聴力障害に関連するマークは複数存在し、それぞれ異なる意味と使用目的を持っています。医療従事者として、これらのマークを正しく理解し、患者さんや利用者に適切な対応を提供することが重要です。

聴覚障害者の国際シンボルマークは、世界ろう連盟(WFD: World Federation of the Deaf)が定めた聴覚障害者を示す世界共通のシンボルマークです。
参考)難聴・聴覚障害のシンボルマークとは?耳が不自由な人に配慮した…
このマークは、耳の形に斜めの線を引いたデザインが特徴的です。国際的な場や海外でのコミュニケーションにおいて、聴覚障害を示す標準的なマークとして使用されてきました。
しかし、重要な事実として、この国際シンボルマークは2003年に行われた世界ろう者会議をもって使用を取り止めています。 その理由は、耳の形に斜めの線を引くといった描写が聴覚障害者を否定的に捉えているという異議が多くの当事者から唱えられたためです。
参考)当事者からの提案-コミュニケーションマークとしての「手話マー…
この経緯は、障害者マークの歴史において重要な教訓であり、マークのデザインが当事者の尊厳や自己認識に与える影響の大きさを示しています。医療従事者として、この事実を知っておくことは、患者さんとのコミュニケーションにおいて配慮を示す一助となります。
現在では、この国際シンボルマークに代わり、より肯定的な表現のマークが各国で使用されるようになっています。
耳マークは、日本国内で使用されている聴覚障害を示すマークです。
このマークの意味は二重です。一つは、聞こえが不自由なことを表すこと。もう一つは、聞こえない人・聞こえにくい人への配慮を表すマークでもあります。
また、自治体、病院、銀行などが、聴覚障がい者に援助をすることを示すマークとしても使用されています。
聴覚障害のある方は、外見からは障害が分かりにくいため、誤解されたり、不利益を被ったり、危険にさらされたりといった社会生活上の不安を抱えています。 耳マークは、そのような状況で、相手に「聞こえにくい」「聞こえない」ことを理解してもらうために使用されます。
参考)https://www.city.shibukawa.lg.jp/kenkou/fukushi/syougaisya/p000426.html
預金通帳や診察券などにこのマークが貼付されたり、マークを表示された場合は、相手は以下の対応を心がけることが求められます。
このマークは、聴覚障害の人が自発的に使用するものであり、法的拘束力はありません。 しかし、医療機関においては、患者さんのコミュニケーションニーズを把握し、適切な対応を提供するための重要なツールとなります。
耳マークに「T」の文字を重ねたものが、後述するヒアリングループマークです。
ヒアリングループマークは、補聴器や人工内耳に内蔵されている磁気誘導コイル(Tコイル、テレコイルとも呼ばれる)を使って利用できる施設・機器であることを表示するマークです。
このマークを施設・機器に掲示することにより、補聴器・人工内耳装用者に補聴援助システムがあることを知らしめ、利用を促すものです。
ヒアリングループ(Hearing Loop)は、国際的な名称で、日本では「磁気誘導ループ」とも呼ばれます。
参考)https://www.taf.or.jp/files/items/1558/File/%E8%88%98%E9%87%8E%E9%AB%98.pdf
ヒアリングループの仕組みは以下の通りです。
1. 学校や公民館、映画館といった施設の床等にループアンテナを設置
2. マイクの音を磁気に変換
3. 空間内に音響信号に対応する磁場強度の変動を誘導
4. 補聴器や人工内耳等のTコイル(テレコイル)がその磁気を感知
5. イヤホン等に音声を再生
この仕組みにより、補聴器や人工内耳装用者は、教室や会議室での発言をしっかり聞いたり、観劇や舞台、映画をより楽しむことができます。
補聴器や人工内耳が磁気を感知するためには、「テレコイル」機能を設定する必要があります。
通常、補聴器や人工内耳は搭載されているマイクから音を拾いますが、プログラムを「テレコイル」モードに切り替えることで、マイクからの集音はせずに、磁気に変換された話者の音声だけを拾うことができます。
このため、医療機関や公共施設でヒアリングループマークを見かけた場合、補聴器・人工内耳装用者に対して、Tコイルモードへの切り替えを促すことが有効な支援となります。
近年、補聴器や人工内耳には、ヒアリングループを利用する機能(Telecoil/T-coilモード)が付加された機種がありますが、十分に利用されているとは言えないのが現状です。
この背景には、以下の要因が考えられます。
医療従事者として、ヒアリングループの存在と仕組みを理解し、患者さんに情報を提供することは、聴覚障害者の社会参加を支援する重要な役割です。
参考リンク: 一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 ヒアリングループマーク(ヒアリングループマークの公式解説とTコイルの仕組みについて詳しく記載)
手話マークと筆談マークは、聴覚障害者とのコミュニケーション方法を示すマークです。
これらのマークは、公共施設の窓口などで手話や筆談で対応できる場は増えつつありますが、対応方法を示すマークはこれまでなく、聴覚障害のある方たちから「一目で分かるマークがほしい」との要望が出ていたことから、一般財団法人 全日本ろうあ連盟が作成したマークです。
手話マークは、以下のような意味を持ちます。
きこえない・きこえにくい人等がこのマークを提示した場合は「手話言語で対応をお願いします」の意味、窓口等が提示している場合は「手話言語で対応します」等の意味になります。
手話マークのデザインは、国外への普及も考え、5本指で「手話」を表す形を採用し、輪っかで手の動きを表現しています。
筆談マークは、「筆談で対応します」の意味を表します。
手話マーク・筆談マークは、音声に代わる視覚的な手段でのコミュニケーション方法である、「手話」や「筆談」で対応してほしい、または対応できるということを表すマークです。
参考)https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/cmsfiles/contents/0000147/147230/1syougainoarukatanomark.pdf
医療機関においては、これらのマークを活用することで、聴覚障害のある患者さんとの円滑なコミュニケーションを図ることができます。
参考リンク: 内閣府 障害者に関係するマークの一例(手話マークの公式解説と使用場面について詳しく記載)
聴覚障害者標識は、道路交通法に基づき、聴覚に障害のある方が運転免許を取得する際に必要な標識です。
参考)https://www.city.matsumoto.nagano.jp/uploaded/attachment/74047.pdf
このマークは、他の聴覚障害関連マークとは異なり、法的な義務を伴う点が特徴です。
平成20年6月1日の道路交通法改正で、補聴器を使用しても合格基準に満たない聴覚障害者の方については、ワイドミラーの設置や聴覚障害者標識を表示する条件で、普通乗用車に限定した免許を取得することができるようになりました。
さらに、平成24年4月1日から、運転席から確認しにくい「死角」を写す特定後写鏡(ワイドミラーまたは補助ミラー)を装着して、聴覚障害者標識を表示することを条件に普通貨物を含む普通自動車運転免許が取得できることとなりました。
参考)聴覚に障害のある方が運転できる車両の種類の拡大について - …
補聴器により補われた聴力を含めて、10メートルの距離で90デシベルの警音器の音が聞こえるものという、免許取得の従来の基準を満たさない者でも、運転する車種を限定した上で、「特定後写鏡」(ワイドミラー)を設置していることを条件に、車の運転を許可された者は、当該標識を、運転する車両の前後の視認性の高い部分(地上0.4 - 1.2メートル以内)に掲示して運転しなければなりません。
聴覚障害者標識の色彩は、緑色と白色の組み合わせです。 直径は12.2cmで、標識の取付位置は地上0.4m以上から1.2m以下の位置に見えやすいように表示します。
参考)聴覚に障害のある方の運転免許取得について - 免許・交通 >…
この標識を付けた普通自動車は、聴覚に障害のある方が運転しています。 周囲の運転者は、この標識を見かけた場合、以下の配慮が求められます。
参考)聴覚に障害のある方が運転できる自動車等の種類の拡大について/…
2012年(平成24年)4月1日の改正まで運転できる車種は専ら人を運搬する構造の普通自動車と定められており、原動機付自転車、小型特殊自動車、貨物自動車の運転はできませんでした。 改正後は、以下の車両が運転できるようになりました。
ただし、中型免許・大型免許などは取得できません。
準中型自動車又は普通自動車を運転する時は、特定後写鏡(ワイドミラー又は補助ミラー)の装着及び聴覚障害者標識の表示が必要です。
ワイドミラーについては、準中型自動車又は普通自動車のルームミラー等に取り付けるなどして、運転席から後面ガラスを通して後方を確認でき、運転席より後方の側面ガラスを通して斜め後方を確認できるものが目安です。
ただし、大型自動二輪車、普通自動二輪車、小型特殊自動車及び原動機付自転車は、特定後写鏡(ワイドミラー又は補助ミラー)の装着と聴覚障害者標識の表示は不要です。
2012年(平成24年)4月1日以降、大型自動二輪、普通自動二輪、原動機付自転車、小型特殊自動車については、聴力試験による合格基準が廃止されて、聴覚障害者の方も運転免許を取得できるようになりました。
これは、聴覚に障害のある方の社会参加を促進するための重要な改正であり、医療従事者としても知っておくべき情報です。
参考リンク: 警察庁 聴覚障害者標識に関するポスター等の掲載について(聴覚障害者標識の法的根拠と表示義務について詳しく記載)
医療従事者、特に薬剤師や看護師として知っておくべき、聴力障害とマークに関する独自視点の情報を紹介します。
薬物性難聴は、抗菌薬(アミノグリコシド系など)、抗がん剤(シスプラチンなど)、利尿薬(ループ利尿薬など)の副作用として発症することが知られています。
これらの薬剤を投与される患者さんに対して、以下の対応が重要です。
1. 投与前に聴力検査を実施し、ベースラインを把握
2. 投与中に聴力変化をモニタリング
3. 聴力低下が認められた場合、補聴器の装着を提案
4. 補聴器装用者に対して、ヒアリングループマークの意味とTコイルモードの使い方を指導
補聴器を装着した患者さんが、医療機関や公共施設でヒアリングループマークを見かけた場合、Tコイルモードに切り替えることで、より明瞭な音声を聞くことができます。 この情報を患者さんに提供することは、QOL向上に直結する重要な指導です。
聴覚障害のある患者さんの診察券に耳マークを貼付することは、医療機関全体でその患者さんのコミュニケーションニーズを共有する有効な手段です。
ただし、耳マークの貼付は、患者さんの同意を得た上で行うことが倫理的に重要です。 患者さんの自己決定権を尊重し、プライバシーに配慮した対応が求められます。
災害時や緊急時には、聴覚障害のある方が適切な支援を受けられないリスクが高まります。 手話マークをイベント時のネームプレートや災害時に支援者が身に着けるビブスなどに提示することで、以下の効果が期待できます。
医療従事者として、災害時の聴覚障害者支援の訓練に参加し、手話マークの意味と活用方法を理解しておくことは、いざという時の備えとなります。
ヒアリングループマークが示すTコイル機能は、補聴器・人工内耳装用者の社会参加を支援する重要な技術です。 しかし、十分に利用されているとは言えないのが現状です。
医療従事者として、以下の役割を果たすことが期待されます。
これらの活動は、聴覚障害者の社会参加を促進し、インクルーシブな社会の実現に貢献します。
参考リンク: STナビ ヒアリングループ(磁気誘導ループ)の仕組みと使い方(ヒアリングループの技術的仕組みと補聴器のTコイルモードの設定方法について詳しく記載)
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