
月給制では、残業をした月の給与額を単純に勤務日数で割るのではなく、まず「1時間当たりの基礎賃金」を求めます。基本式は、月給に含まれる割増賃金の算定基礎となる賃金を、1か月の平均所定労働時間で除する方法です。
| 計算項目 | 基本式 |
|---|---|
| 月平均所定労働時間 | 年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12 |
| 1時間当たりの基礎賃金 | 割増賃金の算定基礎となる月給 ÷ 月平均所定労働時間 |
| 時間外の割増部分 | 1時間当たりの基礎賃金 × 0.25以上 × 時間外労働時間 |
例えば、年間休日120日、1日の所定労働時間8時間であれば、年間所定労働日数は概ね245日です。月平均所定労働時間は、245日×8時間÷12か月で約163.3時間となります。割増賃金の基礎となる月給が300,000円なら、1時間当たりの基礎賃金は約1,837円です。法定時間外労働を10時間行った場合、時間外の割増部分は約4,593円以上となります。
ここで見落としやすいのは、月ごとの暦日数や当月の出勤日数ではなく、原則として年間から算出した月平均所定労働時間を用いる点です。月によって所定労働時間が変動する医療機関、変形労働時間制を採用する事業所、シフト勤務の職場では、就業規則・勤務表・年間カレンダーの整合性が重要になります。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/akita-roudoukyoku/var/rev0/0111/2260/2016329155850.pdf
月給制であっても、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働に対する割増賃金の支払い義務はなくなりません。月給は「残業代を含む給与」を当然に意味するものではなく、固定残業代を導入している場合にも、制度の明示と不足分の追加支払いが問題になります。
月給制の計算方法と月平均所定労働時間の考え方は、厚生労働省系の労働局資料で確認できます。
神奈川労働局「割増賃金の計算方法」
割増賃金の計算では、月給の全項目を必ず基礎賃金に含めるわけではありません。労働基準法施行規則では、限定された一定の手当等を算定基礎から除外できます。ただし、「手当」という名称が付いているだけでは除外できず、実際の支給条件で判断する必要があります。
除外の対象になり得るものは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金です。賞与は通常、1か月を超える期間ごとの賃金として扱われます。
一方、職務手当、役職手当、資格手当、調整手当、皆勤手当、医療機関で支給される危険手当やオンコール手当などは、原則として基礎賃金に含まれる可能性があります。たとえば「住宅手当」という名称でも、全従業員に一律額を支給する仕組みで、家賃額・住宅費用・居住形態との関連がない場合は、除外対象として扱えないことがあります。
医療職では、夜勤手当と深夜割増賃金を同一視しないことも重要です。夜勤手当は勤務形態への手当として就業規則等で定める任意の賃金項目であり、午後10時から午前5時までの深夜労働に対する法定の深夜割増とは別に検討します。夜勤手当を支給していても、深夜割増賃金が適切に計算されているかは別途確認が必要です。
除外できる手当は7種類に限定され、個人的事情と無関係な一律支給の手当は基礎賃金に入る可能性があります。
参考)割増賃金 よくある質問と答え4
愛媛労働局「割増賃金 よくある質問と答え」
「残業」は日常用語ですが、割増賃金を計算するうえでは、所定労働時間を超えた時間と、法定労働時間を超えた時間を分ける必要があります。法定労働時間は原則として1日8時間、1週40時間です。所定労働時間を超えていても、法定労働時間の範囲内に収まる時間は、法定の25%以上の時間外割増の対象ではない場合があります。
例えば、所定労働時間が1日7時間の職員が8時間勤務した場合、1時間の所定時間外労働が生じます。しかし、1日8時間を超えていなければ、労働基準法上の時間外労働の割増率が当然に発生するとは限りません。とはいえ、雇用契約や就業規則で所定時間外に独自の手当を定めているケースもあるため、給与規程も確認します。
休日についても、「法定休日」と「法定外休日」は区別します。使用者は原則として毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。この法定休日に勤務させた場合は35%以上の割増率です。他方、週休2日制で土曜日・日曜日の両方を休日としていても、どちらが法定休日かを就業規則等で特定していなければ、休日出勤すべてに35%を適用するとは限りません。
| 労働の種類 | 法定の割増率 | 判断の軸 |
|---|---|---|
| 時間外労働 | 25%以上 | 1日8時間・週40時間の超過 |
| 法定休日労働 | 35%以上 | 法定休日に勤務したか |
| 深夜労働 | 25%以上 | 午後10時から午前5時までか |
| 月60時間超の時間外労働 | 50%以上 | 月の法定時間外労働の超過部分 |
法定時間外労働が深夜帯に及ぶと、時間外25%以上と深夜25%以上が重なり、合計50%以上です。法定休日労働が深夜帯に及ぶ場合は、休日35%以上と深夜25%以上を合算して60%以上となります。
1か月の法定時間外労働が60時間を超える場合、その超えた部分には50%以上の割増率が必要です。この取扱いは中小企業にも適用されており、「規模が小さい医療法人だから25%のまま」という理解は適切ではありません。
重要なのは、月60時間の判定対象が、法定時間外労働であることです。法定休日に行った労働時間は、原則として月60時間の時間外労働の算定には含めません。一方、法定外休日における勤務であっても、週40時間を超えた部分は法定時間外労働となり得ます。月次の勤怠集計では、単に「残業」「休日出勤」というコードだけを見るのではなく、週単位・日単位の実労働時間を照合する必要があります。
また、月60時間を超える時間外労働に深夜労働が重なる場合、50%以上と25%以上を加算し、75%以上の割増率になります。救急外来、急性期病棟、検査部門、薬局の当直対応など、突発的な延長勤務が起きやすい部署では、勤怠システムが深夜帯を自動で分割できているかが実務上の確認点です。
月60時間超の部分は50%以上の割増率が必要であること、時間外・休日・深夜の区分ごとに計算することは、労働基準法第37条に基づく基本事項です。
参考)割増賃金とは?労働基準法第37条や時間外・休日・深夜の計算方…
医療現場で意外に見落とされやすいのが、勤務開始前の情報収集、勤務終了後の申し送り、電子カルテ入力、インシデント報告、薬剤・医療機器の点検といった「短時間だが反復する業務」です。これらが使用者の明示または黙示の指揮命令下で行われ、業務として必要なものであれば、労働時間として評価される可能性があります。
特に、始業時刻前に病棟へ入り、患者情報や検査値を確認してから日勤を始める運用、終業時刻後に次勤務者への引継ぎを完了しなければ退勤できない運用では、打刻時刻だけでなく実際の業務内容を確認します。「自主的な勉強」として処理されている時間でも、参加が事実上必須であり、業務に直結する内容で、欠席しにくい運用なら、実態の検討が必要です。
確認するときは、感覚的に「残業が多い」と捉えるのではなく、次の資料を同じ期間で突き合わせます。
月給制の職員ほど「給与に含まれているはず」と考えがちですが、計算の出発点は月給額そのものではなく、実際の労働時間と、適正に算定した1時間当たりの基礎賃金です。給与明細に時間数の内訳がなく、勤務記録と支給額の整合を確認できない場合は、まず人事・労務担当部署に計算根拠の提示を求めることが実務的です。
月給制の割増賃金を検算する簡便な考え方と、給与明細を確認する視点は、厚生労働省の労働条件相談サイトでも案内されています。
参考)時間外・休日労働と割増賃金|しっかり学ぼう!働くときの基礎知…
厚生労働省「残業、早出や休日出勤による割増賃金のチェック方法」