脊髄腫瘍は、脊柱管内で脊髄、脊髄神経根、髄膜、硬膜、あるいは周辺組織に発生する腫瘍性病変の総称です。局在は大きく、硬膜外、硬膜内髄外、髄内に分類されます。症候は腫瘍の良悪性だけでなく、発生高位、増大速度、脊髄・馬尾・神経根への圧迫様式、脊髄虚血や髄液循環への影響によって規定されます。
初期には症状が非特異的であり、頸椎症、腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、末梢神経障害、脊髄炎、多発性硬化症、筋骨格性疼痛などとして扱われやすい点が診療上の課題です。脊髄・馬尾への圧迫では、しびれ、感覚障害、筋力低下が出現し、知覚障害と運動障害が併存することがあります。また、圧迫部位より遠位で腱反射亢進を認めることは、脊髄障害を示唆する重要な神経学的所見です。日本整形外科学会:脊髄腫瘍
脊髄腫瘍は症状が年単位で緩徐に進行する例もありますが、転移性病変、出血、急速な腫瘍増大、病的骨折や脊椎不安定性を伴う場合には、短期間で神経症候が悪化することがあります。「慢性的な痛みだから緊急性は低い」とは判断せず、時間経過と神経所見の変化を分けて評価する姿勢が必要です。
脊髄腫瘍の初発症状としては、発生高位に対応する頸部痛、背部痛、腰痛、ならびに神経根に沿った放散痛が重要です。痛みは局所の鈍痛、灼熱感、電撃痛、夜間痛、体位変換時痛として訴えられることがあります。活動時に強い痛みだけでなく、安静時にも持続する痛み、徐々に増悪する痛み、通常の保存療法で説明しにくい痛みは、腫瘍性病変を含めた再評価の契機になります。
感覚症状では、手足のしびれ、触覚低下、感覚鈍麻、異常感覚、冷温覚や痛覚の異常などがみられます。髄内腫瘍では、脊髄中心部の病変により、触覚・位置覚が比較的保たれる一方で温痛覚が障害される解離性感覚障害を呈することがあります。ただし、症候のみで局在や組織型を断定することはできず、神経学的診察とMRIを組み合わせて評価します。日本脊髄外科学会:脊髄腫瘍(髄内腫瘍)
| 症状・所見 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 局所痛・放散痛 | 頸部、背部、腰部の持続痛や、上肢・下肢・体幹へ広がる疼痛 | 神経根圧迫や脊椎病変を示唆する。安静時痛・夜間痛・進行性疼痛にも注意する。 |
| 感覚異常 | しびれ、感覚鈍麻、異常感覚、温痛覚障害、感覚レベル | 左右差、体幹の感覚境界、症状の拡大速度を記録する。 |
| 運動障害 | 脱力、巧緻運動障害、痙性、筋力低下、易転倒性 | 手指操作の困難や階段昇降困難は頸髄・胸髄病変の手掛かりとなる。 |
| 反射異常 | 腱反射亢進、病的反射、または馬尾障害での反射低下 | 脊髄障害と末梢神経・神経根障害の鑑別に有用である。 |
| 膀胱直腸障害 | 尿閉、排尿困難、頻尿、尿失禁、便秘、便失禁 | 進行性脊髄圧迫または馬尾圧迫を疑い、緊急度を高く判断する。 |
頸髄レベルの腫瘍では、頸部痛、肩から上肢への痛み・しびれ、手指の巧緻運動障害、上肢または下肢の筋力低下、歩行のぎこちなさがみられます。胸髄レベルでは、背部痛に加え、体幹の締め付け感、下肢しびれ、痙性歩行、歩行距離低下などが手掛かりとなります。腰椎レベルや馬尾近傍では、腰痛、下肢痛、坐骨神経痛様の痛み、下肢のしびれや脱力が前景に立つことがあります。脊髄腫瘍による神経圧迫では、疼痛、しびれ、脱力、歩行障害、排尿障害が生じ得るとされています。東京都立神経病院:脊髄腫瘍
初期評価では、痛みの部位と性状だけではなく、いつから、どの順序で、どの速度で症状が拡大したのかを時系列で確認します。たとえば「数か月前から片側手指のしびれがあり、最近は箸の操作が難しく、階段で脚がもつれる」という経過は、単純な局所疼痛として処理せず、頸髄病変を含めた中枢性障害を念頭に置くべき情報です。
とくに排尿・排便障害、急速に進む筋力低下、歩行不能に近い状態、会陰部感覚低下を認める場合は、脊髄圧迫または馬尾圧迫の可能性を考え、外来で経過観察を続けるのではなく、当日中を含む迅速な画像評価と脊椎脊髄専門医・脳神経外科・整形外科への連携を検討します。脊髄腫瘍でみられる症候には、背部から四肢へ放散する痛み、筋力低下やしびれ、歩行障害、排尿障害・便通異常が含まれます。NCI:Rare Brain and Spine Tumors
脊髄腫瘍の初期症状は、日常診療で頻度の高い変性疾患や末梢神経障害と重なります。鑑別では、症候が単一神経根の分布に収まるか、長索路徴候を伴うか、上肢と下肢の症候が組み合わさるか、感覚レベルがあるか、左右差や進行性があるかを確認します。たとえば腰痛と下肢しびれがあっても、腱反射亢進、痙性歩行、胸部以下の感覚異常を伴うなら、腰椎のみの病変に限定せず、胸髄・頸髄を含む評価を考える必要があります。
画像診断の中心はMRIです。脊髄・馬尾・神経根・硬膜内外の位置関係、脊髄圧迫の程度、髄内信号変化、嚢胞性変化、造影効果、椎体病変や傍脊柱軟部組織への進展を評価します。病変の局在が不明瞭で多椎体レベルの症候がある場合や、転移性病変を疑う場合には、症状の責任高位だけに撮像範囲を狭めず、臨床像に応じてより広い脊椎MRIを検討します。
単純X線やCTは骨破壊、石灰化、脊椎不安定性、椎体病変の評価に役立ちますが、脊髄実質、硬膜内病変、神経根圧迫の評価ではMRIを代替できません。MRIが禁忌または実施困難な場合は、状況に応じてCTミエログラフィーなどを検討します。なお、脊髄炎や多発性硬化症などでも感覚障害、筋力低下、麻痺を呈し得るため、腫瘍を疑う場合も炎症性・脱髄性疾患を含めた鑑別を並行して進めます。日本整形外科学会:脊髄腫瘍の鑑別に関する解説
患者説明では、「脊髄腫瘍を強く断定する段階ではないが、神経を圧迫する病気を除外するために精査が必要である」と、症状と検査目的を分けて伝えることが重要です。腫瘍という語だけで過度な不安を生まないよう配慮しつつ、進行した神経障害は回復が限定的となる場合があるため、画像評価や専門紹介を先延ばしにしない意義を具体的に説明します。
紹介状には、症状の発症時期、増悪速度、痛みの分布、夜間痛・安静時痛の有無、感覚障害の範囲、MMT、腱反射、病的反射、歩行所見、膀胱直腸症状、悪性腫瘍の既往、実施済みの画像検査と治療内容を明記します。とくに「いつまで歩けていたか」「尿が出にくくなった時点はいつか」「片側から両側へ拡大したか」といった経過情報は、緊急度や治療方針を判断するうえで有用です。
外来フォローを行う場合でも、歩行能力、手指巧緻性、感覚レベル、筋力、排尿・排便状況を同一の観点で反復記録し、悪化を早く検知できる体制を整えます。脊髄腫瘍は無症候で偶発的に発見されることもある一方、神経圧迫が進むと四肢麻痺、感覚障害、歩行障害、排尿障害へ進展し得ます。症状の「有無」だけではなく「変化」を重視し、進行性の神経症候を捉えた時点でMRIと専門的評価へ確実につなげることが、初期診療で最も重要な対応です。日本脊髄外科学会:硬膜内髄外腫瘍