
経口造影剤を使用した場合、下痢は比較的頻度の高い副作用として報告されています。MRI用経口消化管造影剤である塩化マンガン四水和物(ボースデル)の臨床成績では、軟便が8.5%、下痢が3.8%、腹鳴が1.9%というデータが示されています。
参考)https://www.carenet.com/drugs/materials/pdf/780009_7290006S1021_2_04.pdf
これらの副作用は、薬剤の直接的な腸管刺激作用によるもので、一過性であり治療を要さないことがほとんどです。 ただし、患者によっては症状が強く出る場合もあり、検査前の説明で「軟便や下痢が起こる可能性があります」と伝えておくことが重要です。
参考)https://www.tokyokita-jadecom.jp/theme-data/pdf/02.pdf
硫酸バリウム製剤を使用する上部消化管X線造影や小腸造影でも、便秘とともに下痢が副作用として記載されています。 バリウム製剤の場合、便秘がより問題視されることが多いですが、個々の患者の腸管状態によっては下痢が生じることもあります。
造影剤の副作用には、投与直後に現れる「即時性副作用」と、1時間から1週間程度経ってから現れる「遅発性副作用」の2種類があります。 下痢は、この遅発性副作用としても報告されている症状です。
参考)https://jsrtkinki.jp/wp/wp-content/uploads/bfd27276990936bd01c75a22ee8d9d3e.pdf
遅発性副作用の頻度は、約100人に5人(約5%)とされており、症状としては蕁麻疹、発疹、瘙痒、頭痛、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などが含まれます。 特に造影剤投与後72時間以内に現れた症状は遅発性反応と考慮されることが多いです。
参考)http://www.ichinohe-hp.com/media/2/11_____________________________________.pdf
遅発性副作用の機序は完全には解明されていませんが、T細胞を介した免疫反応や、サイトカイン放出による腸管蠕動亢進が関与していると考えられています。 患者が「検査から数日経って下痢が始まった」と相談してきた場合、造影剤の遅発性副作用を鑑別診断の一つとして考慮する必要があります。
参考)第20回 下痢:日経DI
造影剤による下痢の機序には、腸管蠕動運動の促進が関与しています。腸管蠕動促進薬は、アセチルコリンの作用を増強、またはコリンエステラーゼによるアセチルコリンの分解を抑制することで副交感神経を刺激し、効果を発揮します。
参考)https://chuo.kcho.jp/app/wp-content/uploads/2022/03/NStimes75.pdf
経口造影剤である塩化マンガン製剤は、腸管内でマンガンイオンとして作用し、腸管粘膜を刺激することで蠕動運動を亢進させます。これにより、腸内容物の通過が促進され、下痢や軟便が生じます。
また、サイトカインの放出により蠕動運動が亢進し、腸粘膜の透過性が亢進することで腸液の分泌が促進され、腸管内の水分量が増加して下痢が生じるという機序も報告されています。 この機序は、造影剤に限らず、炎症性腸疾患や感染症による下痢でも同様に観察されます。
腸の蠕動運動は、腸内を内容物が通過する際に腸粘膜が刺激を受け、内在性感覚ニューロンが活性化することで起こります。外来からの自律神経支配では、副交感神経が蠕動運動を亢進し、交感神経が抑制します。 造影剤はこのバランスに影響を与える可能性があります。
参考)有効性2. 大腸の蠕動運動亢進に対する正常化作用|専門家の皆…
乳酸アシドーシスの初期症状として、食欲不振、吐気、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状が急激に出現します。 進行すると倦怠感、過呼吸、脱水、けいれん、低体温、低血圧などを引き起こし、昏睡状態に陥ることもあります。
患者が「造影剤検査後に下痢が始まった」と相談してきた場合、単なる造影剤の副作用だけでなく、ビグアナイド系薬剤の血中濃度上昇による乳酸アシドーシスの可能性も鑑別する必要があります。特に糖尿病患者で、下痢に加えて倦怠感や過呼吸などの症状を訴える場合は、速やかに医療機関を受診させるべきです。
あまり知られていない事実として、一部の造影剤(特に経口消化管造影剤)には鉄分が含まれており、鉄分過敏症患者では使用できない場合があります。また、鉄分の影響で一時的に便が黒くなることがありますが、これは一過性のものです。
参考)造影剤について
さらに、鉄分含有製剤の副作用として下痢を生じることがあります。鉄剤自体が腸管粘膜を刺激し、蠕動運動を亢進させることで下痢を引き起こす機序は、塩化マンガン製剤と類似しています。
鉄分による下痢は、一般的な鉄剤の副作用としても知られており、鉄剤の服用開始時に多くの患者が経験します。 造影剤に含まれる鉄分量は治療目的の鉄剤よりは少ないですが、感受性の高い患者では同様の症状が現れる可能性があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00057093.pdf
この情報を患者説明に含めることで、「便が黒くなった」「下痢が続く」といった相談に対して、事前に「鉄分の影響で起こり得る一過性の症状です」と説明でき、患者の不安を軽減できます。
厚生労働省の造影剤関連資料:造影剤の安全性や副作用に関する公式情報
聖路加国際病院の造影剤説明:患者向けの分かりやすい造影剤解説