
春季カタルは、アレルギー性結膜疾患のなかでも角膜障害を伴いうる重症型であり、強い眼そう痒感、充血、眼脂、羞明、巨大乳頭、角膜上皮障害などを呈する。単なる季節性アレルギー性結膜炎として市販点眼薬のみで対応を続けると、角膜病変の把握が遅れるおそれがある。治療では症状、結膜所見、角膜病変の有無に応じて、抗アレルギー点眼薬を基盤に、免疫抑制点眼薬やステロイド点眼薬を段階的に追加する。
日本眼科学会のアレルギー性結膜疾患診療ガイドラインでは、抗アレルギー点眼薬のみで効果が不十分な中等症以上の症例に免疫抑制点眼薬を追加し、それでも改善しない重症例にステロイド点眼薬を追加する考え方が示されている。したがって、「目薬の副作用」は薬剤ごとに一律に説明するのではなく、治療段階と病勢を踏まえて説明する必要がある。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/allergy-2_07.pdf
| 薬剤群 | 春季カタルでの位置づけ | 主に確認する副作用・問題 |
|---|---|---|
| 抗アレルギー点眼薬 | 基本治療、軽症から使用 | 一過性刺激感、しみる感覚、充血、眼瞼炎、過敏症 |
| 免疫抑制点眼薬 | 中等症以上、角膜病変を伴う症例で検討 | 眼刺激、熱感、異物感、流涙、感染症、角膜障害 |
| ステロイド点眼薬 | 強い炎症の短期コントロール | 眼圧上昇、白内障、感染症誘発、創傷治癒遅延 |
とくに春季カタルでは、治療を強めるほど局所副作用の観察重要度も上がる。患者・家族には「しみる」「ぼやける」といった自覚症状を聞くだけでなく、処方薬の名称、点眼回数、自己判断での中止・増量の有無、コンタクトレンズの使用状況まで確認したい。
日本眼科学会ガイドラインの治療の考え方と、ステロイド点眼薬使用時の注意点を確認できる参考リンクです。
日本眼科学会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン 第7章 治療
抗アレルギー点眼薬には、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、両者の作用を併せ持つ薬剤がある。春季カタルでは、クロモグリク酸ナトリウム、ペミロラストカリウム、アンレキサノクスなどが用いられるが、薬剤により効能・効果、用法、年齢条件は異なるため、製品ごとの添付文書確認が前提となる。
この群で多いのは、点眼直後の一過性眼刺激感、しみる感覚、眼痛、結膜充血、眼瞼炎である。クロモグリク酸ナトリウム点眼液では、点眼時の一過性眼刺激感、結膜充血、眼瞼炎、結膜炎が副作用として記載されている。また、極めてまれでも、呼吸困難、血管浮腫、蕁麻疹などを伴うアナフィラキシー様症状には注意を要する。
参考)クロモグリク酸Na点眼液2%「ファイザー」の基本情報(薬効分…
ペミロラストカリウム点眼液の国内臨床試験では、春季カタル患者を含む試験において、結膜浮腫、眼刺激、眼脂増加、眼瞼の粘着感、異物感、充血が報告されている。副作用頻度が低い薬剤であっても、「赤みが出たから効いていない」と即断することはできない。もともとの春季カタルによる炎症悪化、点眼刺激、保存剤への反応、感染合併を鑑別する必要がある。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/300237_1319735Q1071_1_09
春季カタルに対する免疫抑制点眼薬として、タクロリムス水和物点眼液、シクロスポリン点眼液がある。これらはT細胞の活性化に関わる経路を抑制し、アレルギー性炎症の制御を図る薬剤である。抗アレルギー点眼薬で十分に抑えられない症例において、ステロイドの使用量を減らす目的でも重要な選択肢となる。
一方で、患者がもっとも訴えやすいのは点眼時の局所刺激である。タクロリムス点眼液では、承認時に眼の異常感(眼部熱感、異物感、違和感)が44.2%、眼刺激が20.9%、流涙増加が11.6%に認められた。刺激感が治療開始早期に強くても、疾患活動性、角膜上皮障害、薬剤特性のいずれによるかを評価し、漫然と中止・継続を判断しないことが重要である。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2008/P200800009/380086000_22000AMX00017_B100_2.pdf
タクロリムス点眼液では、眼精疲労、眼乾燥、眼痛、眼充血、羞明、霧視、視力低下、角膜びらん・潰瘍、眼圧上昇などが副作用として挙げられている。さらに、ヘルペス性角膜炎、細菌性結膜炎、細菌性角膜炎などの感染症にも注意が必要である。免疫調節作用を持つ点眼薬である以上、「かゆみが治まらないので頻回に使う」という自己調整は避けるよう明確に伝える。
参考)タリムス点眼液0.1%の基本情報(薬効分類・副作用・添付文書…
シクロスポリン点眼液でも、眼刺激、角膜びらん・角膜潰瘍が1~5%未満、眼そう痒感、眼乾燥感、流涙、眼瞼炎、眼痛、結膜充血が報告されている。ヘルペス性角膜炎、麦粒腫、細菌性結膜炎、細菌性角膜潰瘍も副作用欄に記載されるため、痛み、羞明、視力低下、白色浸潤、急な眼脂増加を「いつものアレルギー」と扱わない姿勢が求められる。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051239.pdf
タクロリムス点眼液の臨床試験における副作用頻度を確認できる参考リンクです。
PMDA:タリムス点眼液0.1%に関する資料
ステロイド点眼薬は、激しい結膜炎症や角膜病変を伴う春季カタルで有効性が期待できる反面、眼圧上昇、白内障、感染症誘発という重大な眼局所副作用を伴う。特に小児ではステロイドレスポンダーとして眼圧が上昇しやすいことがあり、自覚症状だけに頼った安全管理は危険である。眼圧上昇は初期には無症候のことも多く、「痛くないから大丈夫」とは言えない。
ステロイド点眼薬のリスクは、成分、力価、投与頻度、治療期間、併用薬、患者の反応性で変動する。処方時には、治療の目的を「炎症を速やかに抑える短期介入」と明確にし、症状改善後は低力価への切り替え、回数漸減、中止を検討する。定期診察で眼圧、角膜、前房、感染徴候を確認することが、視機能を守るために不可欠である。
意外に見落とされやすいのは、ステロイドによる眼圧上昇と春季カタルの症状が別の問題として並行して進む点である。かゆみや充血が軽くなっていても、眼圧は上昇しうる。症状の改善は安全性の保証ではなく、眼圧測定を省略する理由にもならない。
充血、流涙、異物感、眼脂は、春季カタルそのものでも、薬剤による刺激でも、感染症でも起こる。そのため、単一症状から副作用と断定しないことが重要である。評価では、発症時期、片眼・両眼の別、点眼直後との時間関係、眼脂の性状、疼痛・羞明・視力低下、角膜上皮障害の有無を組み合わせる。
例えば、点眼直後の短時間のしみる感覚で、視力低下や強い疼痛を伴わず、診察所見も安定していれば、局所刺激として経過をみる場面がある。しかし、これまでになかった片眼性の疼痛、急速な視力低下、強い羞明、膿性眼脂、角膜混濁が出現した場合は、薬剤副作用だけでなく感染性角膜炎を念頭に置く必要がある。タクロリムスやシクロスポリンでは感染症の副作用が記載されているため、角膜の診察を伴わない電話対応だけで完結させることは避けたい。
| 所見 | 考えやすい状況 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 点眼直後の軽い刺激感 | 局所刺激、製剤特性 | 持続時間と程度を確認し、継続可否を診察で判断 |
| 眼瞼のかゆみ・発赤・皮疹 | 接触皮膚炎、過敏症 | 薬剤・点眼補助具・併用外用薬を見直す |
| 疼痛、羞明、視力低下 | 角膜障害、感染症、重症炎症 | 速やかな眼科的評価を行う |
| 無症候の眼圧上昇 | ステロイド反応 | 定期眼圧測定で検出する |
春季カタルの患者では、複数の点眼薬を併用することが少なくない。このとき、薬効だけでなく、点眼回数の増加、点眼手技の不安定さ、保存剤への反応が眼表面の刺激を増幅させる可能性がある。防腐剤として用いられるベンザルコニウム塩化物では過敏症が知られており、治療薬そのものへのアレルギーと決めつけず、製剤添加物も含めて確認する視点が必要である。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00058411.pdf
複数剤を使う場合は、原則として各点眼の間隔を十分にあけ、先に点眼した薬液が次の薬液で流れ出ないようにする。処方時に「何分あけるか」を具体的に説明しないと、患者は連続して滴下し、効き目が弱いと感じてさらに点眼回数を増やすことがある。これは副作用を増やすだけでなく、治療不応と誤認される原因にもなる。
春季カタルでは、症状が長期化するほど「効く目薬を探して使い足す」行動が起こりやすい。しかし、治療強化が必要な再燃なのか、副作用・感染・点眼手技の問題なのかで対応は異なる。副作用説明は不安を与えるためではなく、早期受診が必要な変化を患者・家族と共有し、安全に炎症を制御するために行う。