
ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)は、識別コード「ツムラ/68」を有する漢方エキス製剤である。医療現場で「芍薬甘草湯 ツムラ 68」と検索・照会される場合、多くはこの医療用製剤を指す。剤形は淡灰褐色の顆粒剤であり、通常は1日7.5gを2~3回に分割して、食前または食間に経口投与する。年齢、体重、症状に応じて適宜増減するが、添付文書上は治療上必要な最小限の期間にとどめることが明記されている。急性症状への短期使用を基本に、投与継続の必要性を都度再評価する姿勢が重要である。
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効能又は効果は、「急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛、筋肉・関節痛、胃痛、腹痛」である。代表的な処方場面としては、夜間または運動時のこむら返り、筋けいれんに伴う疼痛、けいれん性の腹痛などが想定される。ただし、患者が訴える「足がつる」「腹痛がある」という症状だけで安易に継続するのではなく、末梢動脈疾患、電解質異常、脱水、神経疾患、薬剤性、器質的腹部疾患など、症候の背景にある原因を診断・評価することが前提となる。芍薬甘草湯は原因疾患そのものを是正する薬剤ではなく、急激なけいれん性疼痛への対症的な選択肢として位置付けるべきである。
本剤の1日量7.5g中には、日局シャクヤク6.0gおよび日局カンゾウ6.0gの混合生薬から得た乾燥エキス2.5gが含まれる。構成生薬が2種類と比較的シンプルである反面、甘草含有量が多いことは安全管理上の要点である。効果を期待して症状改善後も定期処方として継続すること、複数診療科で甘草含有漢方薬が重複すること、一般用医薬品や健康食品の確認が不十分であることは、偽アルドステロン症の見逃しにつながり得る。
ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)電子添文
ツムラ68を新規に開始する際は、適応の妥当性、急性症状か反復・慢性症状か、既存の低カリウム血症リスク、併用薬、他院処方および一般用医薬品の使用状況を確認する。特に「こむら返りが続く」患者では、単発の夜間筋けいれんなのか、利尿薬・下剤・下痢・嘔吐・摂食不良・腎機能障害などに伴う電解質異常なのかを見極める必要がある。後者では芍薬甘草湯の投与が本質的対策にならないだけでなく、甘草の影響で低カリウム血症を増悪させるおそれがある。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 販売名 | ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用) | 識別コードはツムラ/68 |
| 構成生薬 | シャクヤク6.0g、カンゾウ6.0g/日量7.5g中 | 乾燥エキスとして2.5g含有 |
| 通常用量 | 成人1日7.5gを2~3回に分割 | 食前又は食間に経口投与 |
| 主な効能又は効果 | 急激な筋けいれんを伴う疼痛、筋肉・関節痛、胃痛、腹痛 | 原因疾患の診断・治療を並行する |
| 禁忌 | アルドステロン症、ミオパチー、低カリウム血症の患者 | 疾患・症状を悪化させるおそれがある |
| 投与期間 | 治療上必要な最小限の期間 | 改善がなければ継続投与を避ける |
禁忌は、アルドステロン症の患者、ミオパチーのある患者、低カリウム血症のある患者である。いずれも当該疾患または症状を悪化させるおそれがあるため、処方時に既往歴・検査値・症候を確認する。例えば、すでに低カリウム血症がある患者の「つり」や筋肉痛は、芍薬甘草湯で対症的に抑えるよりも、低カリウム血症の重症度評価、原因検索、補正の要否判断を優先すべきである。
高齢者は生理機能低下を踏まえ、減量を含めて慎重に扱う。妊婦または妊娠している可能性がある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する。授乳婦では治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮して、授乳継続または中止を検討する。小児を対象とした臨床試験は実施されていないため、年齢だけで成人と同様に安全性を外挿しないことが望ましい。
芍薬甘草湯の安全性を考える上で中心となるのは、甘草由来の偽アルドステロン症である。甘草成分のグリチルリチンおよびその代謝産物の影響により、腎尿細管における11β-hydroxysteroid dehydrogenase 2(11β-HSD2)の活性が抑制される。その結果、通常はコルチゾンへ変換されるコルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を介して作用し、ナトリウム・体液貯留とカリウム喪失を来す。臨床的には、血清カリウム低下、血圧上昇、浮腫、体重増加、代謝性アルカローシス、低カリウム性ミオパチーなどが問題となる。血漿レニン活性またはレニン濃度と血漿アルドステロン濃度が低値となることが、原発性アルドステロン症との鑑別に有用である。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000245267.pdf
添付文書では、カンゾウ含有製剤、グリチルリチン酸およびその塩類を含有する製剤、ループ系利尿薬、チアジド系利尿薬が併用注意に挙げられている。カンゾウ・グリチルリチン酸製剤との重複では、甘草関連副作用のリスクが累積する。ループ系・チアジド系利尿薬では尿細管でのカリウム排泄促進作用により血清カリウム低下が助長され、偽アルドステロン症や低カリウム血症に続くミオパチーが発現しやすくなる。服薬情報提供書、持参薬、薬剤情報提供書、お薬手帳、一般用医薬品、サプリメントを横断して確認することが必要である。
PMDAの重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、甘草またはグリチルリチン含有医薬品による偽アルドステロン症について、投与後10日以内の早期発症から数年後の発症まで幅があるとされる。使用期間のみで安全性を判断できず、複数薬剤の併用や患者背景によって発症し得る。発症例の約40%は3か月以内とされる一方、長期服用後にも起こり得るため、短期処方・長期継続のいずれでも症候と検査値を追う必要がある。
PMDA 重篤副作用疾患別対応マニュアル「偽アルドステロン症」
添付文書では、甘草を含むことから血清カリウム値および血圧値などに十分留意するよう求められている。短期間の頓用的・症状時使用であっても、高齢者、低体重、利尿薬併用、複数の甘草含有製剤併用、心不全・高血圧・腎疾患のある患者では、投与開始前の基礎情報を把握しておく意義が大きい。反復処方または連用が見込まれる場合は、血圧、浮腫、体重変動、筋症状、血清カリウム、腎機能を組み合わせて評価する。
PMDAマニュアルでは、偽アルドステロン症を生じ得る医薬品を服用する患者について、開始時または用量変更時には1か月以内、維持期には3~6か月に1回の定期的な血清カリウム値確認および心電図測定が重要とされている。ただし、これは一律の検査間隔を機械的に適用する趣旨ではない。高リスク患者、併用利尿薬の開始・増量時、食事摂取低下や消化器症状がある場合、筋力低下・浮腫・血圧上昇などの症候が出現した場合には、より早期かつ個別化した評価が必要になる。
患者説明では、「足がつるために服用している薬が、低カリウム血症を介して筋力低下やこむら返りを悪化させる可能性がある」ことを、恐怖を煽らずに伝える。手足のだるさ、しびれ、つっぱり感、こわばり、進行性の脱力、筋肉痛、浮腫、急な体重増加、血圧上昇、動悸、息切れ、めまい、失神を確認し、症状があれば自己判断で飲み続けず、速やかに処方医または薬剤師へ連絡するよう案内する。偽アルドステロン症では、四肢脱力・筋力低下、血圧上昇、全身倦怠感、浮腫などが早期発見の手掛かりとなる。
異常が疑われた場合は、まず芍薬甘草湯を含む原因候補の甘草・グリチルリチン含有製剤を把握し、処方医へ速やかに情報共有する。添付文書では、偽アルドステロン症を認めた際には投与中止およびカリウム剤投与などの適切な処置が示されている。さらに、うっ血性心不全、心室細動、心室頻拍(Torsade de Pointesを含む)、ミオパチー、横紋筋融解症につながる可能性があるため、動悸、息切れ、失神、著明な筋力低下、四肢のけいれん・麻痺、CK上昇、ミオグロビン上昇、赤褐色尿などを伴う場合は緊急度を高く判断する。
ツムラ68の処方監査では、「適応」「投与予定期間」「カリウム関連リスク」「甘草総曝露」の4点を軸にすると、確認漏れを減らしやすい。急性の筋けいれん性疼痛に対する短期間の処方であれば、症状経過と再診目安の説明が中心となる。一方、定期処方や長期反復処方では、症状の再評価、甘草を含む処方の全体像、検査計画を処方医と共有する。症状が改善しないケースでは、漫然と継続・増量するのではなく、病態の再評価や代替治療の検討を促すことが重要である。
具体例として、フロセミドを服用中の高齢患者に、夜間こむら返りを理由としてツムラ68が継続処方されている場合を考える。薬剤師は、開始日・服用頻度・症状改善の有無、他の漢方薬や市販薬の使用、家庭血圧、浮腫、体重増加、脱力感を確認する。直近の血清カリウム値が低値または低下傾向なら、単に「こむら返りへの効果」を評価するのではなく、利尿薬と甘草の相互作用を含めた低カリウム血症リスクとして処方医に照会する。禁忌に該当する低カリウム血症がある場合は、原則として本剤を投与しない。
また、芍薬甘草湯の薬効薬理に関して、添付文書には脊髄の下行性ノルアドレナリン神経系活性化作用、PGF2α誘発ラット子宮筋収縮の抑制、培養ヒト子宮筋細胞におけるプロスタグランジン産生抑制などの非臨床的知見が記載されている。ただし、これらの作用機序を個別患者の適応や有効性の根拠として過大に解釈しないことが必要である。臨床実務では、添付文書上の効能又は効果に沿って、急激なけいれん性疼痛への使用とし、患者個別のリスク・ベネフィットおよび継続必要性を丁寧に評価する。
最後に、ツムラ68は「漢方薬だから安全」「短い構成生薬だから相互作用が少ない」とは言えない。むしろ甘草6.0gを含む芍薬甘草湯では、甘草重複、利尿薬併用、低カリウム血症の見逃しが重大な安全課題となる。患者の訴えである筋けいれん・筋肉痛・倦怠感を原疾患の症状と決めつけず、薬剤性低カリウム血症や偽アルドステロン症の初期徴候として再評価することが、ツムラ68の安全な活用につながる。