糖尿病足病変は、糖尿病を背景として足部に生じる神経障害、末梢動脈疾患、感染、皮膚・軟部組織障害、潰瘍、壊疽などを含む広い概念です。臨床上の重要点は、足潰瘍や壊疽が明らかになってからではなく、その前段階にある「潰瘍前病変」を捉えることです。初期には、乾燥、落屑、亀裂、発赤、腫脹、胼胝、鶏眼、水疱、爪変形、白癬、趾間浸軟、靴ずれなど、患者自身が軽症と判断しやすい変化が現れます。
とくに糖尿病性末梢神経障害によって保護感覚が低下している患者では、靴の圧迫、足底への反復荷重、小石などの異物、熱傷、爪切り時の小外傷があっても、痛みを十分に感じられないことがあります。その結果、患者の主訴が乏しいまま皮膚損傷が進行し、感染や虚血が合併すると短期間で深部組織に及ぶことがあります。「痛くないから問題ない」という自己判断を修正することが、初期介入の出発点となります。
日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインでは、糖尿病性足病変の早期診断に向け、足の外観観察、足背動脈拍動の確認、血流障害および神経障害の評価が必要とされています。また、足変形、潰瘍既往、神経障害、下肢閉塞性動脈疾患を有するハイリスク患者では、より高頻度の足観察と個別的な予防的フットケアが重要です。
参考)https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/11_1.pdf
日本糖尿病学会「糖尿病性足病変」診療ガイドライン
糖尿病患者の足評価では、皮膚だけを観察するのでは不十分です。診察時には、問診、視診、触診、神経学的評価、血流評価、靴および靴下の確認を一連の流れとして実施します。患者が足を出しにくい診療環境では、足病変の確認が後回しになりやすいため、糖尿病外来のルーチンにフットチェックを組み込むことが望まれます。
問診では、既往の足潰瘍、下肢切断、血行再建、間欠性跛行、安静時疼痛、しびれ、灼熱感、感覚鈍麻、視力低下、セルフケア能力、独居状況、喫煙、腎機能低下、靴の不適合などを確認します。視診では足背・足底・踵・足趾側面・趾間を観察し、胼胝下出血、皮膚の菲薄化、色調変化、亀裂、水疱、滲出液、悪臭、局所熱感、浮腫、爪や皮膚真菌症の所見を見逃さないようにします。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 皮膚・爪の視診 | 発赤、腫脹、熱感、乾燥、亀裂、胼胝、出血、水疱、潰瘍、爪変形、趾間浸軟を確認する | 足底、踵、趾間、足趾側面を必ず確認する |
| 保護感覚 | 10 gモノフィラメント、128 Hz音叉などで感覚低下を評価する | 感覚低下は無痛性外傷と潰瘍の重要なリスク因子となる |
| 血流評価 | 足背動脈・後脛骨動脈の拍動、皮膚温、色調、毛細血管再充満を確認する | 異常があればABI、TBI、SPP、下肢血管超音波などを検討する |
| 足変形・荷重部位 | 槌趾、鉤爪趾、外反母趾、シャルコー足、関節可動域制限、胼胝形成部位を評価する | 局所圧上昇部は潰瘍前病変として扱う |
| 履物 | サイズ、幅、つま先の余裕、縫い目、摩耗、足底の異物を確認する | 患者の足だけでなく、実際に使用している靴も確認する |
国際糖尿病足ワーキンググループ(IWGDF)は、潰瘍リスクが非常に低い糖尿病患者でも、少なくとも年1回、保護感覚消失と末梢動脈疾患の徴候・症状を評価することを推奨しています。神経障害、末梢動脈疾患、足変形、潰瘍・切断既往、末期腎不全などを有する場合は、リスクに応じて観察頻度を高める考え方が示されています。
糖尿病足病変の初期において、胼胝は単なる角質肥厚ではありません。特定部位に繰り返し高い圧がかかっている徴候であり、胼胝の下に出血や皮下組織損傷、浅い潰瘍が隠れていることがあります。とくに足底の中足骨頭部、母趾、踵、足趾背側、変形部の突出部位では、胼胝を確認した際に局所圧、靴の適合、歩行、足変形、感覚低下をあわせて評価する必要があります。
発赤、紫斑、局所熱感、腫脹は、感染だけでなく、反復外傷や急性シャルコー神経障害性骨関節症を示す場合があります。糖尿病性神経障害がある患者で、片側の足の腫脹、発赤、温度上昇が目立つ場合は、疼痛が乏しくても安易に靴ずれや蜂窩織炎と判断せず、荷重制限、画像評価、専門診療への連携を速やかに検討します。
発熱や炎症反応が明瞭でないからといって、局所感染を否定することはできません。糖尿病患者では免疫応答が乏しいことがあり、また虚血が重なると創傷治癒不良と感染拡大のリスクが上がります。潰瘍、壊死、膿性排液、進行する蜂窩織炎、虚血が疑われる場合には、自己処置や漫然とした経過観察を避け、創傷評価、感染評価、血行評価を並行して行うことが重要です。
足病変の予防は、全患者に同じ頻度・同じ内容の指導を行うだけでは十分ではありません。足潰瘍リスクは、保護感覚消失、末梢動脈疾患、足変形、胼胝、関節可動域制限、潰瘍既往、下肢切断既往、末期腎不全、視力障害、セルフケア困難、社会的支援不足などが重なるほど高くなります。リスクを記録し、受診間隔とフットケア内容を標準化することで、初期病変の取りこぼしを減らせます。
IWGDFの2023年リスク層別化では、保護感覚消失も末梢動脈疾患もない場合をリスク0として年1回の評価、いずれか一方を有する場合をリスク1として6〜12か月ごとの評価としています。保護感覚消失または末梢動脈疾患に足変形が組み合わさる場合、あるいは保護感覚消失と末梢動脈疾患が併存する場合はリスク2で3〜6か月ごと、さらに潰瘍既往、下肢切断既往、末期腎不全を伴う場合はリスク3として1〜3か月ごとの評価が示されています。
参考)https://iwgdfguidelines.org/wp-content/uploads/2023/07/IWGDF-2023-01-Practical-Guidelines.pdf
ただし、この頻度は画一的な受診指示ではなく、リスクに応じた最低限の枠組みとして捉える必要があります。たとえば新たな胼胝、靴ずれ、爪トラブル、セルフケア不良、血糖管理悪化、下肢浮腫、歩行状態の変化がある患者では、分類上のリスクだけではなく、現時点の足の状態を踏まえて観察間隔を短縮します。高リスク患者では糖尿病内科、皮膚科、形成外科、血管外科、整形外科、看護師、フットケア担当者、義肢装具士などが連携できる体制が有用です。
IWGDF Practical Guidelines 2023
初期病変を見つけた後は、「毎日見ましょう」と伝えるだけでは不十分です。患者が実際に実行できる手順へ落とし込む必要があります。患者には、毎日、足背、足底、踵、足趾、趾間を観察すること、見えにくい場合は手鏡の使用や家族・介護者の協力を得ることを説明します。足を洗った後は趾間まで十分に乾かし、乾燥部位には保湿を行う一方、趾間への過度な保湿は浸軟を助長し得るため避けるよう指導します。
足底の胼胝を刃物や市販の角質除去器で削る行為、熱い湯や湯たんぽ・電気あんかを感覚だけで安全確認する行為、裸足歩行、サイズが合わない靴の継続使用は、神経障害患者では重大な外傷につながり得ます。爪切りが困難、視力低下がある、手指の巧緻性が低下している、認知機能や生活環境に課題がある場合は、セルフケアの可否を評価し、家族支援、訪問看護、フットケア外来などにつなげることが必要です。
予防介入では、血糖管理、禁煙支援、血圧・脂質管理、末梢動脈疾患の適切な診療に加え、除圧を意識した靴選びが重要です。足変形や胼胝、潰瘍既往がある患者では、単に柔らかい靴を勧めるのではなく、足型・変形・荷重部位・歩行状態を踏まえた適切な靴、インソール、治療用フットウェアの検討が求められます。IWGDFは、リスクを有する患者への構造化教育、適切な履物の常時使用、潰瘍前病変の治療、ならびに中等度から高リスク患者に対する統合的フットケアを、足潰瘍予防の主要な要素として示しています。
糖尿病足病変の初期対応では、「小さな変化を早く発見し、圧・感染・虚血・セルフケア障害という増悪因子を同時に是正する」視点が欠かせません。毎回の診察で足を確認する文化をチーム内に定着させ、患者が異常を見つけた時点で早期に相談できる導線を整備することが、潰瘍、入院、切断の予防につながります。