り込み・代謝に影響し、本剤の作用を増強して血圧異常上昇を来す可能性があります。オキシトシン、エルゴタミン、クロルフェニラミンなどでは末梢血管収縮作用の相加が問題となります。逆に、タムスロシン、ドキサゾシン、イフェンプロジルなどα1受容体遮断作用を持つ薬剤では、血管収縮を介した作用が弱まり、本剤の効果が減弱する可能性があります。
レボドパ・アマンタジンなどの抗パーキンソン病薬との併用では、これらの作用を増強することがあるため、運動症状だけでなく幻覚、興奮、不眠、不随意運動などの精神神経症状を含めて観察します。また、パーキンソン病治療ガイドラインでは、末梢性ドパ脱炭酸酵素阻害薬によって中枢神経外でのノルアドレナリンへの変換が阻害され得ることから、脱炭酸酵素阻害薬配合剤との併用に留意する必要があると記載されています。
禁忌には閉塞隅角緑内障、妊婦または妊娠している可能性のある女性、重篤な末梢血管病変を有する血液透析患者などが含まれます。高血圧、動脈硬化症、心室性頻拍、心疾患、甲状腺機能亢進症、慢性開放隅角緑内障、重篤な腎・肝障害などでは、薬理作用が既存病態を悪化させる可能性を念頭に置きます。重大な副作用として悪性症候群、白血球減少、無顆粒球症、好中球減少、血小板減少が記載されており、急な休薬や用量変更の場面も含めた慎重な対応が求められます。
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