「呼気に合わせて強く押せば痰が出る」と思っていると、肋骨骨折を起こすことがあります。

スクイージングとは、胸郭に手掌を当て、絞り込むように圧迫して排痰を促す徒手的手技のことです。 排痰法の原理原則として「湿度」「重力」「呼吸量と呼気の速度」の3つが挙げられますが、スクイージングはそのうち「呼吸量と呼気の速度」に働きかける手技に分類されます。
参考)スクイージングとは? 禁忌は? 排痰効果の上がる方法【写真解…
看護師が行うスクイージングの目的は、末梢の気管支に貯留した痰を、呼気時の圧迫によって中枢気道へと移動させることにあります。 つまり、いきなり吸引をするのではなく、「痰をある程度口元に近づけてから喀出・吸引を行う」という一連のケアの中に位置づけられる手技です。これは重要な考え方ですね。
参考)14.誤嚥への対応法:体位ドレナージ・スクイージング・ハフィ…
対象となる主な疾患は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)・気管支拡張症・肺炎・誤嚥性肺炎などで、自力での排痰が困難な患者に実施します。 近年は長期臥床による廃用症候群や人工呼吸器管理中の患者においても積極的に取り入れられています。
参考:スクイージングの基本的な理論と位置づけについて
スクイージングとは?禁忌は?排痰効果の上がる方法【写真解説】|ナース専科
禁忌の確認が最初の一歩です。スクイージングは胸郭への外力を加える手技であるため、以下の状態では絶対に実施してはなりません。
実施前には、バイタルサイン(特にSpO₂・心拍数・呼吸数)の確認と聴診によるアセスメントが必須です。 施行中も患者の表情・顔色・呼吸苦・疼痛の有無を観察します。
強く押せばよいというわけではありません。過剰な圧迫や全身の体重をかける圧迫は、患者に力みを生じさせ、胸郭の動きを阻害します。結果として排痰効果が得られないばかりか、肋骨骨折のリスクを高めます。 圧迫の強さは「胸郭の動きを少し助ける程度」が基本です。
スクイージングは、痰が貯留している肺区域に応じて体位と手の位置を変えます。これが最も重要なポイントです。
| 対象肺区域 | 体位 | 手の位置 |
|---|---|---|
| 両上葉 | 仰臥位 | 第4肋骨より上部に両手を左右対称に置く |
| 右上葉 | 仰臥位 | 第4肋骨より上部に両手を重ねて置く |
| 中葉・舌区 | 仰臥位と側臥位の中間位 | 第4〜第6肋骨に挟まれた部分 |
| 下葉 | 側臥位(患側上) | 中腋窩線と第8肋骨の交点より上部 |
| 下葉後肺底区 | 3/4腹臥位 | 第10肋骨より上部の背側胸郭 |
共通の手技ポイントをまとめます。
胸郭の動きと"同期"させることが排痰効果の肝です。 タイミングがずれると効果がゼロに近くなります。呼気が終わる直前(呼気終末)まで圧迫を続けることで、より末梢の痰を中枢側へ運ぶことができます。
参考:体位別の手技を動画で確認したい場合
スクイージング(排痰ケア)|動画でわかる看護技術|カンゴルー
体位ドレナージを先に行うのが原則です。 体位ドレナージだけでは排痰が不十分な患者に対して、追加の手技としてスクイージングを実施する、というのが正しい組み合わせの考え方です。
実際の一連のケア手順は次のとおりです。
参考)スクイージング・バイブレーション・ハッフィングの方法【呼吸リ…
つまり「体位ドレナージ→スクイージング→ハッフィング→吸引」が一連の流れです。ハッフィングとは、口を開けたまま「ハッ、ハッ」と強制的に呼気を出させる手技で、上気道へ痰を誘導します。 スクイージングで中枢側に移動させた痰を、ハッフィングでさらに喀出しやすくするという組み合わせが効果的です。
参考)スクイージング
体位ドレナージを省いて、いきなりスクイージングのみ行っても効果は限定的です。これは覚えておきたいですね。
参考:誤嚥への対応としての体位ドレナージ・スクイージングの組み合わせ解説
14.誤嚥への対応法:体位ドレナージ・スクイージング・ハッフィング|日本摂食嚥下リハビリテーション学会
訪問看護でスクイージングを行う場合、病棟と異なる固有の注意点があります。 病院では複数のスタッフで対応できますが、在宅では看護師1人で行うことが多く、アセスメントから実施・評価までの全工程を1人で担います。
参考)https://private-nurse2525.com/home-nursing-squeezing/
在宅での実施前確認として特に重要なのが、骨粗鬆症の有無です。 高齢の在宅患者には骨密度が低下しているケースが多く、通常の病棟患者より骨折リスクが格段に高くなります。主治医に確認するか、画像所見・内服薬(骨粗鬆症治療薬の有無)から推定することが安全管理の基本となります。
家族への指導に関しては、慎重な判断が必要です。 家族が見よう見まねで行うと、過剰な圧迫による肋骨骨折や不適切なタイミングによるSpO₂低下のリスクがあります。訪問看護師が行う技術であることを説明しつつ、家族が担うのは「体位の保持補助」や「痰が上がってきた際のハッフィング声かけ」に限定するのが現実的な指導内容です。
実施後の評価も重要なポイントです。呼吸音の改善(水泡音の消失・減少)・SpO₂の改善・患者の呼吸困難感の軽減が確認できれば、スクイージングが有効であったと判断できます。 改善が乏しい場合は、体位の選定や手の位置を見直す必要があります。
参考:訪問看護で行うスクイージングの実際と癒しのケア
訪問看護におけるスクイージングのスキル〜呼吸を整えるケアと手のぬくもり
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