
チアジド系利尿薬は、腎臓の遠位尿細管に位置するNa-Cl共輸送体(NCC)を阻害することで利尿作用を発現します。この作用により、尿細管腔内のナトリウム濃度が上昇し、ナトリウムはより遠位の集合管へ到達します。集合管では、アルドステロンの影響下でNa-Kチャネルが作動し、ナトリウムの再吸収とカリウムの分泌が促進されます。
参考)サイアザイド系利尿薬⇒高カルシウム血症【機序】 - 知識の卵…
具体的には、以下の3段階の機序が考えられます。第1段階として、遠位尿細管でのナトリウム再吸収阻害により、ナトリウムが尿中に排泄されます。第2段階として、集合管でナトリウムの再吸収が促進され、その代償としてカリウムが尿中に分泌されます。第3段階として、アルドステロンの作用により、Na-Kポンプが活性化され、さらにカリウム排泄が促進されます。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00875.html
この機序により、チアジド系利尿薬を服用している患者では、血中カリウム値が3.5mEq/L未満に低下する低カリウム血症が高頻度で観察されます。特に高齢者や腎機能障害のある患者では、より重篤な電解質異常を呈するリスクが高まります。
参考)https://www.carenet.com/drugs/materials/pdf/400813_2132003F1389_1_07.pdf
| 食品カテゴリー | 具体的な食品 | 100gあたりのカリウム含有量(目安) |
|---|---|---|
| 野菜類 | アボカド、ほうれん草、さつまいも、じゃがいも、かぼちゃ | 300-700mg |
| 果物類 | バナナ、メロン、いちじく、干し柿 | 250-500mg |
| 海藻類 | 切り昆布、わかめ、ひじき | 4000-10000mg |
| 豆類 | 大豆、納豆、小豆 | 500-1200mg |
| 魚介類 | かつお、まぐろ、うなぎ | 300-600mg |
薬剤によるカリウム補給としては、カリウム製剤(カリウム塩化物、クエン酸カリウムなど)の内服が検討されます。ただし、カリウム製剤は胃腸障害をきたすことが多く、徐放性製剤を選択するか、食後に服用することが推奨されます。また、腎機能障害のある患者では、高カリウム血症をきたすリスクがあるため、慎重に投与量を調節する必要があります。
参考)https://www.japic.or.jp/mail_s/pdf/25-05-1-20.pdf
チアジド系利尿薬は、低カリウム血症のほかにも、高カルシウム血症をきたすという特徴があります。これは、チアジドが遠位尿細管でのカルシウム再吸収を促進するためです。この作用機序には、以下の2つの説が提唱されています。
第1の説は、循環血漿量の減少による間接的機序です。チアジドによりナトリウム利尿が促進され、循環血漿量が減少すると、近位尿細管でのナトリウム再吸収が促進されます。この際、ナトリウムと共輸送されるカルシウムの再吸収も増加し、結果として尿中カルシウム排泄が減少します。
第2の説は、遠位尿細管での直接的機序です。チアジドにより尿細管腔内のナトリウム濃度が上昇すると、その陽性イオンの勾配により、カルシウムチャネルを介したカルシウム再吸収が促進されます。また、細胞膜上のNa-Ca逆輸送チャネルが活性化され、カルシウムが細胞外へ排出されます。
この高カルシウム血症をきたす作用は、実は高カルシウム尿症による再発性腎結石の予防に有用です。具体的には、カルシウム結石(蓚酸カルシウム、リン酸カルシウム)の再発予防として、チアジド系利尿薬が使用されます。尿中カルシウム排泄を減少させることで、結石形成リスクを低減できます。
ただし、高カルシウム血症自体が重篤な電解質異常をきたすため、血清カルシウム値の定期的なモニタリングが必須です。また、副甲状腺機能亢進症のある患者では、さらに血清カルシウムを上昇させるため、禁忌または慎重投与とされています。
チアジド系利尿薬、特にヒドロクロロチアジドの長期服用により、非黒色種皮膚がん(NMSC)のリスクが上昇するという報告が、近年多数発表されています。これは、チアジド系薬剤が光線過敏症をきたす性質を持つためです。
参考)Thiaziddiuretikum - DocCheck F…
2017年にデンマークの研究チームが発表した大規模な症例対照研究では、ヒドロクロロチアジドの累積使用量が50,000mg以上(1日25mgを約6年服用)の患者で、基底板細胞がん(BCC)の発症リスクが1.29倍、有棘細胞がん(SCC)が3.98倍に上昇しました。さらに、累積使用量が200,000mg以上(約24年服用)では、BCCが1.54倍、SCCが7.38倍と、明らかな用量依存性が確認されています。
参考)Hydrochlorothiazide use and ri…
また、2021年には、日本の高血圧患者を対象とした研究でも、ヒドロクロロチアジド使用者で皮膚がんリスクが1.58倍に上昇することが報告されました。特に、日光に曝露される部位での発症が多く、扁平上皮がんの傾向が強いことも特徴です。
チアジド系利尿薬の重篤な副作用の一つとして、急性間質性腎炎(AIN)が挙げられます。これは、薬剤に対する免疫反応により、腎臓の尿細管と間質に炎症が生じる疾患です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1e05.pdf
急性間質性腎炎の症状は非特異的で、発熱、皮疹、関節痛、好酸球増多などの全身症状を伴う場合もありますが、これらすべてが認められるのは約1/3の症例に過ぎません。多くの患者では、腎機能の低下(血清クレアチニンの上昇、尿量減少)が唯一の所見となるため、早期発見が困難です。
参考)尿細管間質性腎炎 - 03. 泌尿器疾患 - MSDマニュア…
チアジドによる急性間質性腎炎の発症機序は、薬剤に対するT細胞媒介型の免疫反応と考えられています。薬剤が腎臓の尿細管上皮細胞に結合し、抗原として認識されることで、炎症性サイトカインが産生され、間質の炎症が引き起こされます。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000224770.pdf
治療の基本は、原因薬剤の早期の中止です。軽度の腎機能障害であれば、薬剤の中止のみで腎機能が回復することが多いです。しかし、重篤な腎不全をきたした症例では、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1g/日を3日間)が有効であるという報告もあります。
また、チアジド系利尿薬は、脱水や循環血液量の減少をきたすことで、腎前性腎不全を誘発するリスクもあります。特に高齢者や腎機能障害のある患者、下痢や嘔吐のある患者では、腎血流の低下をきたしやすく、急性腎不全のリスクが高まります。
参考)https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharingcase/sharingcase_2020_11_03G.pdf
臨床現場では、チアジド系利尿薬を処方する際に、血清クレアチニンや尿検査を定期的に実施し、腎機能のモニタリングを徹底することが重要です。また、患者に「尿量の減少」「浮腫」「息切れ」などの症状を早期に報告するよう指導することも必要です。
参考)トリクロルメチアジド錠2mg「TCK」の基本情報(薬効分類・…
低ナトリウム血症の症状は、軽度では倦怠感、食欲不振、頭痛、悪心などですが、重症では意識障害、けいれん、呼吸停止に至ることもあります。血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満では、重篤な神経症状をきたすリスクが高まります。
高齢者での低ナトリウム血症の予防には、以下の点が重要です。まず、少量(1日12.5mgなど)から開始し、徐々に増量します。次に、血清ナトリウム濃度を定期的にモニタリングし、特に投与開始後1-2週間は頻回に測定します。また、減塩療法中の患者では、さらに低ナトリウム血症を悪化させるため、塩分制限を緩和することを検討します。
なお、低ナトリウム血症をきたした場合には、チアジドの中止が第一選択です。重症例では、高張食塩水(3%NaCl)の静注が検討されますが、急激なナトリウム補正は、中心性橋髄液崩壊症(浸透圧性脱髄症候群)を引き起こすリスクがあるため、補正速度は1日8mEq/L以内、24時間で10mEq/L以内に抑えることが推奨されます。
チアジド系利尿薬は、高尿酸血症および痛風発作のリスクを上昇させることが知られています。この機序は、主に以下の2つの経路によるものです。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00056788.pdf
第1の機序は、尿細管での尿酸再吸収の直接促進です。チアジド系薬剤が、近位尿細管の尿酸トランスポーター(URAT1、OAT4など)を介して、尿酸の再吸収を増加させます。これにより、尿酸の尿中排泄が減少し、血中尿酸値が上昇します。
第2の機序は、循環血液量の減少による間接的機序です。チアジドによるナトリウム利尿が、循環血液量の減少をきたし、近位尿細管での尿酸再吸収が促進されます。この機序は、用量依存的であり、高用量のチアジドでより顕著です。
痛風発作のリスクは、高尿酸血症の患者、特に血清尿酸値が9-10mg/dLを超える患者で高まります。また、既往に痛風発作のある患者では、再発リスクがさらに上昇します。
痛風発作の予防には、以下の対策が有効です。まず、チアジドの用量を最小限に抑えること。次に、尿酸降下薬(アロプリノール、フェブキソスタットなど)の併用を検討すること。第三に、水分摂取を増やし、尿量を増加させること。最後に、アルコールや高プリン食の摂取を制限することです。
なお、チアジド系利尿薬による高尿酸血症は、無症状であれば、通常は治療を必要としません。しかし、痛風発作を繰り返す患者、血清尿酸値が10mg/dLを超える患者、腎結石の既往のある患者では、尿酸降下薬の併用を考慮すべきです。
膵臓のランゲルハンス島β細胞では、カリウムチャネルがインスリン分泌の調節に重要な役割を果たしています。低カリウム血症をきたすと、これらのカリウムチャネルが十分に機能せず、グルコース刺激に対するインスリン分泌が低下します。これにより、耐糖能異常や、インスリン抵抗性が生じます。
糖尿病患者や、糖尿病予備群の患者では、チアジド系利尿薬の使用により、血糖コントロールが悪化するリスクがあります。特に、SU剤やインスリンを服用している患者では、これらの薬剤の作用が減弱されるため、注意が必要です。

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