
性腺機能低下症とは、男性の精巣(睾丸)が十分なテストステロン(男性ホルモン)や精子を産生できない状態を指します。 日本では「LOH症候群(加齢性男性性腺機能低下症)」としても知られ、40代後半から60代を中心に発症しやすい疾患です。
参考)https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/male-hypogonadism/symptoms-causes/syc-20354881%C2%A0
テストステロンは男性の二次性徴(声変わり、ひげの発生、筋肉の発達など)を促し、性欲や勃起機能、筋肉量、骨密度、精神状態など多岐にわたる身体機能を維持する重要なホルモンです。 このホルモンが不足すると、身体的・精神的・性機能の多方面に症状が現れます。
参考)テストステロンとは?性欲・EDと筋トレ|基準値と増やし方|竹…
性腺機能低下症は「一次性(精巣自体の障害)」と「二次性(脳からの指令不足)」に分類され、原因によって治療アプローチが異なります。 一次性はクラインフェルター症候群や精巣炎、外傷などが原因となり、二次性は視床下部や下垂体の疾患、肥満、ストレス、薬物副作用などが関与します。
参考)Male Hypogonadism Diagnostic A…
性腺機能低下症の症状は多岐にわたり、個人差が大きいのが特徴です。主な症状を3つのカテゴリーに分けて解説します。
身体的変化
精神的変化
性機能変化
これらの症状が複数同時に現れ、血液中のテストステロン値が基準値以下の場合、性腺機能低下症の可能性が高まります。 特に「最近、疲れが取れない」「何をするにもやる気が出ない」「性機能に以前と違う影響を感じる」といった経験がある場合は注意が必要です。
参考)男性更年期障害の診断と治療方針|立川パークスクリニック公式
性腺機能低下症の診断は、「症状+テストステロン低値の確認」が基本です。 日本泌尿器科学会と日本男性学会のガイドラインでは、以下の基準が採用されています。
診断基準(日本)
診断の流れ
1. 問診と症状評価:AMSスコア(加齢男性症状評価尺度)などを用いて症状を定量化します。
参考)【医師監修】テストステロンを増やす方法|男性更年期の症状・基…
2. 血液検査:早朝(午前10時以前)の空腹時に採血し、総テストステロンを測定します。
3. 再検査:初回検査で低値の場合、2〜4週間後に再度早朝空腹時採血を行い、持続的な低値を確認します。
4. 追加検査:必要に応じて遊離テストステロン、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、プロラクチンなどを測定し、一次性か二次性かを鑑別します。
参考)https://0thclinic.com/medical/mens-health/labs
検査の注意点
一次性性腺機能低下症は、精巣自体の障害によりテストステロン産生が低下する状態です。 主な原因は以下の通りです。
先天性要因
参考)男性特有の二次性徴がこない「類宦官症」どのような原因で起こる…
後天性要因
参考)テストステロンが少ない男性の特徴は?顔つき・症状のセルフチェ…
一次性性腺機能低下症では、精巣からのテストステロン産生が低下するため、脳からのフィードバックによりLH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)が高値となるのが特徴です。
二次性性腺機能低下症は、視床下部や下垂体からの指令(GnRH、LH、FSH)が不足し、精巣が正常でもテストステロン産生が低下する状態です。
参考)性腺機能低下症
肥満関連二次性性腺機能低下症(MOSH)
近年注目されているのが「男性肥満関連二次性性腺機能低下症(MOSH)」です。 肥満、特に内臓脂肪型肥満は、性腺機能低下症の大きな原因の一つとして知られています。
肥満によって以下のメカニズムが働きます。
MOSH治療の第一選択は、「生活習慣改善による減量」です。 減量により、多くの場合テストステロン値は可逆的に改善します。
参考)男性肥満関連二次性性腺機能低下症(MOSH)・テストステロン…
その他の二次性原因
生活習慣の乱れは、性腺機能低下症の発症と進行に深く関与しています。
睡眠不足
テストステロンの分泌は睡眠中にピークを迎えます。 睡眠時間が6時間未満の男性では、テストステロン値が有意に低下することが報告されています。 特に睡眠時無呼吸症候群を合併している場合、低酸素状態と睡眠の分断化により、テストステロン産生がさらに抑制されます。
運動不足
定期的な運動、特に筋力トレーニングはテストステロン分泌を促進します。 逆に、運動不足は筋肉量減少と内臓脂肪増加を招き、テストステロン低下の悪循環を引き起こします。
栄養バランスの偏り
ストレス管理
慢性的なストレスはコルチゾール分泌を増加させ、テストステロン産生を抑制します。 マインドフルネス、瞑想、趣味の時間など、ストレス軽減のためのアクティビティを取り入れることが重要です。
テストステロン補充療法(TRT)は、臨床的に性腺機能低下症と診断された男性に対して行われる標準的な治療法です。 TRTは、体内で十分なテストステロンが産生されていない状態に対し、医学的に補充を行う治療法であり、アスリートが使用する筋肉増強目的の合成代謝ステロイドとは異なります。
参考)テストステロン補充療法(TRT):適応・効果・リスクを徹底解…
TRTの適応基準
TRTは以下の3つの条件をすべて満たす場合に適応となります。
1. 少なくとも2回の早朝血液検査で総テストステロンが持続的に300 ng/dL(10.4 nmol/L)未満(日本では250 ng/dL以下)
2. テストステロン不足に起因する症状(性欲低下、ED、疲労感、筋肉量減少、気分の変化、骨密度低下など)が一つ以上存在する
3. 治療の禁忌がない(前立腺がん・乳がんがない、近い将来の妊孕性希望がない、未治療の重度睡眠時無呼吸症候群がない、ヘマトクリット値が正常範囲内)
TRTの製剤と投与方法
参考)男性の&#2635…
参考)男性ホルモンとEDの関係 不足するとどうなるか❘ヒロクリニッ…
参考)Testosterone Evaluation and TR…
TRTの効果
TRTの効果は数週〜数ヶ月で徐々に現れ、継続が前提となります。 報告されている効果は以下の通りです。
TRTの費用
日本ではTRTは自由診療となるため、保険適用外です。 費用はクリニックによって異なりますが、月数万円が目安となります。
参考)【専門医監修】EDに対するテストステロン補充療法(TRT)と…
TRTと並行して、またはTRTの前に試すべきなのが生活習慣改善です。 特にMOSH(男性肥満関連二次性性腺機能低下症)では、減量によりテストステロン値が可逆的に改善することが期待できます。
減量と食事管理
運動療法
睡眠改善
ストレス管理
TRTや生活習慣改善に加え、症状に応じて以下の薬物療法が併用されることがあります。
ED治療薬の併用
テストステロン値が低い男性のEDには、TRT単独よりもPDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィルなど)との併用が効果的であることが報告されています。 TRTは性欲と勃起機能の「土台」を整え、PDE5阻害薬は勃起の「メカニズム」を直接改善するため、相乗効果が期待できます。
漢方薬の併用
日本では、TRTと併用して漢方薬が処方されることがあります。 補中益気湯、八味地黄丸、桂枝茯苓丸などが疲労感、気分の落ち込み、ほてりなどの症状改善に用いられます。
その他の薬物療法
性腺機能低下症とTRTに関する意外な事実として、近年の大規模研究で「TRTを受けた65歳以上の性腺機能低下症男性では、TRTを受けていない患者と比較して前立腺がん(PCa)発症リスクが16%有意に低下する」ことが明らかになりました。
これは従来の「テストステロンは前立腺がんを促進する」という仮説(Huggins仮説)と相反する結果です。 一方、良性前立腺肥大症(BPH)のリスクは13%増加することが報告されています。
この発見の背景には、以下のメカニズムが考えられています。
ただし、この研究は後ろ向きコホート研究であり、因果関係を証明するものではありません。 TRTの適応は、依然として前立腺がんの既往がない男性に限られます。 しかし、この知見は「テストステロン補充療法=前立腺がんリスク増」という従来の認識を覆すものとして、今後の研究が注目されます。
参考)https://www.ofnoah.jp/blog/testosterone-replacement-therapy-trt-koka-risuku
テストステロン補充療法、高齢男性の前立腺がんリスク16%減少(CareNet Academia)
性腺機能低下症は早期発見・早期治療が重要です。 以下のセルフチェック項目に3つ以上該当する場合は、医療機関での検査を検討してください。
AMSスコア簡易版(加齢男性症状評価尺度)
【医師監修】テストステロンを増やす方法|男性更年期の症状・検査・治療(セルグランドクリニック)
性腺機能低下症の予防には、以下の生活習慣が効果的です。
定期的な健康診断
参考)【泌尿器科専門医解説】40代から始める男性ホルモン検査|テス…
適正体重の維持
禁煙
適度なアルコール摂取
社会的交流の維持
テストステロン補充療法(TRT):適応・効果・リスクを徹底解説(OFNOAH)
性腺機能低下症(ピースクリニック)
LOH症候群(加齢性男性性腺機能低下症)(川原 腎・泌尿器科クリニック)