統合失調症における常同症の評価と対応

統合失調症でみられる常同症を、カタトニア、薬剤性錐体外路症状、強迫症状などと区別しながら評価する視点を解説します。安全確保と治療選択にどうつなげるべきでしょうか?

常同症と統合失調症の基礎知識と核心ガイド

常同症を見逃さない臨床評価
常同症は行動の形式をみる

目的性に乏しい反復運動や反復行為として、頻度、持続時間、誘因、生活への影響を具体的に記録します。

カタトニアを並行して確認する

常同症だけで終わらせず、無言、昏迷、拒絶、反響現象、興奮などの併存所見を系統的に確認します。

薬剤性・身体疾患も除外する

抗精神病薬の変更歴、アカシジアやジスキネジア、せん妄、神経学的異常を確認し、原因に応じて対応します。


常同症とは何か:統合失調症での位置づけ



常同症とは、同じ動作、姿勢、発声、行為などが、状況に見合う明確な目的を伴わず、反復的かつ固定的に現れる精神運動症状を指します。具体例としては、一定のリズムで体を揺らし続ける、同じ手指の動きを繰り返す、同一の経路を歩き続ける、意味の乏しい言葉や音を反復する、物品を一定の手順で並べ直し続けるといった現象があります。ただし、観察される反復行動のみから常同症と断定することは適切ではありません。患者にとっての主観的な意味、行動の目的性、制止可能性、苦痛の有無、病前からの特性、薬剤曝露との時間的関連を確認する必要があります。
臨床上は「反復している」という外形だけでなく、「異常に頻回で、非目標指向的であるか」を見極めることが核心です。たとえば、患者が不安の軽減を目的として戸締まり確認を反復し、その不合理性を自覚している場合は強迫症状の可能性を考えます。一方、周囲の状況や患者の訴えと明確に結び付かず、同一の手振りや歩行パターンが長時間にわたり持続し、他の精神運動症状も伴う場合は、常同症およびカタトニア・スペクトラムを念頭に置きます。


観察・問診で確認すべき評価項目

項目 基準・内容 備考
行動の具体像 反復する動作、姿勢、発声、行為を観察可能な言葉で記録する 「奇異」などの抽象語だけで終えない
目的性・主観的意味 行動の理由、予期される結果、不安軽減や妄想との関連を確認する 強迫、儀式化、妄想に基づく行為との鑑別に重要
制止可能性 声かけ、注意転換、環境変更で中断できるかを確認する 強い制止は興奮や事故を招く場合があり慎重に行う
併存症状 無言、昏迷、拒絶、常同姿勢、反響現象、興奮、しかめ面を評価する カタトニアを疑う所見として整理する
身体的影響 脱水、低栄養、褥瘡、転倒、横紋筋融解、静脈血栓塞栓症リスクを確認する 摂食・飲水・排泄・睡眠の実態を把握する
薬剤・物質歴 抗精神病薬、制吐薬、抗うつ薬、抗コリン薬、違法薬物などの変更歴を確認する 錐体外路症状、せん妄、離脱状態を考慮する

記録では、「午前10時から20分間、椅子に座ったまま右手で机を毎秒2回程度叩く動作を反復。質問には短文で応答し、中断を促すと数秒止まるがすぐ再開。『意味はない』と述べる。水分摂取は保たれている」といった形で、時間、頻度、介入への反応、患者の説明、身体的影響を記載すると、チーム内での共有と経時比較に役立ちます。
カタトニアが疑われるときは、標準化された評価尺度の活用も検討します。British Association for Psychopharmacologyのコンセンサスガイドラインは、ベースラインのカタトニア所見をBush-Francis Catatonia Rating Scale(BFCRS)などの標準化された評価法で確認することを提案しています。尺度は診断の代替ではありませんが、症状数、重症度、治療後の変化を同じ枠組みで追跡するうえで有用です。


参考)https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/02698811231158232
Evidence-based consensus guidelines for the management of catatonia


鑑別診断:カタトニアと薬剤性症状を区別する

特に注意すべきなのは、抗精神病薬治療中に生じる錐体外路症状との鑑別です。アカシジアは内的な落ち着かなさと運動衝動を主徴とし、足踏み、歩き回り、座位保持困難などとして現れます。患者が「じっとしていられない」「脚がむずむずする」と表現することがあり、非目標的な反復運動に見える場合があります。一方、常同症では、必ずしも強い主観的焦燥や運動衝動が前景化せず、比較的一定の型で行動が反復されることがあります。抗精神病薬の開始・増量直後に出現または悪化していないか、内的苦痛を言語化できるか、歩行や姿勢の異常、振戦、筋強剛、ジストニア、遅発性ジスキネジアがないかを確認します。抗精神病薬の副作用として、アカシジア、ジスキネジア、ジストニアを含む錐体外路症状が生じ得るため、治療中は継続的なスクリーニングが必要です。


参考)https://www.nice.org.uk/guidance/cg178/documents/psychosis-and-schizophrenia-in-adults-draft-nice-guideline2

  • 強迫症状では、不安や不快感を低減する目的、侵入思考との結び付き、行為の不合理性への洞察の有無を確認する
  • チック症では、急速で反復的な運動または発声、前駆衝動、一時的な抑制可能性を確認する
  • 自閉スペクトラム症に伴う常同行動では、幼少期からの持続、感覚調整や興奮時の増悪、発達特性との連続性を確認する
  • せん妄では、急性発症、注意障害、意識水準や認知の変動、感染症・代謝異常・薬剤影響を確認する
  • 神経疾患では、急性の神経学的徴候、頭痛、発作、発熱、自律神経症状、局在徴候を確認し、必要に応じて身体診察・検査を行う

悪性カタトニアや悪性症候群との鑑別・重複にも注意を要します。発熱、自律神経不安定、意識変容、著明な筋強剛、CK上昇、脱水、摂食不良などを伴う場合は、精神症状の評価と同時に緊急性の高い身体管理が必要です。常同症がある患者で経口摂取や移動能力が低下しているときには、褥瘡、誤嚥、深部静脈血栓症、肺塞栓、低栄養などの二次的合併症も評価対象となります。


統合失調症患者への対応と治療の考え方

常同症への対応は、行動をただ抑えることではなく、原因仮説に基づいて安全性と治療可能性を評価することから始まります。まず、患者自身および周囲への危険、摂食・飲水・排泄・睡眠への影響、皮膚損傷、転倒、興奮や自傷他害への移行を確認します。症状が軽度で、患者の苦痛や機能障害が乏しく、明らかなカタトニアや身体的異常がなければ、行動パターンの観察、環境刺激の調整、安心感のある関わり、睡眠や不安の評価、治療歴の見直しを行います。
一方、カタトニアが疑われる場合は、漫然と抗精神病薬を追加・増量する前に、精神科専門医を含むチームで評価を進めます。国際的なカタトニア診療のコンセンサスでは、ベンゾジアゼピン系薬、特にロラゼパムと電気けいれん療法(ECT)が主要な治療選択肢とされ、ベンゾジアゼピンで寛解しない場合にはECTを用いることが推奨されています。ロラゼパム負荷試験は、診断が不確実な場面でカタトニア症状の反応性を評価する手段となり得ますが、呼吸抑制、鎮静、転倒、併用薬、身体状態を踏まえた医師の判断と適切なモニタリングが前提です。


統合失調症の薬物治療を見直す際には、陽性症状の再燃、陰性症状、薬剤アドヒアランス、薬剤性副作用、物質使用、睡眠、心理社会的ストレス、身体疾患を統合して判断します。統合失調症薬物治療ガイドライン2022は日本神経精神薬理学会と日本臨床精神神経薬理学会により作成され、2022年5月に発行されています。常同症そのものへの単純な一律処方ではなく、統合失調症の病態、カタトニアの有無、薬剤性症状の可能性、患者の既往と希望を踏まえた個別化が重要です。


参考)統合失調症薬物治療ガイドライン2022 - Mindsガイド…
統合失調症薬物治療ガイドライン2022


チームでの観察継続と安全な情報共有

常同症の臨床管理では、看護師、医師、薬剤師、作業療法士、心理職、精神保健福祉士など、多職種が異なる場面で得た情報を共有することが重要です。診察時には目立たない症状でも、食事前、服薬時、消灯後、対人刺激が多い時間帯などに増悪することがあります。逆に、特定のスタッフとの関わりや静かな環境、予定が予測できる状況で軽減する場合もあります。観察は患者を矯正するためではなく、症状の意味と負担を把握し、本人の尊厳を保ちながら安全を確保するために行います。
申し送りや診療録では、患者を「常同行動が強い」とラベル化するのではなく、具体的な行動、発現状況、患者の発言、介入への反応、身体的影響を記載します。たとえば「食前に廊下を往復する行動が30分以上持続。声かけには反応するが、座るよう促すと不安そうに『歩かないとだめ』と述べる。食事摂取は半量、水分は摂取可能」といった記録は、アカシジア、強迫的行為、妄想との関連、カタトニア性興奮などの仮説をチームで検討する基盤になります。
患者への説明では、「変わった行動」として否定するのではなく、「体が同じ動きを繰り返したくなる感じはありますか」「止めようとするとどのような苦痛がありますか」「薬が変わってから感じ方に変化はありましたか」と、非判断的かつ具体的に尋ねます。家族には、症状が意図的な怠慢や反抗ではない可能性、急な悪化や摂食低下、発熱、意識の変化、転倒、自傷他害の危険があれば早期に医療者へ連絡すべきことを伝えます。
常同症は統合失調症の経過中にみられ得る精神運動症状ですが、診断名だけで説明を完結させないことが重要です。カタトニア、薬剤性錐体外路症状、強迫症状、発達特性、せん妄、神経学的・身体的疾患を視野に入れ、反復行動の「形」「意味」「経過」「併存症状」「身体的影響」を丁寧に評価することで、見逃しを減らし、適切な治療と安全なケアにつなげられます。


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